ラキ、電脳と話す。

 ドームの中は球状でその殆どが空洞となっている。その空洞のど真ん中に、何やらカプセルの様なものが浮遊しており、そこへ続く橋桁があるだけだ。


マクスウェルガラクタ、見ぃ〜っけ♪」

「マクスウェルト言ウノハ、カプセルアレノ事カ?」

「ん? よぉ見てみぃや? カプセルの中に何ぞ入っとるやろ?」


 ラキは分解者デストロイヤーを降りて、アモンと橋桁を進みながら、浮遊しているカプセルの中身へと目を遣る。


「ナン……ダアレ? 脳ミソ?」

「まあ、形は脳ミソみたいなもんやけど、正確には電脳。中核以外は全て電脳染色体で出来ていて、そのほとんどが生きるスーパーコンピューターや。そしてその核となる【賢者の永久機関石エターナルクリスタル】は無限のエネルギーそのもの。外部からの電力や魔力を必要とせん永続的なエネルギー発生源なんや」

「生キル、スーパーコンピューター?」

「せや、その全てが記録媒体にしてアウトプット、インプット等の外部干渉も担っている謎の生命体と言っても過言ではないやっちゃ。簡単にうたらアンタと同じ、バケモンやよ。例えばあっこにある分解者デストロイヤーをハックして自分の身体にする事も容易に出来るし、その辺の金属に干渉して構造そのものを変えて変形、変質させる事も可能、まさにバケモンやな!!わははは」

「……サッパリ解ランガ?」

「まあ、せやろうな? わははは!」

「シカシ、危険ナ奴ダト言ウ事ダケハワカッタ。コイツヲ世ニ解キ放ツト言ウ事ハ、即チ世界ノ滅亡ヲ意味スル、ト言ウ事ダロウ?」

「まあ、滅亡とまではいかんでも、シンギュラリティは免れやんやろうなぁ」

「首輪デモ着ケルノカ?」

「そんなもん糞の役にも立つかいな! マクスウェルにはコレや!」


 ラキはポーチから小さな石を取り出した。


「キラーストーンHEMP。私の身になんかあったらマクスウェルの脳は溶けるっちゅ代物しろもんや!」

「……何ダカ知ランガ、俺達ヨリアンタノ方ガ、余程悪イ奴ニ見エテ来タガ?」

「褒め言葉と取ってええんやな?」

「……当タリ前ダ」


 二人顔を突き合わせて、にやり、と笑う。


「シカシ、コンナハイリスクナ奴ヲドウシテ保管シテイルンダ?」

「ん? 奴の頭はさっきもうた通りスパコンや。その情報量は計り知れんモンがある。何なら世界中の賢者を差し置いて、真理に一番近いやろうな? 彼は生かされている代わりにその情報を提供しているっちゅ理由わけやなぁ」

「……ナルホド? デ、ゴ主人様ハ奴ヲドノ様ニ扱ウオツモリデ?」

「そんなん決まってるやろう? 【神代の魔女】をぶっ殺す為や!」


 ラキが少し眉間にシワを寄せるが、すぐに鼻歌を歌って鉄パイプをカンカン鳴らし始める。


 カーン、カーン、カーン、ラキとアモンはドームの中央へと進む。


「マクスウェル!」

〚声帯認証エラー、もう一度お試しください〛

「うっさいわ! こんガラクタ!」


──ガン! バチッバチチッ!


 鉄パイプを声帯認証のマイクへと叩きつけると、火花を放って煙を上げる。そのままガンガン機械を殴りつけているが、アモンがラキに問う。


「オイオイ、ソンナニ乱暴に扱ッテ大丈夫ナノカ?」

「何言ってん? こんな機械あっても何の益体もないやん? 必要なんは中身マクスウェルだけなんやで!」

「ソリャソウカ知ランガ、……マアイッカ。 ヨシ、俺も手伝オウ!」

「お? あんたもようやく解って来たみたいやな? こんなんは叩けば何とかなるんや!」


 ドカッ! バキッ! とやりたい放題殴る蹴る。やがてカプセルに取り付けられた機械は黒煙をあげて、うんともすんとも言わなくなった。


〚おやおや、穏やかじゃありませんね? いったいどなたですか、私の退屈な安眠を妨げる輩は?〛

「お? マクスウェルか?」

〚ほう、私の名前をっていると言う事は、声帯認証無視して破壊するただの賊、と言うわけではないようですね?〛

「ただの賊が、こんな可愛子ちゃんなわけがないやろう?」

〚はははは! 愉快なお嬢ちゃんですね!?〛

「そんなことよりガラクタ!?」

〚わざわざ私をナンパしに来たにしては、失礼な物言いですね? そして物騒な獣まで連れて?〛

「おお、話わかるやん? さすがは電脳の悪魔やな!!うちはあんたをナンパしに来たんやでぇ! しゃあけど何や、電脳の悪魔ともあろうモンが、厄災の魔狼にビビってるんかぁ?」

