第9話
翌朝、私は6時に起床して、バイトの準備をした。梨花はまだ眠っている。よほど安心したのだろうか。出る前に梨花をゆすって、帰ってくるまで私の家にいるように言った。両親には、梨花がしばらく泊まるかもしれないから、お昼ご飯を食べさせてあげてって言ったけど、別になにを詮索されることもなかった。
ベーカリー着くと、焼き立てのパンのいい香りが鼻を突いた。時給は900円だけど、やっぱりここが私のいる世界。店長さんと奥さんと私のこじんまりとしたお店。焼き立てのバケット、食パン、総菜パン、サンドウィッチを並べる。どれも美味しそう。7時にお店を空けると、すぐにお客さんが入ってきた。ほとんど常連さんだから、世間話をしながらレジを打つ。なんの摩擦も軋轢もない世界。
バイトは午後3時まで。梨花は静かに私の部屋にいてくれるだろうか?
店長さん夫妻は独学でパン作りを勉強してベーカリーをオープンしたのだ。私にパン作りを勉強しないかと言ってくれる。それもいいかなと思う。美味しいパンに囲まれて暮らせるとしたら、こんな幸せなことはない。
コロナが流行しだしてから、地元のお客さんが増えていた。繁華街へ行く人が減った分、地元で消費してくれる人が増えたみたいだ。私も独立するチャンスあるかな?なんて時々考えたりする。
店長さんは、パン作りを学びたかったら5時からお店に入るようにって言われている。それから、閉店後に翌日のパンの仕込みもある。決して楽な仕事ではない。勉強だから、もちろん時給は付かない。でも、昨日の飲み会でみんなから刺激を受けたし、なによりも梨花が私のスイッチを入れた。本気で考えてみようかな。
3時にバイトを上がると、急いで帰宅した。梨花がいなかったらどうしようと思った。
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