無気力社畜、エルフに無理やりキャンプデビューさせられてみた! (1)

無動 倦太むとう けんたは、今日もいつもと同じように無気力な朝を迎えた。薄暗い部屋の中、スマートフォンの画面が微かに光り、指先で無意味にSNSをスクロールする。目に飛び込んでくるのは、他人のどうでもいい日常や、興味のない情報ばかり。それでも、何かをしているという感覚が彼の中の虚無感を少しだけ和らげてくれる気がして、倦太は黙々と画面を見続けていた。


外から差し込む陽の光は、カーテン越しにぼんやりとしか見えない。今日もまた、無目的な一日が始まるのかとため息をついたその時、不意にインターホンが鳴った。倦太は顔をしかめた。誰がこんな朝早くから訪ねてくるのか見当もつかない。


無意識のままスマートフォンをテーブルに置き、重い体を引きずるようにして玄関へ向かう。ドアを開けると、そこには以前に一度出会ったことのある女性が立っていた。長い銀髪が風に揺れ、その美しいエメラルドグリーンの瞳が倦太を捉える。


「おはよう、倦太さん」


彼女は微笑みながらそう言った。その柔らかい声に、倦太は一瞬、時間が止まったような感覚に陥る。目の前にいるのは、ただの人間ではない。彼女は、かつて出勤途中の公園で出会った、異世界から来たエルフ、リシェルだった。


「今日は一緒にキャンプに行きましょう」


彼女はあっさりとそう言い放ち、倦太が返事をする間もなく、玄関の前に準備されたリュックサックを肩に掛ける。


「いや、俺は別に…」


倦太は反射的に断ろうとするが、リシェルはにっこりと笑って首を横に振る。


「大丈夫、楽しいから。自然の中でリラックスするのは、あなたにもきっと良いことよ」


その言葉に込められた確信に、倦太は返す言葉を失う。彼は面倒だと思いつつも、リシェルの押しの強さに抗うことができなかった。そして、次の瞬間には、彼女に引っ張られるようにして家を出ていた。


何がどうなっているのか理解できないまま、倦太はリシェルに連れられてキャンプ場へと向かうことになった。


手を引っ張るリシェルは、無邪気な笑顔を浮かべながら楽しそうに歩いている。倦太は内心、ため息をつきながらも、彼女の表情にどこか惹かれる自分がいることに気づき、少し戸惑っていた。


「キャンプなんて、何が楽しいんだろうな…」


心の中でぼやきながらも、倦太は思い出していた。最初にリシェルと出会った日のことを。

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