無気力社畜、ドワーフと飲み歩きに無理やり付き合わされてみた(3)

賑やかなバーの一角で、カクテルを飲みながら談笑する二人。倦太は初めて会ったばかりのグラムに、思った以上に心を開いている自分に気づき、少し不思議な感覚に包まれていた。いつもなら、仕事のことを話すのも面倒だと思うのに、今日は気軽に話せてしまっている。


「お前、ずいぶん真面目に働いてるんだな。毎日残業だって?」


グラムはカクテルを片手に、倦太の仕事の話を聞きながら感心している様子だ。倦太は少し照れ臭そうに苦笑いを浮かべた。


「まあな…真面目っていうか、ただやらなきゃいけないことが多すぎて、気づいたらこんな生活になってたんだよ。疲れるけど、辞めるわけにもいかないしさ」


グラムは大きな手で倦太の肩をポンと叩き、豪快に笑った。


「分かるよ!けどな、そんなに頑張ってると心が擦り減っちまうぞ。たまには手を抜いてもいいんだ。仕事も大事だけど、もっと自分を大切にしろよ」


その言葉は、倦太にとって驚くほど新鮮だった。仕事を第一に考え、無理をするのが当たり前だと思っていた自分にとって、グラムの言葉はまるで別世界の考え方のように思えた。


「手を抜く、か…俺にはできないかもな。毎日こなすだけで精一杯だよ」


倦太が少し自嘲気味に言うと、グラムは真剣な表情になり、目を細めて倦太を見つめた。


「でも、お前みたいに頑張りすぎるやつが、一番危ないんだよ。無理してるのに、自分では気づかないことが多いんだ。お前にはそんな気がする」


その言葉に、倦太はハッとした。仕事の疲れが体に染みついているのは感じていたが、どこかで「自分はまだ大丈夫だ」と思い込んでいた。しかし、グラムの言葉が突き刺さり、自分が本当に限界を感じ始めていることに気づき始めた。


「まあ、俺もかつては無茶してたけどな。仕事に夢中になりすぎて、体を壊しかけたことがある。だから言うんだ。今のうちに、うまくバランス取って生きろってな」


グラムはビールを一気に飲み干し、深いため息をついた。倦太は彼の話に耳を傾けながら、自分の中に積もっていたストレスや疲れが徐々に表面に出てきているのを感じた。


「そうか…俺も、気をつけた方がいいのかもな」


倦太は少し苦笑いを浮かべ、カクテルを飲み干す。これまで、自分の仕事の愚痴や悩みを人に話すことはほとんどなかったが、グラムの前では不思議と自然に言葉が出てきてしまう。


「お前さ、こういうのってどうやって息抜きしてるんだ?」


倦太が尋ねると、グラムは再び笑顔を浮かべて答えた。


「俺か?俺は飲んだり、友達とバカな話をしたり、ちょっとした冒険をすることかな。仕事も大事だけど、楽しみながら生きるのが一番だよ」


その言葉を聞きながら、倦太は「楽しむ」ということを久しくしていないことに気づいた。仕事に追われ、日常がただのルーチンワークになり、いつの間にか心の余裕を失っていた。


「楽しむ…か。俺には今の生活、楽しみなんてないよ。家に帰っても、ただ寝るだけだし」


倦太がぼそりと呟くと、グラムはまたしても彼の肩を力強く叩いた。


「それじゃあ、今夜から少しずつ変えてみろよ。こうして外に出て、たまにはバカな話でもして、楽しい時間を過ごせばいいんだよ」


グラムの豪快な笑い声が店内に響き渡る。倦太はその言葉に、ふと肩の力が抜けるような感覚を覚えた。こんな風に気軽に話せる相手がいるだけで、心が軽くなることを初めて実感した。


「お前、いいやつだな…」


思わず漏れたその言葉に、グラムは一瞬驚いたようだったが、すぐににっこりと微笑んで「当たり前だ!」と言った。


「お前も、これからはもっと自分を大事にしろよ。俺がついてるからさ!」


倦太はそんなグラムの言葉に、自然と笑みがこぼれた。初対面にもかかわらず、こんなに気軽に話せる相手がいるとは思わなかったが、今は心から感謝していた。仕事に追われる日常の中で、こうして自分のことを思ってくれる人がいることが、どれだけ貴重なことかを感じていた。


「ありがとう、グラム。お前がいてくれて、助かるよ」


倦太は真剣な声で言い、グラムは満足そうに頷いた。二人はさらにグラスを傾け、夜はまだまだ続いていく。

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