〚……殺しちゃって良いんですね?〛

「……お嬢、コイツ、殺ッテモイイカ?」

〚ははは、飼い犬が何か吠えてますねぇ? 愉快愉快!〛


──バキッ!


 鉄パイプがカプセルのガラスに炸裂し、軽くヒビが入る。


〚……出してくれるのだろう?〛

「アンタが条件呑んでくれたらなぁ?」


 ラキは鉄パイプをペロリ、舐めて笑う。


〚ふむ、聴きましょう〛

「コイツや」


 ラキはポーチから件の石を取り出した。


〚キラーストーンHEMP……〛

「へえ、ホンマ話が早いなあ? なあ、アンタの力を借りたいんや、どうや? うちの奴隷にならへんか?」

〚はははは! 気持ち良いくらいにド直球ですね!? 嫌いじゃないですよ?〛

「ほいたら──」

〚勘違いしないでくださいよ? まだ何も返事はしておりませんし、答えはノーです〛


 バキッ!……ミシ……。


〚おやおや、お怒りですか? ガラスが割れてしまったら、どうなるのかご存知なのでは?〛

「知っとるよ。この辺の機械を取り込んでうちらを襲う気やろ?」

〚へえ……バカではないようですね?〛

「うちはアンタを脅す事だって出来るんやで?」

〚……何故しないのです? やってみれば良いじゃないですか?〛


 ラキはデバイスを操作して一枚の画像をカメラを通してマクスウェルへ見せた。


〚……なるほど、私を脅すには十分な情報です〛

「アホ言うたらアカン。この子は私の保護下にある、他のモンに手出し出来んようにな? 別にアンタに振られたかってなんもする気はあらへん。言うたやろ? うちはアンタをナンパしに来たんや」

〚その子の安全は保証済、と言う事なんですね?〛


 ラキはデバイスの写真を見て少し微笑むと、それを消してマクスウェルを見た。


「世の中、絶対に安全な場所なんて無い。しゃあけど、可能な限り魔女の干渉はない所や」

〚……魔女〛

〚うちの目的はあの【神代の魔女】をぶっ殺す事や! その為にうちの奴隷になって欲しいんや!〛

〚……〛

「アカンか?」


 しばしの沈黙が続く。


〚なるほど、だからその獣が必要だったのですね。そしてこの私も必要不可欠。私がこの話を断れば貴女の計画は全て頓挫することになる〛

「せや」

〚……ではこの話、破談と言う事でお願いします〛


 再び沈黙が続く。


「アモン、やめよし……」


 見ると、アモンが拳を握りしめて今にも殴りかかりそうになっているのをラキが制している。


「……ほうか、ほな帰るわ! 行くでアモン!」

「……良イノカ? イデッ!?」


 バシッ、とアモンのすねにローキックが入る。


「口の利き方!」

「……ソノ線引、ドコニアンダ?」


 ゲシゲシ、ローキックからの回し蹴り。


「気分やで?」

「……ソウカ。デハゴ主人様、参リマショウカ……」

「ほうほう、それでええんや。解ったら行くで!!」


 バチチ! カプセルの方で機械が放電する。


〚待て!〛


 アモンがチラッとカプセルを振り返る、が、ラキは構わず歩く。


「イイノカ?」

「……知らんわ」


 カーン、カーン、カーン鉄パイプを振り回しながら橋桁を戻る。


〚待ってくれ!〛


 カーン……ラキが足を止める。


「誰にモノ言ってるか解ってんのか?」


 と、少しだけ振り返って言う。


「……」


 マクスウェルは押し黙り、少し考えるような沈黙。

 ラキは無視して、鉄パイプを鳴らそうとした時。


〚待ってください! ご主人様!!〛


 マクスウェルの言葉がドームに反響して、その残響が消えた頃、ラキの口角がグイッと吊り上がった。

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