第14話 ICU
美紗は智華の様子を窺うためにアパートへ行った。
智華を疑う気持ちはまったく無いのだが、一心から犯人が女である可能性も出てきた以上、そう言う意識を持って話をして来いと言われたのだった。
美紗の部屋とは違って女の子らしいカーテンや飾り、綺麗に整理整頓されていて気持ちが良い。
「最近、変わったこと無い?」美紗が訊く。
「えぇ、そっちは? 犯人の目星とかつかないの?」
「そうなのよ、でもね犯人は男じゃない可能性が出てきてさ、警察がもう一度参加者全員に聞取りに歩いてるらしいわ」
「えっ、だって被害者乱暴されたんでしょう?」
「それが、偽装かも知れないって、そのDNA型の男を捕まえたんだけどアリバイがあったって訳よ」
「じゃ、私のとこにも刑事来るのかしら?」
「そうよ、けど、あんたが無実なのは私がよく知ってるから、心配いらないわよ」
「ふふふ、わかんないぞー、二重人格で満月の夜になると、殺人鬼に豹変したりして……」
「やめてよ、智華ったら。もう、ふふふ。でも何なのかしらねぇ、関係のない三人の女性が連続殺人の被害者になるなんて……」美紗もこういった事件は初めてだった。
「違うのよ。きっと共通点に警察が気付いて無いってことなのよ。それを見つけるのは探偵くん、君だ! なぁーんちゃって」
「ねぇ、最初に殺された遠見里桜さんの家に行ってみよっか」美紗は無料招待券の事が気になっていて、それが来ているのかを確認したかったのだ。
「家はどこなの?」
「浅草のここから十分くらいじゃないかな」
「へー結構近いんだ。なら行っても良いよ」
大家に鍵を開けて貰って中へ。
「片付いてるね」智華が何かに怯えるように言う。
「ほれ、怖がんなくていいから、招待券探してみてよ」美紗は智華を奮い立たせるように語気を強めて言った。
「わかったわよ。……でも、怖くない?」
「まったく」本当はとてつもなく怖いのだが、自分は探偵だと自身に言い聞かせ恐怖心と戦っているのだった。
美紗が本箱に置かれている小箱を開けてみると、封書なんかが入っている。
ここにあるかなと思って一つひとつ封の中を覗いてゆく。
「あったわよ」美紗のとこに来たのと同じ封筒に案内文と無料の招待券が入ったままになっていた。
美紗は指紋をつけないようにハンカチに挟んだ。
「よし、次桜木花恋さんの家に行ってみよう」美紗が言うより早く智華は玄関へ小走りに向かう。
その姿に美紗は笑った。 ――よっぽどこわいのかなぁ。ふふっ、おかしな智華……
そう思う一方で、美紗も後ろを何回も振り返りながら速足で玄関に向かう。
花恋の家は浅草寺の裏手だから十五分くらいはかかる。
「ねぇ、ちょっと家に寄ってから行こう。この招待券一心に預けたいし」
美紗は何となく尾行されてる気がしているが智華が怖がるので黙って一旦事務所へ足を進めた。
事務所に入ってブラインドの隙間から外を覗く。
怪しげな人物は見えない。
智華を事務所のソファに座らせておいて、奥の部屋へ行って母さんに尾行されてるかもしれないと話す。
智華にコーヒーを淹れ、「母さんも一緒に行ってみたいって言うから良いでしょう?」
「えぇ、良いけど」
智華はちょっと怪訝な表情をした。何かを感じたのかもしれないが言えば怖がるから美紗は黙っていた。
「こんにちわ」美紗が声を掛けるとお母さんが玄関を開けてくれた。
花恋の部屋はそのままにしているようだ。恐らく何年も、何十年もそのままにしておくかもしれないと美紗は思った。
「大勢で押しかけてすまんこってす。ちょっと花恋はんのお部屋をみせて欲しくて……」
お母さんは静を見てちょっと困ったような顔をしたので、「あっ、ごめんなさい、私の母の静です。一緒に探偵してます」慌てて紹介した。
「始めまして、お世話になります」お母さんは微笑んで頭を下げた。
「あら、こちらこそ失礼しました。よろしゅうにお願い申します」
花恋の部屋も女の子の部屋と言う感じだが、本棚が四つもあってびっしり料理関係の専門書が並んでいた。
「勉強しはってたんやなぁ」
しばらく探していると「あった」そう言ったのは智華だった。
やはり美紗が受け取ったのと同じ封筒に案内文と無料招待券が入っていた。
それも指紋をつけないようにハンカチで挟んで部屋を出る。
お母さんに断ってから事務所へ戻った。
その時は尾行されている感じは無かった。
美紗は数馬に車を運転させて智華をアパートに送り届けた。
「一心、この二枚の無料招待券の指紋調べて貰って誰が出したのかはっきりさせよう」美紗が力を込めて言う。
「それでどうなる?」と、一心。
美紗の考えに疑問を持ってる感じがする。
「それを受取った女性が狙われてるかもしれないんだ」
「なんの証拠があるんだ?」一心はなかなかうんと言ってくれない。
「今、捜査が行き詰ってんだろう。俺の考えでそれを打開できっかもしんねぇって言ってんだ、ぼけ親父!」
「こらこら、美紗、てて親にそないな言い方あきまへんえ。それと一心、美紗がこれだけ言ってるんやから、あんはんが判断しないで、丘頭警部はんに相談しよし。あらゆる可能性を捨てたらあきまへんえ」
「だがなぁ……」と、一心が煮え切らない。
「わかった。俺が直接丘頭警部のとこへ持ってく」
美紗はぐずる一心に腹を立て招待券を持ったまま事務所の階段を駆け下りた。
ぶつぶつ言いながら浅草署に向かっていると、突然背後に尾行される感覚が生まれた。
「あっ、忘れてた。やばっ」美紗はすぐに一心に電話を入れて状況を伝えて助けを求めた。
まだ半分くらいしか歩いてないのに背後の足音が近い!
