ラキ、ガラクタを拾う。

「あん? 何かうたぁ?」

〚待ってください! ご主人様!!〛


 ラキは鉄パイプをカン、振り下ろすと、くるっと踵を返して、ツカツカと歩いてカプセルへ近づく。


「うちがわざわざ引き返したんやで? 解ってるんやろなぁ?」

〚……ああ。キラーストーンHEMPをそこのポケットに入れてくれ〛

「……おけ」

「オイ? 信用シテ良イノカ?」

「何や、ビビってるんか?」

「相手ハ電脳ノ悪魔トカ言ウ奴ナンダロウ?」


 ラキはにやり、と笑うと、ポイッ、と石をポケットへカラン、投げ入れた。


「ア……」

「ほんなんやってみたら分かるんや。ビビってたら話が進まんやろがい!」

「……ソンナモンカ?」

「まあ、見れば分かるやろう、ほら!」


 ポケットに放り込まれた石はカプセルの水溶液の中へと入り、重力に任せて水中を下降する。


 シュルル、マクスウェルから触手のようなものが伸びて石を掴み上げると、そのまま取り込んでしまった。


 ラキがニカッと笑い、鉄パイプをガッ! ガラスへと突き立てた。


──ビュッ、中の水溶液が漏れ出して、ビシッガラスのヒビが蜘蛛の巣のように大きく広がり、バリン、割れた!


「アモン!」

「オウヨ!」


 アモンはカプセルの中に腕を突っ込み、ソレを掴み出すと、ラキが指差す方へ投げた。


 分解者デストロイヤーだ。


 アモンに投げられたマクスウェルは分解者に近づくと触手をシュルル、伸ばして操縦桿の方へ移動する。更に触手を伸ばして、機械の中へと潜り込ませる。


 ブン、と言う音とともに分解者に光の筋が走り、ガコン、動き出す。


〚お嬢! ドームの外へ!〛


 分解者に取り付けられているスピーカーからマクスウェルの電子音声が発せられる。


「アモン!」

「アイヨ!」


 アモンはラキを拾い上げてマクスウェルがいる方、出口を目指して駆け出した。


揺り籠ドームはぶっ潰す。お嬢と共に外に出て、安全な所まで避難してくれ!〛

「任セロ!」

 

 と、軽くひと言交わすと、マクスウェルはカプセルの方へ向き直り、アモンは一気に昇降機まで辿り着いた。


 ドームの方から轟音が鳴り響く。施設全体が振動し、天井からパラパラと粉のような物が降ってくる。

 あまり時間がないのを察して、アモンは昇降機に手をかけた。


──バキイ!! 昇降機の籠を引きずり出そうとしている。


「アモン! 何すんねや!」

「……コウスンダヨ!!」


 ゴウン!! アモンは昇降機の籠取り除いて後ろへ放り投げた。


「阿呆なんか?」

「阿呆デハナイ!」


 アモンは昇降路の中へ入るとガイドレールを伝って一気に駆け上がり、外に出た。


「おおう!? あんた、やるやんかいさ!?」

「マダダ!」


──ドン! ドーム付近の地面が陥没して、ズズズッ、陥没した大穴へと地面が流れ込む。


「おおう、マクスウェルあいつ大丈夫かいな?」

「大丈夫ダロ?」


 蟻地獄のように次々と引きずり込まれてゆくスクラップの山。中央のくぼんだ場所が、ビカビカと烈しく放電している。


 少し離れた場所で成り行きを見ている二人は、少し飽きてきたのか、方やあくびをして、方やウトウトし始めた。


──ドウン……。


 蟻地獄の方で大きな音と、地響きがして、一瞬ビリッとするように空気が弾けた。


 ラキは既に目を瞑って眠りについている。アモンは片目を開けて音がした方を確認した。


 蟻地獄の方から歩いてこちらに向かう人影の姿が見えた。アモンはジッとその人影を見ていたが、おおよそ誰か検討はついている。


 しかし。


「誰ダ? お前……」


 見れば黒いスーツで身を固めたような、執事の格好をした若い紳士が立っている。

 頭にシルクハット、目にはモノクル、片手にステッキ、手には白手袋、胸ポケットには律儀にハンケチーフまで入っている。黒い長髪は後ろで一つに束ねていて、細いリボンで括られている。


「改めて挨拶致しましょう。わたくしが『電脳の悪魔』ことマクスウェルと申します。以後、お見知りおきを……って、お嬢!?」


 ラキは起きているのか、いないのか、胡座をかいたアモンの膝の上で横になっている。足場が悪いのでソファ代わりにしているようだ。


 アモンは肩肘をついて言う。


「オマエ誰ダ?」

「やだなぁ、アモンさん、マクスウェルですよ? 今言ったじゃないですかぁ……」

「知ランナ? 何カ証拠デモアルノカ?」

「殺り合いましょうか?」

「上等ダ、ゴルァ!!」


 ガシッ! と組み合う手と手。ビリビリと空気が震える。

  

 バチン! と開かれ るラキの瞳。


だあほど阿呆っ!!」


──スパパパパーン!!


 どこからか取り出したスリッパでラキは二人の頭を叩いた。


「はい、復唱!」

「復唱!」「復唱!」

「ルール其の一、絶対に仲間割れはしない!」

「「ルール其の一、絶対に仲間割れはしない!」」

「よおおぉぉしっ!」


 スタッ、ラキがアモンの足の上からおりる。


「ええか? 耳の穴かっぽじってよお聴きやあ?」

「はい、お嬢!」「ハイ、オ嬢!」

「言い争いくらいやったら目ぇ瞑るけんどなあ? 殴り合いや殺し合いは許さへんでえ。次やったらお払い箱や! ええか、わかったら返事!!」

「はい、お嬢!」「ハイ、オ嬢!」

「よおおぉぉしっ!」


 カン! 鉄パイプを思い切り地面に打ち付ける。


「ほんで? マクスウェルやな?」


 マクスウェルのシルクハットをぐいっと持ち上げる。顔を近づけて視線が合い、マクスウェルがニコリと笑う。


「はい、私がマクスウェルでございます。以後お見知りおきを……」

「ふうん? おっとこまえやんかいさあ!? この皮膚……なるほどなあ、メタルシリコンか、あんじょう出来てるやん?」


 と、ラキはマクスウェルの頬を引っ張ってみる。かなり上機嫌だ。


「ところでお嬢?」

「何やマックス」

「ま、マックス!?」

「せや、あんたの名前、長いから短くしたったんや、文句あるか?」

「い、いえ、身に余る光栄です?」


──スパコーン!


「疑問符ついとるやないかいっ!!」

「何も殴らなくても……そして、頭はやめてください、頭は……。ところでお嬢……」

「なんや?」

「これから直ぐに向かうので?」

「お? なんや、ノリノリやなぁ、マックス。残念ながら魔女の居場所までは把握出来てへんねん。直ぐにマックスあんたの力が必要になるっちゅうわけよ」

「なるほど。電波だけでは追いにくいから、どこか有線があるところへ連れて行ってもらいたいのですが……」

「うん、せやから次はゼッド教団の総本山、天城シエルへ行くつもりやよ?」

「……はいい?」「ハイイ?」

「シエルに行くっってんやろ?! 何やあんたら、これから神代の魔女をろうってもんがビビってるんけ?」

「まさか?」「マサカ?」


 三人顔を突き合わせて、クツクツ、嗤う。









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