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思春期真っ只中で「コイツらに思春期は来ねぇのか!」「男女の意識が低すぎる!」「性の目覚めは寝坊してるんですかね!?」などと流は心の内で騒ぎ立てている訳だが。


その実態ーー真実は違っていた。


彼女らは流が意識する前に、その段階を既に終えていたのだ。






◇◇◇






ボーッ……と流の姿を特に意味もなく眺めるのは現在よりも幼い洲崎紅。


この時の紅は今までに感じたことの無い気持ちを流に感じていた。


幼少より共に成長してきた間柄で今までの人生の大半を一緒に生きてきた3人の幼なじみで親友の内の1人。


そんな流に紅がこの時に感じた気持ちは、生まれて初めて芽生えたまだよく理解出来ない感情で、それは友情に良く似ては居るがまるで別方向の感情であった。



(なんか……なんかよくわかんねぇけど。なんかこう。なんかアレだ。なんかガーって。なんかそうガーってしたいような。アオのことをなんかガーってしたいような。なんかしたくないような。よくわかんないなんかがガーって、なんかアレなんだよな。なんだこのなんか)



なんかなんかーーと。紅は自分の気持ちを言葉に上手く表せずに悶々とした気持ちを抱えて、そして、それが我慢ならずにすぐさま行動に移すことになる。



「なあ、アオ」


「どうした?」


「……なんか」


「なんか?」


「ちょっと腕広げてくれ」


「……?こんな感じ?」



両手を大きく広げた流に対して紅は衝動の赴くままにその胸の中に飛び込んで抱きついた。



「オラァッ!」


「オッ!?おごごごごごごごぉ……!?!!」



そして、力の限り流の胴体を締め上げる、紅。これは抱きつくと言うよりかはもはやベアハッグ無いし鯖折りである。当然、流は悲鳴を上げた。



「ぐ、ぐるじぃい……!や、やめっ……!はなじでぇッ……!」



苦しみ呻く流を後目に、紅は流を抱きしめた(締め上げたとも言う)ことでなんだかとっても気持ちよくなっていた。



(なんかスゲェな。なんだこれ。なんかアオのこと抱きしめてると、なんか気持ちよくて幸せな気分になるな。あとなんか脳みそがポカポカするっつーか。なんかよくわかんねぇけど。とにかくなんかスゲェ気持ちイイ)



「こ、この……!はな”ぜえ”ッーー!」



紅の拘束から抜け出そうと藻掻く流をガン無視して紅はしばらくの間、流のことを抱きしめ続けた。



「はぁ……はぁ……。たくっ……急になんなんだよ紅!」



なんとか拘束が抜け出した流は息を切らしながら紅を睨みつける。非難されるのは当然でなんの脈絡もなくベアハッグをした紅が明らかに悪いーーにも関わらず紅は何故か若干不機嫌そうな表情をしている。



(なんかアオがオレから離れようとすんのが、なんか面白くねぇな。なんかムカつく……。なんかアオのことをずっと抱きしめときてぇな……あっ、そうだ!)



「わりぃわりぃ!なんか急に、な?ほら、オレがアオのこと抱きしめた分、アオもオレのこと抱きしめていいぜ?」


「言ったな紅!覚悟しろやオラッ!」



お返しとばかりに流は紅に抱きついて力の限り抱きしめた。この時の流は男が女がなどということは一切気にしておらず、紅への対応は男友達とじゃれ合うが如く。紅を抱きしめることに対してなんの抵抗もなかった。



(なんだこれスゲェ!アオを抱きしめるのもよかったけど、抱きしめられんのもめちゃくちゃ気持ちイイわ!凄い幸せな気分になる!)



「オラッ!どうだ紅!参ったか!」


「はっ……!この程度なんともねぇーな!もっと強くても構わねーよ!」


(ああ、もっと……もっとだ、アオ!オレのこともっと強く抱き締めてくれ!)


「ぐぬぬっ……!これならどうだ!」


(アッ、アッ、アッ……!スゲェ!力強く抱き締められれば抱きしめられるほど気持ちイイ!コイツはヤベぇ!気持ちよすぎて頭がおかしくなりそうだ!)



紅の脳みそを快楽が貫いた。


強く抱き締められて痛くないわけでも、苦しくないわけでもなかった。だが、それ以上にアオに抱きしめられているという多幸感が快感になり、その痛みと苦しみを凌駕ーーそしてそれはさらなる快感へと昇華する。



洲崎紅がのはこの時であった。



それからしばらくの間、紅はことある事に流に抱きつくようになり、そして、そのお返しと称して流に抱きつかせるようになった。


そんな日がしばらく続いた、とある日。


その日はたまたま泊と歩夢が家の用事で一緒に居ることが出来ず、流と紅が2人きりで遊んでいた。


ピタリと肩を寄せあってテレビゲームで遊ぶ2人。2人がプレイしていたのは協力タイプのゲーム。そのゲームはどちらか1人がミスをするともう1人もミスしたことになってしまうという一蓮托生のゲームだった。


最初の内は仲良く遊んでいた2人だったが、ゲームも終盤に差し掛かると必ずどちらかがミスしてしまい、そのせいでやり直しを何度も要求されることになる。



「なんでそこでミスんだよバカ紅!」


「うるせぇ!アオだってさっき同じとこでミスったじゃねーかよバカ!」



お互いが足を引っ張り合うことになって、その結果ゲームそっちのけで取っ組み合いの喧嘩に発展した。















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