竹工房の見学

「さぁ、左江内さん、竹工房へどうぞ!」

「あ、おう……」


 彼女は、まるで体育館にあるような大きな扉を一人で開き、俺を竹細工の部室へと招き入れてくれた。


「こちらが竹細工を作成する部室『竹工房』です」

「すごい竹の数。軽く数えても100本以上はあるな」


 竹細工の部室は工房や倉庫と言ったほうが正しいかもな。


 一般的な体育館の半分の広さがあり、そこに長短バラバラで、かなりの数の竹が置かれている。ゴザが敷かれ、広いスペースと六畳くらいのテーブルがいくつかあるが、機械と言える機械は一つもなかった。


「なあ、大きな機械って使わないのか。竹を切るって大変だろ?」

「そうですね、おっしゃる通りです。ただ、ノコギリで切るのは大変ですが、ここでは機械は使わない伝統工芸法で作成しているんです。ここ、工芸部では昔の作法を知るのも目的ですから、すべて手作業で行なっているんですよ」


 すたれゆく手作り文化。機械化が進むものづくり社会。昔ながらの工芸は絶対に機械では作れない。そういうことか?


「なあ、それにしても、部員一人でこの竹の数って多くないか?」

「そう……ですね……」

「これって、どうやって運んできてるんだ? まさか、有栖川さんが運んでるわけないよな」

「まさか……。それは、お祖父様が軽トラックで運んでくださってるんですよ。わたしには、到底運べません。重たいものは20キロ以上、軽いものでも長さが三メートル近くありますから」


 やっぱりか。よく孫娘のために動く爺さんだな、こっちの爺さんも。まあ、漫画みたいな展開も見てはみたかったけど。いや、非常に残念だ。


「そうなのか」

「でも、竹を切る作業はお祖父様と一緒にやりますよ。手伝う程度ですけど」

「そっちか」

「はい?」

「いや、何でもない」

「そうですか。それでは早速、部屋の紹介を……と思いましたが……」

「ん? どうかしたか?」

「すぐに次の鍛冶場に向かわないと、下校時間を過ぎてしまいます」


 え⁉


 彼女はおもむろにスマホを取り出し、現在時刻を確認していた。


「今、着いたばっかりだぞ」

「すみません。基本的に作業は一つの場所で行い、二つの部室を行き来することがないもので……」

「それは……そうか」

「それと……」

「ん?」

「いえ。私が部長になってから、一度も二つの場所を案内したことがなかったもので……」

「って、言うと何か。俺が初めてってことか?」

「はい」


 俺はつまり、変人ってことなのか?


 なんだかんだ、彼女と話をしていたこともあり、楽ではないがそれなりに歩みを止めずに来れていた。


「まあ、それならしょうがない。分かった。それじゃあ、次の場所を頼む」

「本当に、すみません」

「いいって。別に有栖川さんが悪いわけではないから」


 それに、俺が歩くの遅かったかもだしな。


「それでは、次は鍛冶場です。そこが工芸部最後の部室になります。ここからでしたら、あと10分くらい歩いた場所になります。それでは、急いで向かいましょう!」

「お、おぅ……」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る