第60話

班目飛鳥視点


 生徒会のみんなに壮亮に想いを伝えたことを話した。みんな驚いていたけど、最後には応援してくれた。本当に優しい人たちだと思う。しれっと和泉さんが安城くんに告白したことがあると言っていた。あの二人、そんな関係だったんだと少し驚いた。

 カフェで解散してから家に帰ろうとスマホを確認すると、壮亮からメッセージ届いていた。


「話があるから家に行ってもいいか」


 これは直感的に告白の返事だと理解した。私はすぐに指を動かすと、「三十分後ぐらいなら大丈夫」と変身する。私は早足で帰路を急ぐと、家に駆け足で飛び込んだ。

 壮亮も同じマンションなので、部屋を移動するだけだ。私は自分の部屋に入ると、軽く掃除機をかけた。壮亮が私の家に来るのは珍しいことじゃないから、今更部屋を片付けたところで私の性格はもうバレてしまっている。そんなに散らかしてはいないつもりだけど、やはり告白の返事となると緊張してしまう。忙しなく動き回っていると、約束の時間はすぐにやってきた。ドアをノックする音が響き、私は生唾を飲み込む。

 ドアを開けると、私服姿の壮亮が立っていた。


「いらっしゃい」

「うん。ごめんね、急に」


 壮亮はそう言うと、慣れた様子で入ってくる。私の部屋の位置も完璧に把握している壮亮は、迷わずに私の部屋に入った。もう後戻りはできない。どんな結末になっても、私はその結果を受け入れる。

 私はリビングで冷蔵庫を開けると、買い置きのジュースをコップに注ぐ。それを両手で持ち部屋へと急いだ。壮亮はいつものようにクッションの上に腰を下ろしていた。


「飛鳥の部屋って同じマンションの同じ部屋のはずなのに、俺とは全然違うよな」


 確かに几帳面な壮亮の部屋とは雰囲気が違う。私も壮亮の部屋には何度もお邪魔したことがある。その私から言わせれば、壮亮の部屋の方が他人から見れば女子の部屋に見えるだろう。


「そうだね。私は結構雑だから」


 本棚の並びも読んだ順に並べているから、レーベルもバラバラだし、作者もバラバラだ。壮亮の本棚はきっちりとレーベルごとに並べているから見栄えがいい。


「それで、あの、告白の件なんだけど」


 壮亮がすぐに切り出してくる。私は怖くて壮亮の顔が見れずに俯いてしまう。


「僕、飛鳥に告白されて困惑したけど、冷静になってみると凄く嬉しかった。僕はもともと飛鳥のことが好きだったから、嬉しい気持ちの方が困惑より上だった」


 壮亮が私の告白を喜んでくれた。それだけで私は気持ちを伝えた甲斐があったと思う。


「でも、正直僕はまだ失恋の気持ちの整理がついていない。こんな状態で付き合うのは飛鳥に失礼だと思う」


 その答えで私は告白が失敗したのだと悟った。やはり若月さんの言う通り、まだ時期尚早だったのだ。でも後悔はない。壮亮が喜んでくれた。長年、燻っていた気持ちの整理をつけることができた。それだけで……


「飛鳥……泣かないで」


 私は壮亮に指摘されて初めて自分の頬を涙が伝っていることに気付いた。自分では後悔しているつもりはないのに、次々と涙が溢れ出してくる。私は目元を拭うと、ティッシュを取って鼻をかむ。


「わかってる。失礼だとは思うんだけど、僕の我儘なんだけどさ。飛鳥がそれでもいいなら僕と付き合ってくれないか」


 不意にそう言われた私は困惑して目を見開く。壮亮が私に付き合ってくれって言った。それが信じられない。


「いいの?」

「むしろ僕がいいのか聞いてるんだけど。正直僕はまだ失恋を引きずってる。でも、このまま飛鳥の気持ちに応えないのも卑怯だと思ったんだ。保留って聞こえはいいけど、キープしてるみたいだろ。それが僕の中でなんだか気持ち悪くて」


 壮亮はそう言うとばつが悪そうに頭を掻いた。


「これが他の女の子なら断ってる。でも飛鳥だから。飛鳥なら僕の弱いところも許してくれるんじゃないかって。これは僕の甘えだね」

「いいんだ。私、壮亮の彼女になってもいいんだ」

「なってほしい」


 さっきまで振られたと思っていたから、私の心が馬鹿になってしまったのか、今度は別の意味で涙が止まらない。長年、ずっと想い続けた恋心がようやく報われて、私は心から感動した。


「それは嬉し涙かい?」

「うん。そうだよ」

「それだったらいくらでも泣いていいよ」


 そう言って壮亮は私を抱きしめた。ずっと一緒にいたけど、壮亮に抱きしめられるのは初めてだった。壮亮の腕は大きくて、私と違って胸はたくましい。私は壮亮の胸に顔を埋めながら、ひとしきり泣いた。

 小一時間ほど泣いた私は壮亮から離れると、恥ずかしくて顔を逸らした。


「飛鳥の泣き顔を見るのは、幼稚園以来だな」


 壮亮はそう言って朗らかに笑う。私もつられて笑うと、壮亮が心配そうに私の鼻をつつく。


「泣きすぎて鼻真っ赤になってるよ」

「恥ずかしい」

「これからはもっといろんな顔見せてくれ」


 壮亮はそう言うと、もう一度私を抱きしめる。頭を撫でられながら、私は幸せで胸がいっぱいになる。生徒会のみんなにも報告しなきゃ。私はそう思いながら、壮亮の匂いを堪能した。


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