第7話

 梨花は一人で話を続けた。

「投資してくれた人には嘘のポートフォリオを見せて、うまくいってるように説明してるけど、もう蒸発するしかないかも」

 吐きそうだ。変なカタカナ使わないでほしい。

「それって詐欺じゃん」私はイラつきながら言った。

「詐欺じゃないよ」語気が弱まった。「私だって何とか挽回しようと必死なんだよ」

「それでサークルのみんなを騙そうとしたわけ?信じられない」私は自分の立ち位置を忘れるために、梨花のことをなじりたい気分になっていた。

「そんなひどい言い方しないでよ」

「ひどいのはどっちよ。クッキーなんかあげて、成長がどうのって。みんな見下された気分だっと思うよ」

 梨花が黙った。私は梨花のことを追い詰めたくなった。

「仲間を騙してまでお金儲けしたいんだ。見損なったよ」

 梨花はうつむいて肩を揺らし始めた。

「その化粧と服、嘘で塗り固められたマネキンみたい」自分でも信じられないような言葉が口をついて出た。

「ひどいよ多佳子。そこまで言うことないじゃん。私だってどうしていいか分からないよ」と言って泣きじゃくった。

「風俗でバイトすればいいじゃん」

「考えてはみたよ」

「風俗ってそれなりに稼げるんでしょ?」

「それが、コロナで客が少なくて、稼げないみたいなの」

 吐きそうになり唾を飲み込んだ。なんだか無性に腹が立ってきた。

「そんなこと考えてるなんて信じらんない。あなたって最低。生きてる価値もない」

 私は運転しながら太ももを擦り合わせた。今までに感じたことのない快感だった。あそこがじりじりしてくる。私ってSだったんだ。

 梨花はうつむいたまま泣いている。

 調子にのって少し言い過ぎたと思った。梨花だって止むにやまれず考えたことなんだ。この後どう収拾してよいか分からず、速度を落としてノロノロと運転した。

 梨花が可哀想に思えてきた。なにも分からず変な会社に入って騙されちゃったんだよね。加害者であり被害者でもある。ビバレッジだかなんだか知らないけど、たぶんそれも会社が仕組んだことに違いない。そうやって組織から抜け出せないようにして、骨の髄までしゃぶりつくすんだ。

 私は営業の終わったスーパーの駐車場に入り、端の暗がりに車を停めた。梨花はまだ泣いている。

 私は梨花の両頬に手をあて、涙を拭った。梨花がすごい力で抱きついてきた。震えながら泣いている。きっと怖かったんだと思う。友人も失い、家族にも相談できず、一人で恐怖に震えていたんだと思う。

「ごめんなさい」梨花が体を離して言った。

「私こそひどいこと言ってごめんね」

 梨花はまたうつむいて涙を流した。

「これからどうするの?」

「どうしたらいいのか分からない。会社から逃げたいんだけど、そんなことしたら家族に迷惑がかかりそうだし」

 そうかもしれない。組織からしたら、正当な借金ということで支払いを求められるだろうし、相手がヤクザだったら、それだけでは済まないだろう。私はない知恵を振り絞って、思考をくるくる回転させた。

「自己破産するってのはどお?」

 梨花はうつむいたまま、うんともすんとも言わない。

「一千万円なんて返せる訳ないし、自己破産してなんとかならないかな。とりあえず弁護士に相談してみようよ」

 梨花は凍り付いたような表情で、無言で下を向いていた。

 このまま梨花をアパートに返すのは心配だった。とりあえず私の実家に泊めることにした。梨花とは中学からの付き合いだから、家族も知っている。

 家に着く前にコンビニに寄り、化粧を落としてもらった。

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