美紗は走った。尾行者を撒こうと小路を曲がったが、どんどん近づく。
「あれっ、丁字路にでた左右どっちに行けば良いのか分からなくなる」
取り敢えず曲がって走る。そろそろ署の裏当たりのはずだが……。
今まで経験のない恐怖が身体を支配し、頭を真っ白にする。
足音はすぐ後ろだ!
怖くて振り返る。
目出し帽に上下黒のジャージ、背はそんなに高くないが手に光るものを持っている。
「やばいっ」叫んで走る。
しかし、賊の手が美紗の肩にかかる。
「きゃーっ」悲鳴を上げるのと同時に突き飛ばされ、ドスッという音が聞こえた。
美紗が道に転がりながら振向くと男性が脇腹を刺され倒れるところだった。
刺した人物は後ずさりしてから背を向けて走り去った。何となく女? と思った。
美紗は救急車を呼びながら男性を抱き起す。
顔を見て驚いた。
「市森刑事! 何で? 市森しっかりしろっ! 市森っ!」
浅草署の市森刑事が美紗を助けようと突き飛ばして身代わりに刺されてしまったのだ。
そこへ数馬と一助が走って来た。
「美紗! 大丈夫か? それは?」
「市森刑事が私の身代わりに刺された! 救急車呼んだけど、市森反応しないんだ。助けて!」
数馬は自分のTシャツを脱いで市森の傷口に当てて力強く押さえる。
一助もTシャツを脱いで傷口に……。
すぐに真っ赤に染まるTシャツ。
こんなに救急車が遅いとは、美紗は待ちきれず再度ダイヤルする。
相手が出る前に白い車体が見えた。
一心と静も来た。
二人は状況を察して手を振って救急車に場所を知らせる。
美紗と一心が同乗した。
「頑張れ市森! 頑張れ! 死ぬなよ!」美紗はそう叫び続けた。涙が溢れて止まらなかった。
手術が終わってICUに市森は運ばれて行った。
丘頭警部が走って来た。
「ごめんなさい。私の身代わりになって市森刑事が刺されちゃった。ごめんなさい」泣き崩れる美紗を警部が優しく抱いてくれた。
「で、どうなの市森は?」
「あぁここ二、三日が山らしい、かなり危険な状態だって医者が言ってた」と、一心。
美紗は窓ガラスに顔をつけて「市森頑張れ! 今度デートに付き合ってやるから、死ぬな!」
手足が震え立っていられずにしゃがみこむ。
母さんが背中を撫でてくれる。「大丈夫や、絶対助かる。信じなあかんよ、美紗。あても祈ってるさかい大丈夫や!」
「母さん、私尾行されてたの知ってたのになんて馬鹿な事しちゃったんだろ。そのせいで市森が刺されちゃった。どうしたら良い? 母さん」
「美紗のせいやおまへん。悪いのは犯人や。せや、あの招待券が真相に近いのとちゃうか? 一心そやないか?」
「おぉ、そうだ。美紗の勘が当たってたんだ。俺がすぐに署に持って行ってやればこんな事には……美紗、すまん、俺のせいだ」一心がそう言って頭を下げる。
「こらこら、家族で俺の私の言わない。市森は美紗ちゃん好きだから、なんか予感があったんじゃないかな? 捜査課から突然飛び出して行ったのよ。私にどこへとも言わずにね。彼は美紗ちゃんを助けるために必死だったと思うわよ。だから危機を乗り越えられるよう祈ってあげて、それが一番よ」丘頭警部が力強く言った。
「犯人は黒の目出し帽に上下黒のジャージで女だと思う。走って逃げたから、付近に目撃者いるかも……」
美紗は一気に犯人の記憶を吐き出した。
「わかった。とっ捕まえてやる」そう言って走り去る丘頭警部を見て美紗はちょっと気が抜けた。
「……なんか、私、変……」美紗は意識が薄らいでゆくのを感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます