第4話 酔っぱらいの宿

「ねぇ、火もってる?」


 カクテルを呑んでいたグミちゃんが、唐突に言うので、


「えっ、持ってないけどなにするの」


 いつもは持ってるけど、たまたま切らしちゃって。


「あっそ。ほっ!」


 グミちゃんの、人差し指から火が出て、咥えているタバコにつけようとしているので、


「えっ、吸うの!? てか、なんで指から火がッ?」


 肩を掴んで、引き離す。


「えっ、ここ吸ってイイよね?」


 タバコを咥えたまま、マスターに聞くグミちゃん。


「大丈夫です」


 ニコッと笑うマスター。


「いや、さすがに未成年が」


 頭が、混乱するわ。


「あっ、そう?」


 不服そうに、灰皿に入れるグミちゃん。


「それに、どうやって指から火を出したの?」


 そっちの方が、よっぽど知りたいわ。

 ビックリ人間じゃあるまいし。


「お酒に酔って、まぼろしでも見たんじゃないのけ?」


 カクテルを、飲み干すグミちゃん。


「そんなに、酔うほど呑んでないわ」


 まだ、全然よ。


「本当に、そうかな~」


 ジッと、目を見てくるグミちゃん。


「あー、大丈夫。ん? なんだこれ~ぇ」


 急に、景色が回りだしたぞ!?


「マスター、酔ったっぽいので帰ります」


 グミちゃんが、そう言うので、


「ああ、大丈夫?」


 わたしの心配をするマスター。


「じぇんじぇん酔ってなひ」


 あ~回る~。


「大丈夫です。ワタシが介抱するので」


 グミちゃんが、わたしを抱えて無理やり立たせる。


「ダメそうなら、すぐ救急車を呼んでね」


 重症っぽいので、本当に心配するマスター。


「救急車? あーはい」


 首を、かしげるグミちゃん。


「ホント大丈夫かなー」


 ヨロけながら出る2人の姿を、見守るマスター。


「さあ、プロデューサーさん。歩きますよ」


 並木道を、フラフラと歩く。


「もう、歩けなーい」


 グミちゃんに、ささえられているのがシャクだわ。


「こんなところに寝たら、風邪ひきますよー」


 地面に、へたりこむわたしを見るグミちゃん。


「も~、ほっといて~」


「ちょっと、魔法をかけすぎたかな。えぃ」


 また、魔法をかけるグミちゃん。


「ぅわ、なんか浮いて」


 なに、この浮遊感。


「さあ、歩きましょう!」


 両手を、広げるグミちゃん。


「なに、なにコレ」


 足が、勝手に動くわ。


「さあ、いっちにー」


 グミちゃんの、手の動きに連動して足が動くけど、地面にはついていない。


「小舟に、乗ってるみた………ヴッ!」


 船酔いか酒か、わからない。


「ヤバい。とりあえず、ここに入りましょ」


「ちょっ。ここラブホじゃないのよ………う゛っっ」


 なんてとこに、引っ張りこむのよぉ~。


「さっ、早く入って入って」


 行きたくないけど、コントロールが効かない。


「わるいわね。こんな酒に弱くな………」


 部屋に入ると、一気にしんどくなり、


「こっち、はいッ」


「ウー」


 便器を、抱く。


「スッキリした?」


 不安そうに、わたしの顔を見るグミちゃん。


「………うん、もうスッキリしたわ」


 あー、あぶないあぶない。


「よかった。ここ座って」


 ベッドの枕元に座って、左手をポンポンとベッドに当てるグミちゃん。


「うん」


 ベッドに乗って、グミちゃんの横に座る。


「だいぶ、落ち着いたみたいね」


 わたしの、右ふとももに手を乗せるグミちゃん。


「そっ、そうだな………あれさ、例の件」


 気まずくなって、つい口がすべってしまって、


「えっ、なぁに?」


 わたしの目を見るグミちゃん。


「実は昨日、番組プロデューサーと会うことが出来てさ」


 言うつもりないのに、言ってしまった。


「うん、それでそれで?」


 興味津々のグミちゃん。


「言うなって、口止めされてはいるんだけど、新しい戦隊ものをモチーフにした企画があるみたいで」


 ヤバいな。

 やっぱり、言うのやめとこう。


「えっ、なにそれ気になる~」


 魔法をかけるグミちゃん。


「その企画で、女優かアイドルをネリモンズと一緒になって、戦うメンバーとして選考しているみたいなの」


 わー、言っちゃった。


「なにそれやりたい!」


 目を、輝かせるグミちゃん。


「前に、能面ライダーのパロディがあったじゃん。覚えてない?」


 ネリモンズの、ハシタカが怪人役でノジが弱いヒーローを演じる。


「えーっと………」


 ピンときていないグミちゃん。


「チビノジダーって、かわいかった」


 もしかして、知らないかな?


「あー、はい」


 そりゃまた失礼。


「たぶん、そんな感じになると思うんだよね」


 伝わってないっぽいけど。


「それ、やりたい! なんとか、ねじこんで!」


 懇願するグミちゃん。


「えー。でも、そんな力ないよ。一応、それとなしに言ってはみたけど」


 たぶん、感触から言って松原ななこに決まりそうだし。


「大丈夫。もう1回言ってみてよ」


 もっと、プッシュするように言うグミちゃん。


「う~ん」


「おねが~い」


 顔を、近づけてくるグミちゃん。


「うん、プッシュしとくけど期待しないでね」


 顔を、そむけるわたし。

 なぜか、ドキドキする。


「うん、わかったわ。先にシャワーあびる?」


 わたしの肩を、つんつんするグミちゃん。


「………はぁ? なにを───」


 ちょっと、わたしをからかってるの?


「それじゃあ、そのままする? キャッ!」


 握った両手で、口を隠すグミちゃん。


「キャッ、じゃねぇし。なにを」


 ヤバいな、コイツ。


「プロデューサーさーん」


 キスしようとするグミちゃん。


「ちょっ、冗談はやめてよ」


 すんでのところで、かわす。


「………それじゃ、ギュッとだけしてください」


 上目遣いで、見てくるグミちゃん。


「えー、仕方ないなぁ~」


 そんな目で見るなよ~。


「イイでしょそれくらい」


 わたしの右腕に、しがみつくグミちゃん。


「………わかったわよ。ギュッとするだけ

よ?」


 それぐらいなら、大丈夫かも。


「うん」


「………あぁぁん。ちょっ、耳に息かけないでよ」


 弱いのよ。


「アハッ!」


 いたずらっこぽく笑うグミちゃん。


「んー、もう酔いがさめちゃったから出よ?」


 一泊するつもりないわよ。

 変な気を、おこしそうだし。


「う~ん、そうね」


 仕方なく、納得するグミちゃん。


「やっべ。飲みなおしてたら終電にギリギリだぁ」


 メンバーの1人が、寿司屋のあとでファミレスですごして、走って駅に向かっていると、


「楽しかったね」


 グミちゃんと、わたしがホテルを出る。


「どこが」


 つっこむわたし。


「あれ、プロデューサーさんとグミちゃんじゃね?」


 その、わたしたちをメンバーの1人が目撃する。


「ウフフ」


 屈託なく笑うグミちゃん。


「なんで? ここラブホじゃん」


 目玉が、飛び出しそうになるアイドル。


「グミちゃん、タクシーで送るよ」


 大通りで、右手を挙げる。


「イイの? ヤッター」


 跳びはねるグミちゃん。


「えっ、あの二人って………」

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