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「ーーランニング、スクワット、腹筋、背筋、腕立て伏せ、ベロ相撲……とこれからこのような感じで鍛えていこうね、アオくん」


「…………はひっ(満身創痍)」


「おやおや。随分とお疲れのようだねアオくん。まあ、予行練習と言っていたのにも関わらず割とガッツリとヤッてしまったからねぇ」


「これ……たぶん毎日はむりでしゅ……」


「あー、それならば心配はいらないよ。超回復、と言う言葉を知っているかな?超回復というのは(中略)だから、だいたい筋トレは3日に1度のペースでやっていくのがいいと思われるわけだね。筋トレをしたあとは充分な栄養補給に休息が必要だ。だから明日明後日は休んで3日後にまたトレーニングをしようじゃないか」


「なるほど……それならなんとかなりそう……?」



こんなことが毎日続くとなったら、流石に身も心も情緒も尊厳も何もかもボロボロになってしまうところだっただろうけど、3日に1回というなら大丈夫そうな気がしてきた。



「一先ず、今日はこんなところでトレーニングは終わりにしようか」


「はひっ……あざしたー……」



ふぅ……。


つ、疲れた……。


まさかこんなことになるなんて思いもしなかった……やっぱりトレーニングって大変なんだな……。


でも、とても貧弱な自分を変える為にも頑張っていきたいところだ。みんなもサポート(?)してくれることだし、そんなみんなの思いを裏切るわけにもいかない。


よーし!これから頑張るぞー!



「さて、トレーニングの後には栄養補給はかかせない。特にタンパク質!これが重要さ!」


「タンパク質?」


「そう!タンパク質!傷ついた筋肉には素早くタンパク質を補給することで(中略)だから筋トレ後30分以内にタンパク質を補給するのがいいとされているね」


「なるほど……で、それは?」



じゃじゃーんと泊先生が持ち出してきたボトルを指差す。その透明なボトルの表面には計りが記してあり、その中にはドロリとした白濁液が入っていた。



「これはプロテインだね」


「あっ、プロテインってなんか聞いたことある!マッチョが飲んでるヤツ!」


「そうだね。その認識で概ね間違ってはいないね」


「でも……その容器は……?」



プロテインなのは分かったのだけれども……そのプロテインの入っているボトルというか容器と言うか……それは……。



「手頃なシェイカーがこれしかなかったんだよ」


「なるほど……いや、でも……それって……」



それはーーとてもとても見覚えがあるボトルだが、まず日常生活では使わないボトルであった。


おそらく誰しもが使ったことがある物であろう。


だがしかし、”この歳”になって使うものでは無い。みんなその過程は歩んではいるが、普通の人ならある一定期間使った後に卒業する代物だ。



ーーそう、それは……。



哺乳瓶ほにゅうびん……だよね、それ?」


「手頃なシェイカーがこれしかなかったんだよ」


「哺乳瓶だよね?」


「哺乳瓶だね」



哺乳瓶だった。



その特徴的なおっぱいの先端を模した飲み口はどこからどう見たとて哺乳瓶以外の何物でもなかった。



「それで飲むの……?」



それで飲むの?



「大丈夫だよアオくん。何も心配はいらないさ!僕がちゃんと飲ませてあげるよ!」



いやいや。


いやいやいやいや、そういう問題じゃなくなーい?



「ほら、アオくん、おいでおいで」



床に正座で座った泊はポンポンと太腿を叩いて俺を手招きする。


あー……。泊の太腿……きっとムチムチで気持ちいいんだろうなぁ……。



じゃなくて。



プロテインを哺乳瓶で、さらにそれを飲ませてもらうとか……なんのプレイですかそれー!



「ほらほら早く早く。プロテインは早めに摂取しないといけないんだ!迷っている暇は無いんだよアオくん!」


「いやでもそれはさすがにちょっとまってもらいたいかなって思うんですけど」


「アオくん…………ママの言うこと聞けないのかな?」



んっ!?



「えっ?あっ?うん?なに?ママ?なにそれ?どういうこと?ママって?えっ?」


「ママはママだよ。僕は今、アオくんのママなんだよ。いいかい?僕はアオくんのママとしてアオくんにプロテインを飲ませないといけないんだ。それは分かるね?」


「えっ……あの……その……」



なにそれどういうこと?まるで意味が分からない!


まるで意味が分からないのに……。


何故か勝手に足が泊の方へと向かっている……!



「そうだよアオくん……こっちにおいで……ママの元においで……」


「あっ……!あっ……!あっ……!」



ダメだ!これ以上進むんじゃない!これ以上進んだらもう後戻り出来なくなってしまうぞ!


そう心の中で叫ぶ理性とは裏腹に俺はママの元へと進み続ける。


これは……!本能が、理性の裏に隠された人としての本能が求めてしまっているというのか……!?



ーーママをッ……!!!



見る。見てしまう。


腕を大きく広げて俺を待ち構える泊。そしてその胸には超ド級の母性の塊と言える大きなおっぱいを……!


くっ、ダメだッ……!それを今、視界にいれてしまってわー!抗え!抗うんだ!でないと本当に取り返しのつかないことになってしまうぞー!



「頑張ったアオくんはママがたくさんヨシヨシしてあげようじゃないか!」


「アッ……!」


「何も恥ずかしがることは無いんだよ。だってアオくんは赤ちゃんなんだから」


「あ、赤ちゃん……?」


「そうだよ。アオくんは赤ちゃんだ。赤ちゃんがママに甘えるのは当然のことだろう?だから深く考えずにママの元においで……さぁさぁ!」


「俺は……赤ちゃん……」



そうか……。


俺……赤ちゃんだったんだ……。



「ママぁッー!」



俺はわけも分からず泊の胸に飛び込んだ。





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