ラキ、ゴミ捨て場。

 この世界のほとんどが、海に呑まれた事に驚いたアモンであったが、辿り着いた島には更に驚愕せざるを得なかった。


「何ダ……ココハ!?」


 着いた島は辺り一面ゴミで埋め尽くされており、足の踏み場が既にゴミであった。ゴミと言っても生活で廃棄されたゴミではなく、機械や乗り物等のスクラップがそのほとんどを占めている。


「破壊と創造のくに・『恒星リボーン』の惑星のひとつ『惑星・トレジャー』や」

クニ……?」

「そこから説明せーへんとわからへんか? まあ、しゃぁあらへんな……」

「……スマン」

「ええて。説明したるわ──」


 アモンが投獄された後、三千年の間に、世界は加速的に文明を進化させ、魔法と科学の融合により、様々なものを創り出した。

 その反面、人々は世界中の資源を使い切り、自然のバランスが大きく乱れた。その結果、未曾有の大災害に見舞われて、多くの大陸が地形を変えて、海に沈んだとされる。


 そして、残された島々の利権を巡って、人々は争い、奪い合うと言う、激動の時代を迎えた。

 やがて人々は、自ずから淘汰され、仮初めの平穏を取り戻した。

 島は大小様々で、気候や地質等により、それぞれ特色が違い、棲み着いた動植物も様々である。当然、そこに生まれる文化も千差万別、多種多様であり一様にして同じものはない。


 残された人々は、この見渡す限りの広大な海を宇宙になぞらえて、点在する島々を『星』と呼んだ。

 人々は、各島々にコロニーを形成し、それが大きくなって衛星となり、それをまとめる惑星が生まれ、それらを統治する恒星が生まれたとされる。


 その中のひとつに、破壊と創造のくに『恒星リボーン』がある。


 世界の資源は有限であり、今あるものを循環させて使用しなければならない。

 そこでこの星は、世界中のスクラップを集めて、新しいモノを産み出すと言う、再利用、再生、創造を主とした生業で生計を立てている。


「──っちゅうわけや! んでもってここが、ゴミくずスクラップもとい、トレジャーしま、『惑星・トレジャー』ってわけ。どや? 何とのぉでも解ったか?」

「……破壊ト創造?」


──ドッゴオオオオンン……

──ドカ!バキ!バリリリリリ!


 アモンは眼の前で行われている作業を、食い入るように観ていた。


「アレハ何ダ?」

「ん、あれか? おもろいやろ? あれが、分解者デストロイヤーや!! 世界中からここゴミ捨て場スクラップヤードに運ばれて来るモンを、とにかく細かく粉砕してゆくんや」

分解者デストロイヤー……」


 アモンの視線の先には、巨人の様に大きなロボットが、とんでもない動きをしている。その中央に人の姿が見えるが、どうやらそこが運転席になっているようだ。大きなパワードスーツとも呼べる様な、人工の乗り物のようである。


「せや。ほんで、細かくなったスクラップは向こうの分別器セパレーターへと運ばれるんや。その後は更に粉砕器デコンポーザーにかけたり、溶解器パルパーにかけたりして、その先の生産者アルケミストへ運ばれる為の素材マテリアルになるっちゅうわけや」

「……生産者アルケミスト?」

「んにゅ。物作りは全て錬金術師アルケミストの領分やさかいな?」

「……ココニハ何ヲシニ来タ?」


 ラキはちらりとアモンを見たあと、にたぁ、と気持ち悪い笑顔を作った。アモンは少し嫌な予感がよぎる。


「ふふん。ここにもアンタとおんなじ、カイブツがおるんやよ!」

「カイブツ……?」

「せや。まあ、どっちかちゃうと変態の類いかも知れんけんどな?」

「変態……」


 アモンはラキの顔をしげしげと見つめ、少し考えたが、すぐに思考を諦めた。


「ほらあそこ、よぉ見てみぃ?」


 見るとゴミ山の頂上に一本のポールが立っており、そこに髑髏の頭部に歯車を模した旗が掲げられている。


「……」

「髑髏の頭部に歯車、通称『死せる電脳サイバー・デッド』、それがヤツのトレードマーク。あの旗の下、ゴミ山の下にクソでかいドームが埋められとるんや。そこにヤツがおる」

「ヤツ?」

「うふ♡ せや、自らの身体を機械に変えて永遠の命と無限の頭脳を手に入れた、稀代の天才にして世界的凶悪犯。『電脳の悪魔・マクスウェル』!!」

「マクスウェル……知ラネェナ?」

「そらそうやろ。あんたがおった頃は、電脳のデの字もあらへんかったしな?」


 アモンが首を傾げる。


「何ダ、ソノ電脳ト言ウヤツハ?」

「何て説明したらええんや? 簡単にうたらオートマタ、つまり人工的な頭脳で動く機械と言う感じか……?」

「オートマタ、カ。ナルホド、ソレハ厄介ナ相手ダナ」

「何をうてるん? 敵やないで? うちらの味方にしたいんや」

「世界的凶悪犯、トカ言ッテナカッタカ?」

「あんたかて何や変わらんやろ!? 『厄災の魔狼』なんて言われて嬉しがってたんちゃうん?」

「ウ、嬉シガッテナドナイ! 人ガ勝手ニソウ呼ンデイタダケダ!」


 アモンは視線を反らして下唇を突き出した。ラキはそれを見て、ニマニマとした笑みを浮かべる。


「まあ、二つ名があるっちゅう事は、それだけ大っきい存在やう事の証やさかいな! 自慢してもエエんやで? 厄災の魔狼さん?」

「バッ! バカッ! ソ、ソンナ事ヨリ、ソノマクスウェルトヤラヲ引キ入レル算段ハアルノカ!?」

「はん、うちを誰やと思ってるんや! 『厄災の魔狼』の飼い主やで!?」

「結局、俺ダヨリ、ト言ウ事カ……」

「まあ、戦力的にはやけどな? それよか、マクスウェルが仲間になるかどうかは、うち次第やし。あんたはうちを無事にマクスウェルのもとに連れてってくれさえすればエエんや」

「……ワカッタ」


 ゲシゲシ! ラキがアモンのケツを蹴る。


「ご主人様はどないしたんや!」


 アモンはチッ、と舌打ちして、またゲシゲシ、ケツを蹴られる。


「舌打ちってどうゆう事や! 躾け直さなあかんか!? ああん!? ちょっと、そこに四つん這いになりよし!」


 ラキは口先を尖らせて、足元を指差して言う。


「……」


 アモンは黙ってそこに膝、そして手をついた。ラキはアモンに顔を近づけて言う。


「わんころ……ほら、『ワン』うてみ?」

「……ウゥ」ギリッ。

「唸るんやない、ワンやワン!」


 アモンは目を瞑り、もう一度見開くと、ニコリと笑って。


「……ワン!」べろん。


 と、吠えるや否や、アモンはラキの顔を舐めた。


「なっ!? なっ……ふ、ふん。初めからそないしとけばええねん。……もっ、もう少しそうしときいや?」


 アモンは少し笑って言う。


「ハイ、ゴ主人様……」


 ラキはアモンの背中に座って足をパタパタさせた。そして少し笑って、舐められた頬を触り、サイバー・デッドの旗を眺め。


 にへらっ、と笑った。

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