第10話
家に着くと、母親とコーヒーを飲みながら談笑していた。私は梨花の顔と母の顔を見て安心した。
「あら早かったじゃない」母が言った。
「うん、梨花がいるからね。ダッシュしてきた。梨花、大丈夫?」
「うん、久しぶりにすごくよく眠れて、美味しいご飯も頂いて、絶好調」梨花はそう言って笑った。
昨日の深刻な顔が嘘のようだった。
「今日も泊ってく?明日は日曜日だし。私はバイトがあるけど、ゆっくりしていきなよ」
「そうよ、そうしなさいよ。なんだか娘が二人になったみたいで嬉しいわ」母が助け舟をだしてくれた。
「でも、迷惑じゃないですか?」梨花は嬉しいような困ったような顔をして言った。
「梨花ちゃん、彼氏はいるの」母が無遠慮に聞いた。
「いませんよー」と梨花が言った。
「あら、多佳子と一緒じゃない。若いのにねー」
「お母さん、いきなりなに言ってるのよ。こんな田舎じゃ、出会いだってないんだよ」
「なに言ってるの。若いんだから、いくらでもあるでしょ」
「それがそうでもないんだよー。昔みたいに誰でも彼でも結婚できた時代と違うんだから」
「あらひどいこと言うわねえ。お母さんの時代だって、誰でも彼でもって訳じゃなかったんだから」
「そうですか。私たちも頑張ろうね」と梨花に向かって声をかけた。
それから私たちは部屋に戻った。
「今日は何してたの?」私が言った。
「なにも。とりえあず漫画読んでた」
「気分はどお?」
「これからどうなるかと思うと、怖くて。でも、お母さんと話してたら、気が紛れて良かったよ」
「実は、梨花が寝てから聡美さんに相談したんだ」
「えっ、聡美さん何だって?」
「どうやらMSホールディングって、問題になってるらしい」
「ほんとに?」
「ニュースで持続化給付金詐欺のこと言ってるでしょ。あれにも加担してるようだって。警察も動いてるみたい」
「なんだか怖い。私、どうなっちゃうのかしら」
「梨花はむしろ被害者だから、逮捕とかはされないと思う。そのまま会社がつぶれちゃった方が、縁が切れていいと思うよ」
「でも怖い」
「そうだよね。事情聴取くらいは受けるかもしれないけど、仕方ないよね」
梨花はうつむいて膝を抱えた。
「とにかくさ、今は様子を見るしかないって。コロナで休むことにしてあるんだし、会社には近づかない方がいいよ。しばらく家にいていいから」
「ほんとに。迷惑じゃない?」
「ぜんぜん。乗りかかった船だし、聡美さんも心配してくれてるから、そうした方がいいよ」
「家に荷物を取りにいってもいいかな。着替えとかないと困るし」
「そうだね。一緒に行こうか」
「そうしてくれると助かる」
私たちは梨花のアパートに行った。ヤクザが待ち伏せしてたらどうしようかと内心ドキドキしたけど、なにごとも起こらなかった。
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