第46話
文化祭の準備は順調だ。これまで何のアクシデントもなく消化している。舞台に参加する団体にも承認通知を配り終え、俺たちの仕事もひと段落だ。
新聞部の記事を公開したことで、俺の噂も少しは信じるものが減ったようだった。だが、相変わらず女子には避けられている。元々女子を遠ざけたかった俺としては万々歳の結果だが、若月だけは不満そうだった。
文化祭実行委員会があったからここ最近は若月と行動することが増えていた。若月も俺との距離感に慣れてきたのか、最近は軽いボディタッチをするようになっていた。
外回りを終え、若月と共に一緒に下校する。最近は結菜と帰ることが減った。どうしても帰る時間がばらばらになるから仕方ないが、結菜としては本意ではないだろう。あれほど俺にアピールすると言っていたのにここまで特にそんな動きは見られなかった。それがなんだか拍子抜けでもあり、俺はなんだか複雑な気持ちになっていた。
「浮かない顔ですね、先輩。どうしたんですか」
そんな様子を若月にも見抜かれ、俺は気恥しい気持ちになりながら溜め息を吐く。
「いや、ちょっとな」
「悩みですか。先輩にはお世話になりましたし、あたしが相談に乗ってあげてもいいですよ」
そう言って若月は俺の手を引いた。
「というわけでカフェ行きましょう」
すっかり俺に触れることに抵抗がなくなった若月は遠慮なく俺に触ってくる。
俺は若月に引っ張られる形でカフェに連れ込まれた。
空いている席に座り注文を済ませると、若月は早速俺に聞いてくる。
「それで、どうしたんですかー?」
若月に話すのはなんだか気恥ずかしいが。だが、相談に乗ってくれると言っているし、話しみるか。
そう思った俺は重い口を開く。
「実は結菜のことなんだが」
そう言って俺は自分の心の内にある悩みを打ち明けた。
「なるほど。アピールするって言ってた結菜先輩がアピールしてこないからじれったくなっちゃったんですね」
若月は苦笑すると、頬杖を付いた。
「それってそんなに気になることですかー」
「いや気になるだろ。結菜は俺に興味を失くしたのかとか色々」
そこで若月は俺に指を差してくる。
「それって結菜先輩のこと好きってことじゃないですかー?」
「…………」
俺が結菜を好き? 果たしてそうだろうか。自分でもよくわからない。
「少なくとも、結菜は一番心を開ける相手だとは思う」
「はあ、それって好きってことじゃないですか」
若月は溜め息を吐くと、やれやれと手を振った。
「いいですか、先輩。興味失くされたかなって気になるのはですね。相手に振り向いてほしいからなんですよ」
「そうなのか」
「さてはまともに恋愛してきませんでしたね。まさかこの歳になって初恋がまだとかいいませんよね」
「まだだな」
「マジですか」
若月は目を丸くして驚く。確かに普通はこの歳だと初恋は済ませているものなのだろうが。俺は女性不信からまず女を好きになるなってことはあり得ないと思っていた。
それが少し結菜と距離ができただけで不安になった。これはやはり好きだということなのだろうか。
「結菜先輩の作戦にまんまとハマってますね」
「作戦?」
「押してダメだら引いてみなってやつですよ」
なるほど。確かに最近結菜から俺に話し掛けてくることがない。家でも食事の時以外話さないし、学校ではなおさらだ。
「先輩、認めましょうよ。結菜先輩のことが好きなこと」
そう言われ、俺は考える。俺は結菜のことを好きなのかどうか。心は開いている。それは間違いない。あの海のラブホテルで、自分のことも正直に話したぐらいだ。
「俺は結菜のことは好きだと思う。だが、それは家族としてなのか異性として好きなのかわからん」
これはまだ俺の中で結論が出ていない答えだ。なまじセフレだった経験からか、結菜の裸を見て興奮するのも当たり前だと思ってしまうし、結菜相手にどきどきするのは当然だとも思ってしまう。
「はあ、面倒くさい人だなぁ」
「すまん」
「いいですよ。とことん付き合ってあげます。でも、先輩その相談を結菜先輩が好きなあたしにするのはえぐいですよ」
確かに若月は結菜のことを好きだと言っていた。それは恋敵に恋の相談をしている嫌味なやつだな。
「それはすまん」
「いいですよ。あたしは結菜先輩が幸せになってくれればいいですから。そうなると先輩とくっつくのが一番いいんですけどね」
だが、俺はまだ結菜を女として好きなのか家族として好きなのかの結論が出せない。もうしばらく時間が必要だろう。だが、若月に話したことで、俺は結菜のことが好きなのだと自覚はできた。それだけでも大きな進歩だろう。
あとはやはり女性不信の問題。こればかりはそう簡単に解けるものではない。これは俺自身が解決すべき問題だろう。
俺は一つのことを決意する。
自分の母親に会いに行く。俺の女性不信の全ての根源はあの人だ。母親に会ってみて、心境の変化があるかどうかを確かめる。俺自身結菜と向き合う為に、行動していかなければならない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます