無気力社畜、エルフにショッピングモールに無理やり付き合わされてみた(5)

リシェルと倦太はショッピングモールでの冒険を続け、様々な店を見て回った。二人はすっかり時間を忘れて楽しんでいたが、モール内の混雑が徐々に増してきた。特に新しい店舗がオープンしたエリアでは、人々が集まり、通路はまるで押し合いへし合いのような状態になっていた。


「ちょっと混んできたな…」


倦太はそうつぶやきながら、リシェルの様子をちらりと見た。彼女は人混みに押され、少し戸惑った表情を浮かべていた。普段は自然の中で静かに過ごしている彼女にとって、これほどの人混みは予想外のストレスだったのかもしれない。


「リシェル、大丈夫か?」


倦太が声をかけると、リシェルは無理に微笑んで「はい、大丈夫です」と答えたが、その表情は明らかに不安を隠し切れていなかった。倦太は彼女が無理をしていることに気づき、少し心配になった。


「無理するなよ。ここから少し離れたほうがいいかもしれない」


倦太はそう言って、リシェルの手をそっと取り、人混みの中をゆっくりと歩き始めた。リシェルは驚いたように倦太を見つめたが、彼の手をしっかりと握り返した。


「ありがとうございます、倦太さん」


彼女の声は少し震えていたが、その手は温かい。人混みの中を慎重に進みながら、倦太はリシェルを安全な場所へと導いた。


やがて、二人は比較的静かなベンチにたどり着いた。周囲の喧騒から少し離れたその場所で、リシェルはようやく安心したように息をついた。


「ごめんなさい、私…人混みがこんなに苦手だなんて、自分でも気づいていませんでした」


リシェルは少し恥ずかしそうにうつむきながら言った。倦太はその言葉に驚くこともなく、ただ優しく微笑んで「気にするなよ。誰だって得意じゃないことくらいあるさ」と答えた。


「でも、倦太さんがいてくれたおかげで、本当に助かりました。あなたがいなかったら、どうなっていたかわかりません…」


リシェルの言葉には、感謝と安心が込められていた。倦太は照れくさそうに顔をそらしながら「大げさだよ。ただの人混みだ」と言ったが、その心の中では、自分が彼女を守れたことに対する喜びが静かに広がっていた。


「でも、本当に感謝しています。倦太さんは優しいですね」


リシェルはそう言って、再び彼に微笑みかけた。倦太はその笑顔に応え、少しだけぎこちなく頷いた。


「まあ、いいんだよ。お前が無事ならそれでいいさ」


倦太はそう言って、リシェルの手をそっと離した。


ショッピングモールでの冒険を終え、リシェルと倦太は静かに帰路についた。モールの喧騒から離れ、外の新鮮な空気を吸い込むと、二人は少しだけ疲れた表情を見せたが、その顔には満足感が浮かんでいた。


「今日は本当に楽しかったです。色々な体験ができて、特に新しい服を手に入れられたのが嬉しかったです」


リシェルはそう言いながら、袋に入ったワンピースを見つめた。その瞳はキラキラと輝いていて、倦太もまた彼女のその姿を見て心が温まるのを感じていた。


「そうか、それならよかった」


倦太は短く答えたが、その声には以前よりも少し柔らかさが増していた。リシェルが楽しんでいるのを見ると、自分も満たされたような気分になるのが不思議だった。


夕暮れの街を歩きながら、二人はいつものように無言の時間を過ごしていたが、そこには心地よい沈黙が流れていた。お互いの存在を感じながら、言葉を交わさなくても安心できる瞬間だった。


やがて、二人は倦太の家の近くにたどり着いた。リシェルは立ち止まり、倦太に向かって微笑んだ。


「倦太さん、今日は本当にありがとうございました。あなたのおかげで、素晴らしい一日になりました」


リシェルの感謝の言葉に、倦太は少しだけ照れながら「俺がしたのは大したことじゃないさ」と答えた。しかし、その顔には微笑が浮かんでいた。


「でも、私にとっては本当に特別な日でした。これからも、また一緒にいろいろな場所に行けると嬉しいです」


リシェルはそう言って、倦太に優しく笑いかけた。その笑顔は、まるで彼に新たな世界の扉を開くかのような力を持っていた。


「まあ、気が向いたらな」


倦太は少しだけ冗談めかして答えた。


「楽しみにしていますね、倦太さん」


リシェルは最後にもう一度お礼を言って、優雅にその場を去っていった。彼女の後ろ姿が遠ざかるのを見つめながら、倦太は静かに息をついた。


「また、あいつに付き合うことになるのか…」


そう呟きながらも、その声にはどこか期待と喜びが混じっていた。

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