第8話

「あら梨花ちゃん、久しぶり。調子はいかが」と母が言った。

「調子はまあまあです。今日はお世話になります」と会釈して玄関を上がった。

 そのまま二階に上がり、私の部屋に入った。

「わー懐かしい、変わってないねー」と梨花が笑顔になった。

「うん。なにも変化がなくって、私だけ取り残されていってる気分だよ」

「こんな田舎で無理に変わろうとしても、うまくいくわけないよね」

「そうだね。私たち落ちこぼれは、とっとと結婚して、子でも作って暮らすのが幸せかもしれないね」

 明日は土曜日だけど、私は7時からバイトがあった。梨花も出勤らしいけど、会社にはコロナに感染したかもと言って、休むようにすすめた。梨花は素直に頷いた。さっそく会社の上司にメッセージを入れた。

“知り合いがコロナにかかってしまって、私も濃厚接触で検査しなければいけなくなりました。どうしたらいいでしょうか?”

 すぐに上司から返信が入った。

“それは大変だ。会社に来られても迷惑だから、検査の結果が出るまで休んでいいよ”

“ご迷惑おかけします。検査の結果が出たらお伝えします”

 上司から返事はなかった。

 それから梨花にシャワーを浴びさせ、私のパジャマを貸した。梨花は疲れていたらしく、すぐに寝息を立てた。

 私は梨花の会社について調べることにした。MSホールディングスと検索をかけた。会社のホームページが出てきた。威勢のいいキャッチフレーズや、心地の良い言葉が並んでいるけど、何の会社かはよく分からなかった。MSが「みんな幸せ」の略だということは分かった。馬鹿くさい。梨花が入れるくらいだから、まともな会社じゃないことは確かだ。

 私は聡美さんにメッセージを送った。

“多佳子です。実は相談したいことが”

“梨花のこと?”

“そうです、なんで分かったんですか”

“クッキーにMSホールディングスの名刺が入ってたから、マズいなって思ったのよ”

“知ってるんですか”

“県の消費者センターでも問題になってるの。詐欺まがいの投資勧誘とか、持続化給付金詐欺に加担してるとかで”

“そうなんですね。梨花、そこに入ってたらしくて、よく分からないんですけど、会社の投資案件で大きな借金を作ったって”

“それも詐欺だよ。組織内ででっち上げた架空の会社に投資させて、お金を巻き上げるらしいの”

“そうなんです。それも実際の10倍くらいに膨らませてるらしいんです”

“ひどいね。あの後、梨花はどうしたの”

“実は、車のなかで色々しゃべってたら、泣き出しちゃって。いま私の家にいます。会社にはコロナにかかったことにして、しばらく休むように連絡させました”

“それはよかった。いま警察も動いてるみたいだから、会社にはしばらく近づかせない方がいいわ”

“私はどしたらいいんですか?”

“多佳子は別にどうすることもないよ。梨花も心細いだろうから、しばらく近くにいてあげて”

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