三原と明暗の天体

加賀倉 創作【FÅ¢(¡<i)TΛ§】

星一つ『黒い星』

 真っ黒な円。

 さまざまに、見る場所を変えても、黒い円。

 黒い、球だ。

 それはとても早い速度で回っているので、真球ではなく、やや縦に潰れた形。

 それに、大きい。

 とてつもなく、大きい。

 黒い球に見えるものは……


 星だ。


 よわいは、一千兆年を超えてからは数えていないそうだ。


 かつて。


 その黒い星は、今よりもいくらか白く、他の星を明るく照らすほどだった。

 いや、『白』というのは黒い星自身の見栄っ張りからくる、大げさな表現だ。

 本当は、『赤白あかじろい』というのが正しい。

 なんでも、赤白い星は、大きな白い星になることを夢見ていたが、なれなかったそうだ。

 とはいえ、明るく、熱かった。

 球の中心にある魂を、激しく、燃やしていた。

 その熱は、とても強い力となった。

 力を使って、ごく小さな粒たちから、二十六もの、やや大きい粒を作った。

 輝いていて、強い。

 だから、他の星々を惹きつけた。


 緑の星。

 青の星。

 赤の星。


 緑や、青や、赤というのは、黒い星が、赤白い星だった頃の話。

 赤白い星は、老いるにつれ、赤みを増し、大きく膨らんでいった。

 体が大きいことは、すなわち強い、ということにはならない。

 いくら膨らんで、見た目だけ立派に見せても、その中身は変わらない。

 やはり星は……


 見栄っ張りなのだ。


 膨らみすぎたせいか、体の外の方が、中心から離れた。

 赤白い星の燃える魂は、球の中心にある。

 魂から離れた、体の外の方は次第に……


 どこか遠くへ去り、もはやそれは赤白い星の一部では無くなった。


 それでも赤白い星は、膨らむことをやめようとはしなかった。

 もう、手遅れだったのだ。

 自らの生み出した、二十六の粒たちが、ひとつ、またひとつと、離れていく。

 赤白い星は、ついに自信を失ったのか、今度は、魂を縮こませ始めた。

 粒たちは相変わらず、容赦なく、赤白い星を見捨てていく。

 ついには魂を燃やすことも忘れてしまった。

 やがて赤白い星の魂は、広く黒い空間の真ん中に、たったひとつ取り残された。


 赤白い星は、白い星になりたかったが、実際になった姿は……


 白い星。


 そうは言っても、赤白い星は、曲がりなりにも何十億年と魂を燃やしてきたので、まだ熱を残していた。

 そういうわけで、かろうじて、暗く白光りした。

 暗い時代を、魂をどんどん冷やしながら、何百億年も過ごした結果……


 黒い星となった。


 黒い星は、黒い空間にわびしくたたずみ、隠れ、ほとんど姿を確認できない。

 かつての赤白い輝きを失い、冷め切った黒い星のそばにはもはや……


 緑の星も、青の星も、赤の星も、いなかった。


〈星二つ『透明の星』に続く〉

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る