無気力社畜、エルフに無理やりキャンプデビューさせられてみた! (6)
夜が明け、キャンプ場は朝の澄んだ空気に包まれていた。遠くから鳥のさえずりが聞こえ、木々の間から差し込む光が柔らかく地面を照らしている。倦太は寝袋の中で目を覚まし、しばらくぼんやりと天井を見つめていた。昨夜の出来事が夢だったのではないかと錯覚するほど、現実感が薄れている気がした。
テントの外からは、リシェルが朝の支度をしている気配が聞こえてくる。倦太は寝袋から抜け出し、少し寒さを感じながらテントのジッパーを開けた。外に出ると、リシェルはすでに焚き火の後片付けを始めていた。
「おはようございます、倦太さん。よく眠れましたか?」
リシェルが優しく微笑みながら声をかけてきた。倦太はまだ眠気が残る頭を軽く振り、「まあ、そこそこ」と答えた。寝心地の悪さを感じることもなく、むしろ久しぶりにしっかりと休めた気がした。
「それはよかったです。朝食を簡単に用意しましたので、少し食べてから片付けましょう」
リシェルは焚き火の近くに用意した朝食を倦太に差し出した。昨夜の残り物を使ったシンプルな料理だったが、朝の澄んだ空気の中で食べると、それだけで美味しく感じられた。
「ありがとう。朝からこんなにしっかり食べるのは久しぶりだ」
倦太は食事を口に運びながら、感謝の言葉を口にした。リシェルは静かに頷き、彼の様子を見守っていた。
朝食を終えると、二人はテントや道具を片付け始めた。リシェルは手慣れた動きでテントをたたみ、倦太は指示を受けながら荷物をまとめていく。昨夜までの無気力さは少し影を潜め、彼は黙々と作業を進めていた。
「これでほとんど片付きましたね」
リシェルは満足そうに荷物を見渡し、最後に焚き火の跡を慎重に消していた。倦太はその様子を見ながら、彼女の丁寧な仕事ぶりに感心していた。
「リシェル、お前って本当にキャンプが好きなんだな」
倦太がポツリとつぶやくと、リシェルは嬉しそうに笑った。
「ええ、自然の中で過ごす時間は、私にとって特別なんです。でも、倦太さんも少しだけ楽しんでいただけたなら、それが一番嬉しいです」
その言葉に、倦太は少しだけ照れたように視線を逸らした。
「まあ、悪くなかったよ。お前がいなかったら、絶対やらなかったけどな」
リシェルはその言葉に軽く笑い、「それでも、こうして一緒に過ごせたことが嬉しいです」と応えた。
すべての荷物を片付け終えた二人は、キャンプ場を後にする準備を整えた。帰り道、リシェルは楽しそうに鳥たちの声や風の音を聞きながら歩いていた。倦太も、彼女に影響されてか、いつもなら気に留めない自然の音に耳を傾けていた。
「また一緒にキャンプができるといいですね」
リシェルがふと呟いた。その言葉に倦太は驚きながらも、「そうだな」と短く返事をした。
やがて二人は街に戻り、倦太の家の前で別れることになった。リシェルは再び微笑んで「今日はありがとうございました」と深くお辞儀をした。
「いや、こちらこそ。お前のおかげで、少しは休めた気がする」
倦太は素直な気持ちを言葉にし、リシェルもその言葉を聞いて満足そうに頷いた。
「それならよかったです。またいつでも声をかけてくださいね。自然はいつでもあなたを待っていますから」
リシェルはそう言って、軽やかな足取りで去っていった。倦太は彼女の後ろ姿を見送りながら、心の中にほんの少しだけ、次の休日が楽しみだという感情が芽生えているのを感じた。
部屋に戻ると、倦太はまたいつものようにソファに腰を下ろし、スマートフォンを手に取った。しかし、以前ほどそれに没頭する気持ちにはなれなかった。代わりに、ふと窓の外を見上げると、空には朝の柔らかな光が広がっていた。
「たまには、こんな休日も悪くないか…」
そう呟きながら、倦太は少しだけ微笑んだ。
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