ラキ、潜入する。

 ポールの下に埋められていると言うドームへの入口は、ラキが言うには少し離れた所にあると言う。


 二人はスクラップの上を踏みつけながら、道なき道をひた歩く。足場が悪く、ラキは移動するだけで苦戦している。それを見かねたアモンは、ラキをひょいとつまみ上げて、自分の肩に乗せた。


「おやおやあ? 優しいとこあるんやんかいさぁ!」

「……降リルカ?」

「嫌っぷぅ〜♪ えへへぇ~」

「……ソウカ」


 上機嫌のラキはアモンの肩で足をパタパタさせて喜んでいるようだ。アモンはとくに表情には出していないが、右手はラキが落ちないように構えている。


 しばらく行くと、スクラップで出来ていると思われる掘っ立て小屋が見えて来た。今にも壊れそうな風体だが、入口らしきところに屈強そうな二人の男が立っている。


「アモンやれるか?」

「誰ニモノヲ言ッテル」

「ん、厄災とか言う魔狼や!」

「知ッテルナラ聴クナ、ヨウ!」


──ドゴオオオン!


 アモンの投げたガラクタがブンブンと回転しながら、掘っ立て小屋の二人を巻き込んで、小屋ごと破壊した。


「あんなあ? もう少し加減せんと入れんくなるやんか、あほう!」


 ラキはペチペチとアモンの頭を叩くが、顔は笑っている。


 スタッとアモンの肩から飛び降りて、瓦礫の中からいい感じの鉄パイプを取り出した。

 入口付近に転がっている二人を鉄パイプで突いてみるぶん殴ってが反応はない。


「ふむ、アモーン♡」

「カモーンミタイニ言ウナ!」

「ふはは、ほら、ええ感じの鉄パイプ手に入れたわ♡」

「ドノ辺リガ良イノカワカランガ?」

「なんや、センスのないやっちゃなあ? ほら、先っちょ曲がっててバールみたいになっとるやろ? これがええんや! 解るかぁ?」

「……マルデ解セン」

「ほんだらええわ、瓦礫、どけてんか!?」

「ワカッタ」


──ドゴン! 落ちた屋根を退けると中から箱型の施設が出現した。箱には扉がついていて、その周辺の瓦礫を取り除く。


「これがドームに続く昇降機や。あんた、入れるんか?」

「サアナ?」


 ガシャッ、と蛇腹の扉を開けると中はわりと広い。アモンが頭を下げて中に入る。箱の中にスッポリと収まる。


「……ぷぷ。アモン、なんや四角くなって、かいらし可愛いな?」

「……ウッセ、イイカラ早クシロ。狭イ」


 ラキがアモンを下から睨みつける。


「……なかなかその口治らんなあ? また顔踏んで欲しいんか?」

「……早ク、シテクダサイ。ゴ、ゴ主人様……」

「へえ? 今度はしおらしなあ? ……まあええわ、早よ行くで!」


 箱の中であぐらをかいているアモンの足の上にちょこんと座るラキ。アモンが扉をガシャンと閉めて、ラキの支持でアモンが降下ボタンを押した。


 昇降機の下降に少し驚くアモンに、クスクス笑うラキ。アモンは少し顔を赧めて顔をラキから背ける。が、ラキがその顔をニタニタとニヤつきながら覗き込む。


──ウウン……ガシャン!


 最深部に到着すると、アモンが待ってましたとばかりに昇降機の扉を開けた。ラキはニヤニヤしながらアモンを眺めて降りようとしない。


「早ク降リ……テクダサイ、ゴ主人様……」

「ふふん。お利口さん、お利口さん♪」と、アモンの頭を撫でつける。


 ピョイッ、とラキが飛び降りると、続いてノソリ、アモンが降りた。


 昇降機を降りるとドームに向かう無機質な廊下が、真っ直ぐに続いている。それまでにいくつかゲートを潜らなければならない。


 ラキはふんふんと鼻歌交じりで、鉄パイプをカンカン鳴らして進む。アモンはそのすぐ後ろを何も言わずについて行く。


 ゲートに着くと鉄格子の手前に、セキュリティカードをかざすタッチパネルが設置されている。


──バキッ! 鉄パイプでそれを壊すと、けたたましくサイレンが鳴り響く。


「オイオイ……」

「ん? 何か文句あんの?」

「……イヤ」

「ほな、格子これぶっ壊してんか?」

「ホイキタ!!」


──ガッシャン!


