第61話
穂高視点
「というわけで、私たち付き合うことになりました」
班目が告白したという報告をしてから翌日の放課後、生徒会室で班目は頬を染めながらそう言った。
「良かったじゃん! めちゃくちゃハッピーなことだよ!」
結菜が手を結んで目を輝かせる。
どうやら班目の告白は成功したようだ。本当に恋愛はタイミングだなと思う。
「おめでとうございます、班目先輩、久世先輩」
若月も二人を祝福する。
俺も二人に倣って二人を祝福する。
「おめでとさん。でもまさか恋愛禁止を公約に掲げてた二人がくっつくなんてな」
「それはもう言わないでください」
元々、恋愛禁止は班目が久世に恋愛をさせない為に編み出した苦肉の策だった。もし、あのまま久世が生徒会長になっていたら、この二人が付き合うこともなかったのだろう。
「結菜と俺に感謝しないとな。俺たちが選挙で勝ったから付き合えてるんだし」
「それもそうですね。ありがとうございます。私たちに勝ってくれて」
班目が素直に頭を下げてくる。冗談で言ったつもりだったが真に受けたようだ。
「ねえ、お祝いしようよ。今日は生徒会の仕事お休みにしてさ」
結菜がそう言って手を叩く。
「いいですね。あたしたちも班目先輩たちにあやかりましょう」
若月が同調し、久世と班目をくっつける。
幸い、生徒会室には備品としてお菓子とかジュースが備えている。それを使えばお祝いはできるだろう。
「君たちには飛鳥が世話になったみたいだしね。お祝いしてくれるなら付き合うよ」
久世が賛同したことで、班目も自動的に承認したことになる。多数決により、カップル誕生のお祝いをすることが決定する。
結菜が机を集めてくっつける。若月がお菓子を机に広げ、紙コップにジュースを注ぐ。
上座に久世と班目を並んで座らせ、正面に残りのメンバーが座る。
「えー、というわけで久世くんと飛鳥ちゃんがお付き合いを始めたということで、祝して乾杯!」
「「乾杯!」」
結菜が音頭を取って全員で乾杯する。
「ねえねえ、せっかくだし今日は二人のこといっぱい聞いちゃおう」
結菜のテンションが高い。余程班目の恋が上手くいったのが嬉しいようだ。若月も「いいですねー」と便乗し、目を細めた。
「飛鳥ちゃん、いつから久世くんのこと好きなの?」
結菜が先陣を切って班目に質問する。班目は伏し目がちに俯くと、指を絡ませながら回答する。
「小学生の時からです……はい」
「飛鳥、そんなに前から僕のこと好きだったの?」
これには久世も驚いたようだ。
「まあかくいう僕も小五ぐらいだったけど、飛鳥のこと意識しだしたの」
「きゃー、素敵。同じぐらいから両想いだったんだ」
「なんかそういうのいいですね」
結菜と若月が顔を見合わせてきゃっきゃと騒いでいる。そんなにも前から互いのことが好きだったのに、結ばれたのは高二だ。恋愛って本当にタイミングを逃すとうまくいかないんだなと思う。ましてや、久世は一度別の女性に心変わりしているわけだし。
「じゃあ、互いのどういうところが好きですかー?」
若月がにやにやしながら質問する。顔を見合わせた久世と班目は互いに赤面した。
「壮亮は昔から私に優しくて。誰にでも優しいんだけど、誰にでも優しくできるところがいいなって思ってます。あとは匂いですね。壮亮の匂いってこう私の脳を震わせるというか」
まさかの匂いフェチだった。
「まあでもそういうのは大事って言うもんな。そういう意味じゃ相性がいいんじゃないのか」
「僕は飛鳥がいることが当たり前になってたから、最初に意識したのはやっぱり可愛いって思ったからかな。飛鳥って昔から僕の後ろをちょこちょこついてくるから、なんとなく守りたくなるというか」
わかる。男は庇護欲を擽られると弱い。
「それに飛鳥はこう見えて結構おっちょこちょいなんだ。そのポンコツっぷりも可愛いなって思うかな」
「わかるわ。班目っておっちょこちょいだよな。最初、俺を結菜のストーカーって言い張って話聞かなかったし」
「うう、忘れてください」
班目は赤面し、顔を伏せる。赤面しているのはきっと久世に好きなところを言われたからだろう。こういうところが可愛いんだと思う。
班目とそういう関係だったことは墓場まで持っていこう。
「さあ、穂高も質問して」
「え、俺もするのか」
「当たり前じゃない。私と朱星ちゃんはしたんだから、穂高も質問しないと」
結菜に催促され、俺は質問を考える。
俺は女性に対して不信感を持っている。それは母親が父さんと俺を裏切ったからだが、母親と対面し少しずつその不信感も溶けていってる気がする。だが、まだ氷は溶け切らない。
だから俺は恋愛がよくわからないのだが、ひとつ聞いてみたいことがあった。
「相手を絶対に裏切らないって約束できるか?」
俺がそう聞いた瞬間、結菜が顔を青くして俺の脇腹を小突いた。付き合い始めたばかりのカップルに聞くようなことじゃないというのはわかっている。だが、俺はどうしても聞いてみたくなったのだ。二人が互いを決して裏切らないという言質を取っておきたかった。
「はい。私は壮亮しか見えません。だからそんな心配はいらないですよ、安城くん」
「僕も飛鳥と付き合う以上、悲しませることはしない。誓うよ」
二人は即答し、顔を合わせ笑いあった。
「そっか。それが聞けて安心したよ。いつまでもお幸せにな」
「ありがとう」
久世はそう言って俺を見て微笑んだ。
久世と班目の回答で、俺は少しだけ信じられるような気がした。互いを想い合う相手となら、裏切ることなくいつまでも幸せに過ごすことができるのだと。
それから最終下校時刻まで騒いだ俺たちは、たっぷりと久世と班目を祝福した。
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