第5話
「給付金ってコロナの?とっくに使っちまった」翔太が笑った。
「その社長ってのは信用できるのかよ?」渉が言った。
「信用できるもなにも、投資の世界では有名な人なんだよ。今まで大勢の人に得させてきてるから、日本のバフェットって呼ばれてるんだよ」
「なんかインチキ臭せーな」
「そんな言い方しないでよ。なんか私が馬鹿にされてるみたい」
「はいはい、痴話げんかは止めて」聡美さんが口を挟んだ。
「まあ成長の仕方は人それぞれだし、梨花ちゃんには梨花ちゃんの成長の仕方があれば、渉くんには渉くんの成長の仕方もある。それでいいじゃない」
「さっすが聡美さん、いいこと言う。とにかく、この話に乗らないと絶対に損するから、ここだけの話ではあるけど、みんなにもぜひ乗って欲しいんだ。クッキーの袋の中に私の連絡先が入ってるから、興味があったら連絡ちょうだい。ほんとにチャンスだから」
同窓会なんて開いてしまったことが、みんなに悪いような気がして私はうつむいた。聡美さんに助け舟を出してもらいたくて、視線を送った。
「そういえば多佳子はパン屋に勤めてるんだっけ?」聡美さんが言った。
そうじゃなくて。下っ腹がキリキリした。私は軽く頷いた。
「勤めてるっていうか、単なるバイトですけど」
「実家にいるの?」
「そうです。パン屋のバイト代じゃ一人暮らしなんてできないし」
「俺たちの初任給だって似たり寄ったりだよ。こんなに安いなんて思わなかった。これじゃあ結婚もできそうにないよ」渉が言った。
「あんたもう結婚したいの?まだ早いんじゃない」梨花が言った。
「いや、例え話みたいなもんだけど」
「だからさ、そのためにも投資して結婚資金を作るんだよ。チャンスだよ」
「はいはい、分かりました。女バフェットさん」渉が苦笑いをしながら反りかえった。
みんなだいぶ酔いが回ってきて、それぞれ個別に会話していた。私は聡美さんとたわいのない話をしていた。聡美さんと一緒にいると落ち着く。大学を無事卒業できたのも、聡美さんがあれこれお世話してくれたお陰だし。過去問とかでだいぶお世話になった。
「だいぶ夜も更けてまいりました。バスがなくなっても困るから、そろそろお開きにしましょ」聡美さんが言った。「久しぶりにみんなの顔見れて嬉しかったし、楽しかったから、これからも時々集まりましょ。梨花ちゃん、今日は声をかけてくれてありがと。それから、多佳子も幹事ご苦労さま」
地方都市の終バスは早い。今日は車だから問題ないけど。梨花のアパートは私と同じ市だから、送っていくよと声をかけた。内心、例の投資話に勧誘されたらどうしようかとビクビクしていた。コインパーキングを出て繁華街をゆっくり走った。週末だというのに人がいない。コロナの影響で、もともと寂れていた街が、余計に淋しくなっている。
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