第59話

穂高視点


 週が明けて火曜日、久世を除く生徒会メンバーは班目に呼び出された。学校の帰りにカフェに立ち寄ると、班目は「今日は私の奢りです

」と呟いた。


「壮亮に自分の気持ちを伝えました」


 開口一番、班目の発言に俺を含めた生徒会メンバーは驚いた。昨日一緒に帰ったのは知っていたが、まさか告白しているとは。意外性のある行動力に、俺は舌を巻いた。


「ちょっと焦りすぎたんじゃないですかね」


 若月は微妙な顔をしている。若月としてはじっくり攻めたほうがいいという考え方だったのだろう。


「私もそう思う。壮亮はまだ失恋を引きずってるし、そう簡単に気持ちの整理はできないと思う」


 班目も自分の行動が間違っていたと素直に認める。だが、その表情はどこか晴れやかで、後悔はなさそうだった。


「告白って勝算ないとしちゃダメなんですよ。相手と思いが通じ合っていると確信出来たらする行為で、失敗したら今後の可能性も潰してしまうリスクがあります」

「やけに恋愛に詳しいじゃないか」

「これでも昔は男の子手玉に取ってたんですから」


 若月はそう言うと、カフェラテを一口啜った。


「俺はいいと思うけどな。告白されることで相手のこと意識するし、幼馴染なら可能性あるんじゃないのか」

「それはそうなんですけどね。でももし振られたら、今後アタックしづらくなるんですよ。返事を保留にしてくれたらいいですけど」


 若月は班目のことを想って真剣に考えてくれているようだった。班目もそれがわかっているのか、真剣に若月の話を聞いている。


「恋愛はタイミングですから、タイミングを逃すと勝てる勝負も勝てなくなります」

「私は時期を早まったってことだね」

「そうですね。本来なら、もっと久世先輩に女子だと意識させる必要があったと思います。ですが、可能性が潰えたわけじゃありません」


 このカフェに来て、班目が告白にいたった経緯は聞いていた。だから、久世の初恋の相手が班目だったことも聞いている。


「久世先輩は以前は班目先輩のことが好きだった。これは可能性あります。失恋して、心がナイーブになってる今ならワンちゃんあるかもです」


 若月曰く、失恋して心が傷ついている時は本能的に誰かを求めるらしい。新しい恋をすれば立ち直れることを体が知っているからだ。

 そう聞くと、班目の告白のタイミングは決して悪いわけではないと思う。若月の言うように、もっと関係性を深めてからというのは確実性があっただろうが、いかんせん時間がかかりすぎる。いちかばちか、意識させる意味で告白したのは、俺は悪くない判断だと思う。

 というのも、俺だって結菜に告白されて少なからず結菜のことを意識したという実体験があったからだ。結菜に告白されて結菜のことを真剣に考えるようになったし、自分の課題とも向き合うことができた。告白全てが悪いとは俺は思えない。


「壮亮も驚いていたけど、考えてみるって言ってくれた」

「久世先輩が今は恋心がなくても付き合うっていう選択をしてくれたらいいですけどね」


 若月はそう言うと、班目を見てウインクした。

 それまで沈黙していた結菜が、口を挟み、自分の意見を述べる。


「朱星ちゃんの言うことすごくよくわかる。恋愛ってタイミングだよね。私も昔、穂高に告白したけど、穂高のほうは私のことなんて全然知らなかった。だから成功するはずなかったんだよね。私は知ってもらうところから始めるべきだったんだなって今なら思う。でも、告白ってそんなに冷静にできるものじゃないと思うんだ」


 結菜はそこまで言うと、俺を見つめてくる。


「ほら、雰囲気ってあるじゃん。気持ちがどうしても盛り上がっちゃった時とか。中学の私は時期尚早だったと思うけど、どうしても言わなくちゃってなるときってあると思うんだよね。きっと飛鳥ちゃんも、そうだったんじゃないかなって思う。だって、今、全然後悔してる感じないもん」


 結菜の言う通り、班目の顔は晴れやかだ。長年抱えていた想いをぶつけてすっきりしたのかもしれない。


「和泉さんの言う通りです。壮亮と恋バナしたら言いたくなっちゃいました。というか気付いたら言っていたというか。でも、後悔はないです。ずっと言えなかった自分に腹だったしかったので、言えてほっとしています」

「まあ、結局は自分が納得しているかどうかなので、いろいろ言いましたけど納得しているのならあたしはいいと思いますよ」


 若月も微笑んでそう言う。


「生徒会のみんなにはすごく相談に乗ってもらった。アドバイスもしてもらえて感謝してる。どんな結果になっても私は後悔しない。ありがとう」


 そう言って班目が頭を下げてくる。こうしてみていると、やはり班目の恋が成就することを願ってしまう。どこか応援したくなるやつなんだよな。ただ一生懸命で、真っすぐなやつだからこんなにもみんな協力してくれるのだろう。

 

「まあ後は久世次第だな。告白成功することを祈ってるよ」

「ありがとうございます」


 班目が微笑む。あまりこいつの笑う顔は見たこと無かったが、笑うと可愛い奴だなと思った。

 結菜と若月も班目を激励し、解散となった。


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