第43話

 放課後、生徒会室に顔を出した俺は全員揃っているのを確認すると早速話題を切り出した。


「もしかしたら耳に入ってるかもしれないが、若月の噂についてだ」


 俺がそう切り出すと、久世が反応し、結菜は何のことかわかっていないように小首を傾げた。


「説明すると若月がどんな男とでもやっているビッチだという噂が広まりつつある。生徒会メンバーのこの噂は早々に対処する必要がある」

「え、そんな噂が流れてるの」


 結菜は驚いた様子で目を丸くする。

 久世だけは事情を把握しているようで沈痛な面持ちで顔を伏せている。


「聞いてるよ。まったく不快な話だ」


 久世にしては珍しく怒気を孕んだ声でそう呟く。若月の話では襲われた時に助けてくれたのは久世だったと聞いている。久世も若月の事情を把握しているのだろう。


「そこで、俺は若月の噂を消す為に少々強引だが別の噂を流した」


 そう言って俺は自分が流した噂をみんなに説明する。それを聞いた結菜は不満そうな顔をする。


「それじゃ穂高が悪者じゃん」

「別に俺は何と言われようとも構わないからな」

「ふーん、朱星ちゃんの為にそこまでするんだ」


 唇を尖らせながら、結菜が拗ねる。

 

「若月を掬う為だ」

「わかってるわよ」


 結菜も頭ではわかっているはずだ。若月が覚えのない中傷を受けている現状を放っておけるはずがないと。だから生徒会でも公式に否定する必要がある。


「そこで新聞部を使う。インタビューを受けて公式に否定するんだ。噂されているようなメンバーは生徒会にはいませんと」

「なるほど。確かに公式に否定するのは噂の抑止力になるかもね」


 結菜も賛同する。そこは生徒会長である結菜の仕事だ。絶大な人気を誇っている結菜が発言するというのが大事なのだ。


「でも、なんでそんな噂が流れたんだろう」


 当然の疑問を結菜が口にする。だが、結菜たちにはあの写真のことをいうつもりはない。若月だって好きな人に自分の痴態を見られたくはないだろう。


「さあな。誰かがおもしろがって吹聴したんじゃないか」

「まあどうでもいっか。そんなこと。じゃあ早速私は新聞部に話をつけてくるね」


 そう言って結菜が立ち上がる。


「では私は風紀委員に行って、噂の出所を調べてきます」


 班目がそう言って立ち上がり、生徒会室から出て行く。生徒会室には俺と久世が残った。


「どこまで知っているんだい」


 不意に久世がそう聞いてくる。


「一応、だいたいのことは若月から聞いた」

「そうか。君に話したのか」


 久世は拳を組むと深く溜め息を吐く。


「僕はずっとこんな日が来ることを恐れていた。保護観察になった男子生徒たちはデータを隠し持っていたんだね」

「徹底的に調べて消すべきだったな」

「無理だよ。性的暴行を止めるので精いっぱいだった」


 実際、久世の助けがなかったら若月はもっとひどい目に遭っていただろう。その点では若月は久世に感謝しているようだった。だが、苦手意識も拭えないようで久世とは距離を取っていた。


「生徒会に来て、女子たちと仲良くやれれば彼女の居場所になるかと思って推薦したが逆に注目を浴びることになっちゃったね」

「それは悪くないだろ。実際、若月は生徒会に適任だ。仕事もできるし賢い」

「能力は勿論わかっていた。若月はできるやつだっていうのは知っていたからね。純粋な気持ちで推薦したのもある」


 実際、若月はよく働いていた。文化祭実行委員会でも一年生ながら上級生に指示を出し、上手く回している。それを鑑みれば若月が生徒会に入ったのは必然だったと言えるだろう。


「嬉しい誤算もあった。若月は君に懐いている」

「嬉しいことにな」

「男子に接近するのは初めて見た。だから僕は君を信頼しているし、彼女の為に動いてくれると思っている」


 実際は俺が嘘を吐いていたことによる勘違いだったのだが、若月は俺を男好きで女に興味が無いと思っていた。真実を話した後も部屋の中に入れてくれたりしていたことから、一応信頼はされているのだと思うが。


「僕は許せない。ただの女子がこんな噂を流されて貶められるなんて」


 久世の拳を握る強さが増す。


「同感だ」


 ネットに流出した写真は消せない。大本を消し去っても、一度ネットの海に流れた写真は誰かの端末に保存され、一生消えることはない。俺達には若月の傷を取り除いてやる力はない。


「だが、俺は若月は強い奴だと思ってる。今回の件も負けずに立ち上がると思ってるよ」

「信じているんだね、若月のことを。でも僕は不安なんだ。また若月がふさぎ込んでしまったらと思うと」

「ふさぎ込んだ時期があったのか」

「まあね。元々明るい子だったから、その変化は流石にこたえたよ。高校に上がることで、立ち直ったみたいだけど」


 若月は強い。男に襲われても自分を変えることをしなかった。自分を変えたくないとそう言ったのだ。

 俺はそんな彼女の力になってやりたい。大切な後輩だ。できることはなんでもしてやりたい。


「まあ会長の手腕にかかってるね」

「結菜ならやってくれるさ」


 俺たちは信じて待つ。


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