星二つ『透明の星』

 黒い空間に浮かぶ、輪っか。

 輪の幅はこの上なく細い。

 だから、一目見ただけでは、気づきそうにもない。

 そしてどの角度から見ても、それはやはり、輪のように見える。

 つまりは、球。

 ひとつ、ふわり膨らんだ泡のように、清澄せいちょうな球。

 この、透明な球は……


 『アクリア』という惑星だ。


 透明なのは、惑星が、表面の、極めて薄いガラス質の層のみでできているからだ。

 中身は、空っぽ。

 だが、透明の星の表面の層の内側には、水がたくさんあった。

 それも、水。

 水の中には、『魚』という、肌の光沢の美しい生物がいたが、魚はそれほど賢くはなく、他に高い知能を備えた生物はいなかった。

 というのは、アクリアが、『プレエン』という赤白い恒星自ら光る星の、ひとつ外側の軌道を回っていた時代の話。

 しかし、以来……


 アクリアから、水が消えた。


 アクリアの内包する、温かい水は、生物の冷えた体を温めたり、飲み水として活用したりできたので、近隣惑星の誰にとっても、魅力的な存在だった。

 その上、アクリアの水を得るということは、魚という、食料になりうる副産物も得ることも意味する。

 ある時、アクリアから見て二つ外側の軌道にある、『氷色の星』から、非情かつ非常に知的な生命体がやってきた。

 彼らは紛れもない侵略者であった。

 また、彼らは、アクリアよりも遥かに、から遠いところに住んでいたので……


 凍えていた。

 

 結果、その侵略者によって、アクリアは魚もろとも、温かい水を奪われたのだ。

 そうして、透明な外枠だけが残った。

 空っぽの、星。

 水を失った星の全身には、よく目を凝らして見てみると……

 侵略者が手荒な真似をしたのだろうか、無数の小さなヒビが入っているのがわかる。

 だが遠くから、例えば他の星から、空っぽのアクリアが浮かぶ方向を見ても、そのヒビにも、輪のような枠にも、気づかないだろう。

 また、仮に何かの拍子に星が割れて、粉々に散ったとしても……


 やはり誰も気づきはしないだろう。

 

〈第三話『砂色の星』に続く〉

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