第3話 息抜き

「この世界に来て、シースーが一番好き~」


 次の日、グミちゃんを連れて寿司屋さんに行く。

 カウンター席に座ると、グミちゃんがそう言うので、この業界に入る前に食べたことなかったんだなと思う。


「あー、それはようござんすね」


 色々、境遇はあるよね。


「でも、なんで他のメンバーも来てるのよ?」


 夕日ニャンニャーの、他のメンバーも呼んでいる。


「「ごちそうになりまーす」」


 メンバーが、そう言う。

 まぁ、食事代は局が出してくれるけど。


「そりゃあ、あなただけ食べさせるわけには、いかないでしょう。しょーう!」


 グミちゃんに、そう言うと、


「はいはい。まぁイイわ。いただきまーす」


 そう言うと、次々と寿司をほおばるグミちゃん。


「おう、喰いねぇー」


 美味しそうに食べて、かわいいな。


「う゛ーん、サビがきくー」


 フレッシュな反応を見せるメンバー。


「まだ、若いキミらには早いかぁ~」


 あーまだまだだな~。


「ワタシは、もうちょっと強くてもイイけどね」


 グミちゃんには、あまり効いてないのか。


「おお、イケるね」


 この子、そっち系も狙ってるのかしら。


「大将!」


 右手を上げるグミちゃん。


「はい!」


 握りながら、返事する寿司屋の大将。


「ここ、イモとムギどっち置いてる?」


 お酒の話をするグミちゃん。


「あんた、飲むの?」


 ビックリするわたし。


「麦焼酎と、日本酒がありますよ」


「それじゃムギで」


「へい」


 弟子に、指示する大将。


「あ~、呑むんだ?」


 まさかね。


「日本酒でも、よかったけどね~」


 ニコッと笑うグミちゃん。


「いや、そういう意味じゃなくて………」


 あれ、伝わってない?


「泡は、どうもお腹にたまっちゃって」


 苦笑いするグミちゃん。


「へい!」


 出されたグラスを掴むグミちゃん。


「そうなんだ………」


 なに、ボケで言ってるの?

 でも、普通に呑んでるわね。


「大将、もう1杯」


「ちょっと、そんなに呑んで大丈夫?」


 わたしのとなりで、ハイペースで焼酎をあおるグミちゃん。


「え~、このくらい平気ですよ」


 頬が、ほんのり赤くなっている。


「お客さん、イケるねぇ~」


 大将が、せわしなく握りつつ言うと、


「うん、何杯でもオッケーよ」


 オーケーサインを出すグミちゃん。


「やめときなさい! 大将、お勘定!」


 この大切な時期に、週刊誌にでも撮られたらどうするのよ。


「へい」


「領収書も」


「へい」


「うわ、すごい金額」


 食事代に、ビックリするわ。


「「ごちそうさまでした~」」


 メンバーが、声をそろえる。


「はいは~い」


 これ、ちゃんと落ちるよね………

 コワっ。


「それじゃあ、二次会に行こうぜ」


 グミちゃんが、そう言うので、


「えっ、また呑むんじゃ………」


 さらに、心配になるわたし。


「あの、あたしたちは朝早いんで帰ります」


 メンバーは、気を使って帰ると言って、


「あー、そうよね。おつかれちゃ~ん」


 手を振るわたし。


「「お疲れさまでした~」」


 ペコリと、頭を下げて帰っていくメンバー。


「フフフ。やっと二人きりになれたね」


 ニヤリと、笑うグミちゃん。


「やめなさい。気味悪い言い方」


「へぇ~、イイ店じゃん」


 わたしの行きつけにしているBARに、連れて行きカウンター席に座る。


「あまり、キョロキョロすんなよ」


 そうでなくても、子供みたいに見えるグミちゃんを連れて来てるのに。

 目立ってしょうがない。


「なーに? いつも、誰と来てるの~?」


 ニヤニヤと、わたしの顔を見るグミちゃん。


「詮索するなよ。わたしだって一人で呑みたい時もあるのよ」


 隠れ家に使っているのに、コイツを連れて来ることになるとは。

 別を探そ。


「へぇ~、そうなの」


 目を、細めるグミちゃん。


「なんだよ、その目は」


 疑ってるな。


「それはそうと。あれ、北の街からのパロディーに出たいの」


「それこそ無理ね。で、なに呑むの?」


 そんなの、無名なアイドルが出れるわけねーよ。


「バーボン───」


 と、グミちゃんが言いかけるので、


「やめなさい。カクテルにしないと後で、もみ消せないでしょ」


 ノンアルに見えないと、誤魔化せないでしょうが。


「は~い。じゃあーカシオレで」


「この子って、未成年じゃ?」


 若いマスターが、聞いてくるので、


「うん、まぁ作ってあげて」


 苦笑いするわたし。


「はーい」


「わたしは、いつもので」


「はーい」


「それでさ、ワサビのロシアンルーレットみたいなのも、やりたいのよ」


 なにがなんでも、名前を売りたいと言うグミちゃん。


「あなた、リアクションとれるの?」


「う゛ーーーーッ。なんちゃって!」


 静かな店内で、大声を出すグミちゃん。

 立ち上がって、喉元を押さえる。


「ちょっと、ここは静かに呑むところだから、やめて」


 周囲の突き刺さるような視線に、あわてて座らせる。


「は~い」


 ペロッと、舌を出すグミちゃん。


「かわいい子だけど、知り合い?」


 マスターが、グラスにカクテルを注ぎながら聞く。


「………ちょっとね。世話することになって」


 ほぼ、お守りだけど。


「そーですか。前に、テレビマンって言ってなかったですか。その関係で?」


 酔って、うっかりしゃべってしまったのを、覚えていたみたいね。


「あー。うん、その関係で」


 言葉を、にごすわたし。


「ワタシね、ネリモンズの番組に出るんだ~」


 堂々と宣言するグミちゃん。


「やめなさい。まだ決まってないのに」


 また、グミちゃんを座らせる。


「へぇ~」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る