二、彼との出会い
一夜明け、差し込む太陽の光に目が覚めた。
海斗はものもらいを避けるために手の甲で重い目をこすりながら立ち上がると、大きく体を伸ばした。
「ん〜...いつの間にか寝ちまってたな...」
コンクリート製の塀の外から町を眺めた。
その景色はまるで色あせた写真のようで、鉄筋コンクリートの建物以外は跡形もなく消失してしまった。
「とりあえず...家まで戻るか...」
そう呟いて立ち上がると、家があったと思われる方向へ向かった。
海斗は家の近くにある丸石の防火水槽を目印に探し、30分ほどで家の近くまでたどり着いた。
1つの敷地に燃えずに残った自身の茶碗が転がっているのに気づき、瓦礫をガサゴソと探ると、かつて生活で使用していた道具たちがみるみる溢れてきた。
母の茶碗、数少ない弟のおもちゃ、そして自分がよく読んでいた本も奇跡的に残っていた。
「...これから、どうしたらいいんだろうな...」
自分を助けてくれた男性、杉本さんの元を訪ねようにも、ここから港町までは町ひとつくらい離れている。徒歩では到底時間がかかるし、こんな状況で電車が運行されるわけがない。
そう思いながら、ただ青い空を見上げた。
食料と水は持出袋の中に1週間ぶん程。万が一の為に防空壕の中にも少し蓄えてあったが、昨夜の空襲で防空壕が崩壊し、全て燃えていたためにとても食べられる状態では無かった。
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1週間後
「腹減ったな...」
持出袋の食料もいよいよ底を尽き、海斗はかなり危機迫った状況にあった。
少食と言えど食べ盛りな16歳の彼には1週間の備蓄など長くて3日ほどであっという間に平らげてしまいかねない。
おまけに春の日差しは暖かいを通り越して時に暑さを感じさせ、体内の水分を枯渇させた。
「キンキンに冷えたラムネが飲みてぇな...」
澄んだように青い空を見上げながら呟いていた時だった。
「おぉーい、お前生きてるか?」
自分の目の前に、1人の男性が顔をぬっと出したのである。
自分より少し年上...二十歳前後くらいの青年だろうか。海斗はそんな事を考えていた。
「ほい、コレやるよ」
青年が差し出したのは瓶に詰められた水だった。海斗はその瓶を受け取るとグビグビと音を立てて飲み干した。
「お前、すんげー水欲しそうにしてたもん。ひと目で分かったぞ」
「...お兄さんは、誰?」
見ず知らずの存在に警戒する小動物のように、海斗は顔を顰める。
青年は驚いたような顔をして再び口を開いた。
「ははっ、自己紹介がまだだったな。俺は翔...鷹野 翔だ。...お前は?」
「俺はお前って名前じゃない、海斗...川野 海斗だ」
「そうか、海斗か。...よし、俺の家に来いよ」
「...は?」
「ここにいたって飢え死にするだけだ。俺の家に来れば食料も水もある。...ちょっとだけなら甘味もな」
「甘味!?」
甘い物が好きである海斗はつい本心を見せてしまったが、翔はむしろ嬉しそうな様子だった。
「よろしくな、海斗」
「よろしくお願いします...翔さん」
「さん付けはよせよ、俺達は兄弟なんだから。兄さんとでも呼んでくれ」
「...!うん...」
海斗は初対面の相手に緊張しながらも、ついて行くことを決めてその足を前に踏み出した。
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