第49話

 家に帰ると結菜が心配そうに俺を出迎えた。


「どうだった?」

「普通だったよ。一応自分の中で答えは出してきた」

「そう。なら良かった」


 そう言って俺を部屋に連れ込んだ。結菜の部屋に入るのは勉強会以来だから久しぶりだな。最近は結菜は俺に話し掛けてこなかったし、俺から結菜に接触することもなかったからな。


「なんだよ」

「いや、ひとつ区切りがついたんならさ、息抜きにゲームでもしようかなって」


 そう言うと結菜はゲームの接続を始める。

 結菜はゲームが好きらしく、この家に来た時もゲームを持ってきていた。

 結菜なりに気を使ってくれているのだろう。今日だけはその好意に甘えるのも悪くはないか。


「ゲームって何するんだよ」

「スラブラなら穂高もできるっしょ」

「まあできるが」


 スラブラ。大決闘スラッシュブラザーズ。誰もが知っている対戦ゲームで、大勢ですると盛り上がる。ストレス発散にはちょうどいいかもしれない。

 ゲームを起動し、画面が明るくなる。キャラをそれぞれ選択し、フィールドを選択する。

 画面が切り替わり対戦が始まる。

 結菜はゲーム好きらしく、操作は手慣れていた。俺のキャラの攻撃は躱され、結菜のキャラの攻撃は的確に当てられていく。あっという間に俺のキャラは場外に吹っ飛ばされ、早くも一基失った。


「おい、お前めちゃくちゃ強いじゃねえか」

「穂高が初心者すぎるんだって。攻撃すっごいわかりやすいし」


 そんなにわかりやすいだろうか。復活した俺は今度は攻撃パターンを変えてみる。すると今度は俺の攻撃もヒットする。だが、やはり技量は結菜の方が上でまたもコンボを決められ、俺のキャラは場外吹っ飛んだ。

 たかがゲーム。されどゲーム。こうも一歩的に結菜に負けるのは正直悔しかった。

 復活した俺はまた一直線に結菜のキャラに向かっていく。操作をするうちに徐々に感覚を取り戻していく。結菜相手に初めてコンボを決め、場外に吹っ飛ばす。だが、結菜はそこから驚異的な粘りを見せ、フィールド内に復帰してくる。俺はその隙を逃さず攻撃を仕掛けるが、結菜にあっさりと躱されてしまう。攻撃が空ぶったことで隙ができた俺は逆に結菜のカウンターを受ける。コンボを繋げられ、場外へ。またしても結菜を落とすことはかなわなかった。


「惜しい」

「ふふん、まだまだ甘いよ」


 結菜は得意げに鼻を鳴らすと、復活した俺に攻撃を仕掛けてくる。俺はそれを操作技術だけで躱しながら隙を窺う。そして結菜の大振りの攻撃が空ぶった瞬間、俺は逆に強攻撃を叩き込んだ。ダメージが蓄積していた結菜のキャラは吹っ飛び、ようやく一基撃墜した。


「よっしゃ!」

「一基落としたぐらいでいい気にならないでよね」


 結菜も負けず嫌いらしく、復帰してすぐに俺のキャラをぼこぼこにする。ダメージがゼロになった結菜のキャラは俺の攻撃が多少ヒットしても怯まない。逆にダメージが蓄積していた俺のキャラはだんだんと隙が大きくなり、吹っ飛ばされる。結局、俺は撃墜され、結菜のキャラを落とせたのは一回だけだった。


「くそ、もう一回」


 思わずムキになってしまう。ゲームなんて普段あまりやらないが、やってみると意外に楽しい。

 俺は別のキャラを選択し、勝負を仕掛ける。フィールドが変わり、勝負が始まる。

 俺が選んだキャラはこのゲームで最も愛用しているキャラだ。今回は先ほどのようにはいかないだろう。俺は使い慣れたキャラを操作し、結菜を追い詰めていく。結菜も先ほどまでと操作技術が違うことに勘づき、俺から距離を取ろうとする。だが、このキャラは距離を取っても遠距離攻撃がある。俺は離れた敵に向かって攻撃を仕掛ける。結菜はそれを躱せずヒットする。


「あーん、もう、鬱陶しい」

「このうざさこそ、このキャラの真骨頂」


 そうして遠距離でダメージを蓄積させてから俺は接近戦に持ち込む。ダメージの蓄積した結菜のキャラは隙が大きく、捜査技術で劣る俺の攻めでも十分にダメージを与えることができた。結菜のキャラは吹っ飛び、一基撃墜に成功する。


「やったぜ」

「やられたー」


 互いに盛り上がりながらゲームを楽しむ。それから感覚を取り戻した俺は結菜と互角の勝負を繰り広げるが、僅かな差で結菜に敗北した。


「あー負けた負けた。でも楽しかったわ」

「でしょ。またやろうね。リベンジいつでも待ってるから」


 結菜は相当上手い。結菜に勝つにはそれなりに練習する必要があるだろう。だが、キャラを吹っ飛ばした時の爽快感だったりは味わうことができた。もやもやしていた気持ちも吹っ切れたような気がする。


「ありがとな」

「んー、何が?」

「なんでもないよ」


 結菜の気遣いに心から感謝する。母さんと会って、前に進めた気ではいたがどうも消化しきれていないところもあったようだ。それが結菜とゲームをしてわかった。だが、全力で戦ってゲームで汗を掻いて、すっきりしたのも確かだ。これから俺は結菜とも向き合っていける。そんな気がした。

 俺は結菜に礼を言うと、自室に戻り、課題に取り組むのだった。



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