 一蹴りで破壊した。


 すぐに衛兵に囲まれるが──。


──バキッ! 鉄パイプが炸裂!


 次々に衛兵を殴り倒して行くが、衛兵が拳銃を取り出すと──。


──ドガガ!! 衛兵の顔にアモン掌底が減り込む!


 こうして、二つ三つとゲートを抜けるが、サイレンは鳴り続いている。三つ目のゲートを抜けると、少し道が開けて来て、遂にドームの入口らしき場所へと到達した。


「アモン、あれ、やれるかぁ!?」


 ドームの入口に巨人の様に大きな……分解者デストロイヤーが二機。赤い魔導線が、大きな体躯を象る様に妖しく光っている。

 アモンの身長の三倍はあるだろうか、まだ遠く離れているが既に軽く見上げるほどである。


「ゴ主人様ノ仰セトアラバ!」

「お? 言えるようになったやん♡」


 ペチッとラキはアモンの背中を叩いて、分解者デストロイヤーを指差して言う。


「ぶっ壊せ!」

「仰セノママニ!」


 キュイーン、と分解者デストロイヤーから吸気音の様な音と共に、ガシャン、と大きな音を立ててこちらへと向き直る。

 大きなアームが持ち上げられてどうやら戦闘モードのようだ。


 分解者デストロイヤーは作業用パワードスーツの為に操縦席コクピットは剥き出しなのだ。


 つまり


 わざわざ外側と戦う必要がない。かと言ってそんな事は百も承知の相手は、そのバカでかいアームで操縦席コクピットを防御するだろう。


  ドン、足元の鉄板が凹む勢いで踏み込んで、弾丸の様に飛んでゆく。

 分解者デストロイヤー①は片腕で操縦席コクピットを隠し、片腕をグンと引いた。

 

──ズガン! 足元の小鼠でも叩き潰すかの様に振り下ろされるアーム。


 分解者デストロイヤー①がアームを振り上げるが、そこにアモンの姿はない。


「後ろだ!」もう一機の分解者デストロイヤー②が叫ぶ。


  すぐさま分解者デストロイヤー①が振り返るが、アモンを捕捉する事は出来ない。既に背面を登って取り付いているからだ。


──メキ! 操縦席コクピットの背後から腕が突き出して操縦士の首根っこを掴むと、バリッ、とそのまま引っこ抜いて放り投げた。


「なんて出鱈目な!? うっ!?」


 分解者デストロイヤー②の操縦士がそんな言葉を吐いた時には、自分の眼前に鉄パイプが迫っていて、グシャ、と顔面に減り込んだ。


「アモン、うちのミスや。機体は壊したらアカンねやった!」

「……ソウカ」

「まあ、これで確保出来たからええわ!!」


 と言ってラキは操縦席コクピットから操縦士をドカッ、と蹴落とすと、みずから操縦席コクピットへ乗り込んで操縦桿を握りしめた。


 ラキを載せた分解者デストロイヤーはグリン、とドームへと向きを変えて入口へと移動した。

 ドームの入口には先程のタッチパネルとは別に生体認証用のカメラが設置されている、が、ぶっ壊した。


 サイレンは止まらない。


 各所で警告赤いランプも明滅しているが、お構いなしに。


「ほな行くで!!」

「御意!!」

「ヒイィヤッハァ───!!」


 分解者デストロイヤーの巨大なアームがドームの入口を吹き飛ばした。











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