無気力社畜、エルフにショッピングモールに無理やり付き合わされてみた(2)

休日の朝、無動 倦太むとう けんたはいつもより少し早く目を覚ました。リシェルとの約束が頭にあり、普段は考えられないことだが、少しだけ身だしなみを整えようという気持ちになった。鏡に映る自分の姿を見て、スーツではない普段着を選ぶことにしたが、それすらも面倒に感じていた。


「まあ、どうせ誰も気にしないだろう…」


そう呟きながらも、倦太は無意識にシャツのシワを直していた。


待ち合わせ場所に着くと、そこにはリシェルが既に立っていた。彼女は相変わらずの笑顔で、まるで子供のようにキラキラした目で周りを見渡していた。彼女の姿を見ると、倦太は少し緊張が解けたような気がした。


「倦太さん、おはようございます!今日は一緒に楽しみましょうね!」


リシェルは元気よく声をかけ、倦太に近づいてきた。彼は無意識に頷き、「まあ、無理しない程度にな」と返した。リシェルはその言葉に少しだけ笑って「わかりました」と応じた。


二人は、近々オープンすると噂されていた超大型ショッピングモールへと足を踏み入れた。モールの入り口は広大で、まるで迷路のように複雑な通路が広がっている。人々が行き交い、その喧騒が耳に届く中で、リシェルは興味津々とした様子で辺りを見回していた。


「すごい…こんなにたくさんのお店があるんですね。どこから見て回ろうか迷っちゃいます」


リシェルは楽しそうに言いながら、倦太に目を輝かせた。彼は少しばかりそのテンションについていけないと感じつつも、彼女の喜びが伝わってくるのを感じていた。


「まあ、適当に歩いてみればいいんじゃないか?」


倦太はそう提案し、二人はモール内をぶらぶらと歩き始めた。リシェルはあちこちに興味を示し、さまざまな店の前で立ち止まっては、商品を眺めたりしていた。


ショッピングモールを歩いていると、リシェルの目がある店に釘付けになった。そこは最新の家電やガジェットが並ぶ家電店で、店の前には大きなディスプレイが設置されていた。ディスプレイには、仮想現実(VR)を体験できる最新のヘッドセットが映し出されており、店内ではデモが行われているようだった。


「倦太さん、見てください!あれ、何ですか?」


リシェルは興奮気味に倦太の袖を引っ張った。倦太は目を半開きにしたまま、あまり興味なさそうにディスプレイを見た。


「ああ、あれか。VRっていうんだ。仮想現実ってやつで、あのヘッドセットをつけると別の世界にいるみたいに感じるんだよ」


倦太が説明すると、リシェルはさらに目を輝かせた。「別の世界…?それって、どういうことですか?」


「ま、実際に体験してみればわかるさ」


倦太はそう言って、リシェルと一緒に店内に足を踏み入れた。店員が二人を見つけると、にこやかに挨拶し、「こちらでVR体験ができますよ」と案内してくれた。


リシェルは興味津々で、すぐにヘッドセットを手に取った。「これをつけるんですね?」と、まるで子供のように無邪気に尋ねる彼女を見て、倦太は微笑を浮かべた。


「そうだ。大丈夫、そんなに難しくないから」


店員の助けを借りながら、リシェルはヘッドセットを装着した。倦太はその横で腕を組みながら、その様子を見守っていた。


「では、スタートしますね」


店員が操作を開始すると、リシェルの目の前の世界が一変した。彼女の表情が驚きと喜びで満ちていくのが、倦太にははっきりとわかった。ヘッドセットを通じて見ている世界は、彼女にとって全く新しい体験だった。


「すごい…本当に別の世界にいるみたい!」


リシェルは両手を伸ばし、何かを掴むような仕草を見せた。倦太はその姿を見て、少しだけ誇らしげな気持ちになった。普段は無関心を装っている倦太だが、リシェルが喜んでいる様子を見ると、なぜか自分も嬉しくなってしまう。


「どうだ?面白いだろう?」


倦太がそう声をかけると、リシェルはヘッドセットを外し、満面の笑みで「はい!本当にすごいです!まるで別の世界に冒険に行ったみたいでした!」と答えた。その笑顔は、純粋な驚きと喜びに満ちていて、倦太の胸に温かいものを感じさせた。


「こんなにすごい技術があるなんて、人間の世界は本当に不思議ですね」


リシェルがそう言って、再びディスプレイに目を向けた。彼女の無邪気な好奇心に、倦太は少しだけ気を引き締めるように自分に言い聞かせた。


「まあ、これが現代の技術ってやつさ。お前の世界にはないだろうけど、こっちじゃこういうのがどんどん進んでるんだよ」


倦太はそっけなく言ったが、リシェルはその言葉に感心したように頷いた。


「本当にすごいですね、倦太さん。こんな世界を見せてくれてありがとうございます」


リシェルの感謝の言葉に、倦太は「別に、俺が作ったわけじゃないけどな」と言いながらも、心の中でほんの少し誇らしい気持ちを覚えた。彼女がこれほどまでに楽しんでくれることが、予想外に嬉しかったのだ。


二人は店を後にし、次の店を見て回るために歩き始めた。リシェルの無邪気な好奇心に引き込まれながら、倦太もまた、この不思議な冒険に少しずつ楽しみを感じ始めていた。

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