可愛い生徒会長
瑞葉
第1話
そのカフェに入ると、俺は途端に居心地悪く感じた。大正モダンなのか昭和レトロなのか。古き良き日本を思わせた内装。
店内の椅子には山吹色や藍色の座布団がクッションがわりに敷かれている。
俺は思わず、そこに腰掛けてしまったが、果たして座ってよいのか、と思うくらいにフカフカなものだ。
「居心地悪い。すごく」
俺、忍田廉(しのだ・れん)は正直に口にする。お相手の結衣(ゆい)ちゃんはふわりと笑い、そんな俺を許してくれた。
「くつろいでくださいませ」
お店の従業員でもないのに、そんなことを言って、笑ってる。
結衣ちゃんが手渡してくれたメニューに目を通すが、文字が多すぎて内容把握が追いつかない。
「わらび餅、抹茶あずき、チーズケーキ。あー。もう、何が何だか」
頭を抱えてしまった。俺にとっては、生徒会長として、日々、エクセルやワードで打っている「数字」や「業務日誌」の方が、「日常」なんだ。
こんなフワフワした世界は、俺には似合わない。だから。告白を断ろう。
「抹茶レアチーズケーキが美味しいんですよぉ。ここ」
俺の気持ちも知らずにか。結衣ちゃんは笑って、そんなことを言う。少し伸び始めたショートカットの毛先が、ふわりふわりと、彼女が動くたびに細かい動きで踊る。
「もしくは、わらび餅の乗ったスペシャルパフェもありますよ」
「それ、食えるの? 本当に」
俺はごくりとツバを飲み込んでいた。
「はい。忍田先輩。じゃあ、わたしもおなじの頼みますねー」
高校一年生の彼女は、店員さんに慣れた様子で、「わらび餅の乗ったスペシャルパフェ」と、サービスの抹茶をオーダーしてる。
「先輩の彼女に、これでなれますか?」
結衣ちゃんは笑って、そう聞いてきた。
俺は断ろうとした。だって、俺は、、、。
「じゃあ、よろしくな」
断れなかった。俺は、生徒会長。だけれど、甘党だ。
ブラックコーヒーなんて飲んでるのは仮の姿だ。
俺が飲みたいのは、女子が飲んでるようなフラッペだし、俺が食べたいのは、そう。ちょうどこんな。
「わらび餅が本当に、パフェに乗ってるんだ」
「先輩、驚きすぎですよ」
結衣ちゃんは笑って、驚きすぎの俺と、パフェとの2ショット写真を撮る。
「今日は5月4日ですよ。結衣と付き合った記念日。忘れないでくださいね」
結衣ちゃんは、俺に「指切りげんまん」をさせた。
「じゃあ、俺たちもさ、2ショット、とろうよ」
おずおずと俺は結衣ちゃんに頼む。結衣ちゃんはパァッと笑顔になり、俺たちは「2人」の写真を撮った。
✳︎ ✳︎ ✳︎
連休明けの生徒会は、来月の決算資料を作るのでバタバタしていた。もはや、生徒会というよりどこかの会社だ。しかも、会長の俺は副会長や書記に指示を出す立場だ。
ピロン、と俺のスマホに通知が届く。
温かな思いが、その途端に湧いてくる。
ちゃんと乗り切って、また今週末も、家が近所のあの子と、可愛いカフェでデートするんだ。
可愛い生徒会長 瑞葉 @mizuha1208mizu_iro
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