無気力社畜、エルフに無理やりキャンプデビューさせられてみた! (3)

キャンプ場に到着すると、リシェルは早速準備に取り掛かった。キャンプ場は山の中腹にあり、木々に囲まれた静かな場所だった。遠くに鳥のさえずりが聞こえ、空気は澄んでいて、街中の喧騒とはまるで別世界のようだった。


「まずはテントを設営しましょうか」


リシェルはリュックからテントを取り出し、手早く組み立て始めた。その動きはとても手際が良く、倦太はただその様子をぼんやりと眺めていた。リシェルは一見華奢に見えるが、テントのポールを力強く扱い、あっという間にテントが形になっていく。


「倦太さんも手伝ってもらえますか?」


リシェルが振り返って声をかける。倦太は面倒に感じながらも、断るのも悪いと思い、しぶしぶ手を貸すことにした。テントのペグを地面に打ち込んだり、ランタンを準備したりと、リシェルの指示に従って少しずつ仕事をこなしていく。


「ありがとう、助かります」


リシェルは微笑んで感謝の言葉を述べたが、倦太は特に何も感じることなくただ頷いた。しかし、彼女の自然な笑顔を見ていると、少しだけ心が和むのを感じた。


テントが完成すると、リシェルは続いてキャンプファイヤーの準備に取り掛かった。彼女は薪を集め、焚き火の台を組み立てる。倦太はその様子を見ながら、これまで自分がいかにこうした自然との触れ合いから遠ざかっていたかを思い知らされていた。


「これが終わったら、少し散歩に出かけましょう。自然の中を歩くのは気持ちがいいですよ」


リシェルはそう言いながら、軽く汗を拭った。倦太は彼女が汗をかいてもなお、その美しさを保っていることに驚きながらも、散歩という提案に対して内心では気が進まなかった。せっかくの休日なのに、わざわざ体を動かすのは面倒だと思っていたからだ。


「別にいいよ、ここで休んでるから」


倦太はそう言って断ろうとしたが、リシェルは軽く首を傾げて笑いかけた。


「そうですか。でも、少し歩くだけでも気分が変わるかもしれませんよ」


彼女の誘いに、倦太は何も言い返せなかった。ただ、彼女の楽しそうな姿を見ていると、断るのも悪い気がしてしまう。それに、リシェルがどんな風に自然と接するのか、少しだけ興味もあった。


「じゃあ、少しだけ…」


そう言って立ち上がると、リシェルは嬉しそうに笑って「それで十分です」と応えた。二人はキャンプ場から少し離れた林の中へと歩き始めた。


歩きながら、リシェルは周りの木々や花々に目を向け、時折立ち止まってはその美しさを倦太に説明した。彼女の声は穏やかで、自然に対する深い愛情が感じられた。倦太はその話を聞き流しながらも、何となく心地よさを覚えた。


やがて、二人は小さな川にたどり着いた。リシェルは川の水を手ですくい、「この水は本当に冷たくて気持ちいいです」と笑顔を見せた。倦太はその様子を見て、彼女の無邪気さに少しだけ引き込まれた。


「自然って、こうやって触れてみると意外といいものだと思いませんか?」


リシェルがそう尋ねると、倦太は少し考えた後に「まあ、悪くはないかもな」とぼそっと答えた。それが彼の素直な感想だった。街中で過ごす毎日とは違い、ここには時間の流れがゆっくりと感じられる何かがあった。


キャンプ場に戻ると、リシェルは再びキャンプファイヤーの準備に取り掛かった。倦太も少しずつ手伝いながら、無事に火を起こすことができた。火がパチパチと音を立てて燃え上がると、リシェルは満足そうに微笑んだ。


「これで、今日のキャンプは完璧ですね」


その言葉に、倦太は何も言わずに頷いた。彼はまだこのキャンプを楽しんでいるとは言えなかったが、少なくともリシェルの情熱に感化されつつある自分に気づいていた。

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