無気力社畜、エルフに無理やりキャンプデビューさせられてみた! (5)

キャンプファイヤーの明かりが優しく二人を包み込む中、倦太とリシェルはしばしの静寂を楽しんでいた。倦太は少しずつ、この静かな夜に心を解きほぐされているのを感じていた。焚き火の温もり、リシェルの穏やかな声、そして自然の音が、彼を少しだけ安らげてくれていた。


しかし、その静寂を破るように、突然近くの森の方からガサガサと大きな音が聞こえた。倦太は驚いて身を硬くし、リシェルの方を見た。彼女も音の方に視線を向けていたが、その表情には驚きや恐れはなく、むしろ何かを見極めようとする真剣な眼差しがあった。


「待っていてください」


リシェルはそう言うと、すっと立ち上がり、音のした方向へと足早に歩き出した。倦太は一瞬、彼女を止めようとしたが、すぐにその決意に満ちた表情を見て言葉を飲み込んだ。


「おい、リシェル!大丈夫なのか?」


倦太は不安に駆られ、リシェルの後を追おうとしたが、彼女は振り返り、静かに首を振った。


「ここで待っていてください。すぐに戻ります」


彼女の声は落ち着いており、倦太はその言葉に従うしかなかった。リシェルはさらに森の中へと進んでいき、その姿が木々に紛れて見えなくなった。


倦太は焚き火の前に戻り、緊張した面持ちでリシェルの帰りを待っていた。彼の心臓は早鐘のように鳴り、何が起きるのか予測もつかない不安が彼を包んでいた。


しばらくの時間が経ったように感じたが、実際には数分しか経っていなかっただろう。遠くから再び足音が聞こえ、倦太は慌てて立ち上がった。木々の間から現れたのは、無事に戻ってきたリシェルの姿だった。


「どうしたんだ?何があったんだ?」


倦太は心配そうに尋ねた。リシェルは微笑みながら、「大丈夫ですよ、ただの動物でした。少し驚かせてしまったみたいです」と答えた。


「動物…?」


倦太は困惑した表情を浮かべたが、リシェルの穏やかな様子を見て、少しだけ肩の力が抜けた。


「そうです。おそらく、この森に住んでいる鹿か何かでしょう。でも、もう安心ですよ。こちらに近づかないように話しておきましたから」


リシェルはその言葉を自然に口にしたが、倦太は少し驚いて彼女を見つめた。


「話しておいたって…動物と話ができるのか?」


リシェルは少し照れくさそうに微笑んだ。


「ええ、私たちエルフは自然と心を通わせることができます。動物たちとも、言葉ではなく、心で通じ合うんです」


倦太はその言葉に驚きを隠せなかったが、リシェルの静かな自信に満ちた姿を見て、それが彼女にとって当たり前のことであることを理解した。


「すごいな…そんなことができるなんて」


倦太はリシェルの力を初めて目の当たりにし、その神秘的な力に驚嘆の念を抱いた。彼女がただの優しい女性ではなく、異世界から来た特別な存在であることを改めて実感したのだ。


「いえ、私にとっては普通のことなんです。でも、倦太さんがこうして自然と触れ合うことで、何か新しい発見をしてくれたなら、それが一番嬉しいです」


リシェルはそう言って、倦太に微笑みかけた。その微笑みは、どこか安心感を与えるものであり、倦太の心の中にあった不安が少しずつ溶けていくのを感じた。


「ありがとう、リシェル…お前、本当にすごい奴なんだな」


倦太は素直な気持ちを口にした。リシェルはその言葉に優しく頷き、二人は再び焚き火の前に腰を下ろした。


その後も夜は静かに更けていった。倦太はリシェルと一緒に過ごすこの時間が、これまでの無気力な日常とは違う特別なものだと感じ始めていた。

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