無気力社畜、エルフにショッピングモールに無理やり付き合わされてみた(1)
夕暮れ時、無動 倦太は、いつも通りの無表情で会社のビルを後にした。ネクタイを緩めながら、無意識に足を駅へ向かって進める。周囲は日常に追われる人々で溢れており、その誰もが疲れた顔をしていた。倦太もまた、その中の一人に過ぎない。
商店街を抜ける道を歩いていると、倦太はふと前方に奇妙な違和感を覚えた。何かが視界の端で輝いたような気がした。いつもなら無視して通り過ぎるところだが、今日はなぜか足が止まった。顔を上げると、そこにいたのは見覚えのある人物だった。
銀色の髪が夕日の光を受けて柔らかく輝いている。彼女は優雅な動きで人混みをすり抜け、こちらに向かって歩いてくる。倦太の胸がドキリと音を立てた。
「倦太さん!」
リシェルが嬉しそうに声を上げて手を振った。その表情には、まるで長い間待ちわびていたかのような喜びが浮かんでいた。倦太は一瞬、何を言えばいいのか分からず、ただ立ち尽くしていた。
「久しぶりですね!お元気でしたか?」
リシェルが近づいてくると、彼女の明るい声が耳に飛び込んできた。倦太は、相変わらず無気力な態度を装いながら、「まあ、なんとか」とぼそりと答えた。しかし、その声にはどこか緊張が混じっていた。
「またお会いできて嬉しいです!ずっと、どうしているかなって思っていました」
リシェルはそう言いながら、無邪気な笑顔を倦太に向けた。その笑顔を見て、倦太は少しだけ心がほぐれるのを感じた。彼女は自分を気にかけてくれていたのだと知り、どこか嬉しく思ってしまう自分がいた。
「それにしても、こんな偶然ってあるんですね。まるで運命みたいです」
リシェルの言葉に、倦太は思わず笑いそうになったが、すぐに真顔に戻した。運命なんてものを信じる性格ではないが、彼女の無邪気さに少しだけ心が軽くなるのを感じた。
「お前は、どうしてこんなところに?」
倦太はなるべく平静を保とうとしながら、そう尋ねた。リシェルは少し首を傾げて、彼の質問に答えた。
「ただ、散歩していただけです。人間の世界をもっと知りたくて、いろんなところを歩いているんですよ。でも、こんな風に倦太さんとまた会えるなんて、本当に嬉しいです」
その言葉に、倦太は何と返すべきか迷ったが、結局何も言わずに頷くだけだった。
「ところで、次の休日、何か予定がありますか?」
リシェルは少し照れたように、しかしどこか期待に満ちた表情で倦太を見つめた。
倦太は無意識に「別に」と答えた。
「近々、この街にすごく大きなショッピングモールがオープンするんです。それで、ずっと行ってみたかったんですけど、一人ではちょっと怖くて…よかったら一緒に行ってくれませんか?」
その言葉に、倦太は少し驚いた。リシェルのような存在がショッピングモールに興味を持つなんて予想外だったし、何より彼女が怖いと感じることがあるのも意外だった。
「怖いって、どうして?」
倦太が尋ねると、リシェルは少し恥ずかしそうに笑った。
「実は、あまり人が多いところが得意じゃないんです。普段は自然の中で過ごしていることが多いので、たくさんの人がいる場所に行くと、ちょっと緊張しちゃって…でも、どうしても行ってみたくて」
彼女の言葉に、倦太は少しだけ同情心が芽生えた。リシェルが不安に感じていることを知り、何とかして力になりたいと思った。
「それで、俺に一緒に行けって?」
倦太は少し冷ややかに言ったが、リシェルはその言葉に頷きながら笑顔を見せた。
「はい、倦太さんと一緒なら、きっと楽しく過ごせると思うんです。それに、あなたも気分転換になるかもしれませんよ?」
リシェルの無邪気な提案に、倦太は内心でため息をついた。自分の休日がまた彼女に振り回されることを予感しつつ、断る理由が見つからなかった。
「…わかったよ。俺でよければ、付き合ってやるよ」
倦太は渋々といった調子で答えたが、リシェルはその言葉に目を輝かせて「本当ですか?ありがとうございます!」と嬉しそうに言った。
「じゃあ、次の休日に行きましょう!待ち合わせの時間とかは、また連絡しますね」
リシェルはそう言って、再び嬉しそうに去っていった。倦太は彼女の後ろ姿を見送りながら、心の中で少しだけ期待感を抱いている自分に気づいた。
「また、あいつに振り回されるのか…」
倦太は小さくつぶやきながらも、次の休日がいつもとは違うものになる予感を感じていた。リシェルとの再会が、再び彼の無気力な日常を揺り動かし始めていたのだ。
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