第39話
翌日の放課後、俺は結菜に声を掛け、文化祭のポスターの写真撮影をしに写真部に訪れていた。
文化祭実行委員長、大熊陽太の要望通り、俺たちはそれぞれコスプレをして写真を撮る為、衣装を被服部に取りに行ってからここへ来た。既に俺の方は着替えを済ませ、今は結菜の着替え待ちだ。どんな衣装で出てくるのやら。
俺は中華服のような衣装で、着てみたら中国人にしか見えなかった。
俺が鏡で自分の衣装をチェックしていると、カーテンから写真部の女子の顔が現れた。
「ふふ、お待たせしました」
そう言って写真部がカーテンを開けると、メイド姿の結菜が立っていた。白と黒のシンプルなメイド服だ。短いスカートから覗く生足が、男の情欲を駆り立てる。
「ど、どうかな?」
おっかなびっくりといった感じで結菜が小首を傾げる。それだけでうちの高校の男子は全員悩殺できてしまうぐらい破壊力があった。
「か、可愛いよ」
俺も言葉に詰まりながらそう褒めるのがやっとで、メイド服の恐ろしさというものを脳内に刻み付けられた。
「ほんと。やった」
そう言って結菜が小躍りする。はしゃいでる姿も可愛らしく、男の庇護欲を擽ってくる。
俺はこっそりとスマホを構えると、メイド姿の結菜の写真を撮影しておいた。無邪気な表情の結菜が写っており、我ながらいい写真が撮れたと自負している。
「おかえりなさいませご主人様」
「お、おう」
結菜がメイドになりきり接客してくる。その演技力は完璧で、完全にメイドになりきっていた。
俺はどもった感じの声しか出せず、結菜がくすくすと笑った。
「あれ、穂高って案外こういうのに弱いタイプ?」
「知らん」
「そんな照れなくても。うりうりー」
そう言って結菜が脇腹を小突いてくる。
俺がメイドに弱いということを俺自身初めて知った。これ以上この結菜メイドと接していると変な性癖に目覚めてしまいそうになる、
「そんなことよりさっさと撮影するぞ」
そう言って遊んでいる結菜を引きはがす。結菜は渋々といった感じで溜め息を吐くと、写真部の女子に頭を下げた。
「それじゃよろしくお願いします」
写真部には選挙戦の時も世話になった。あれから結菜と写真部は仲が良くなったらしいが、見ている感じうまくやっているようだ。
写真部の指示に従い、俺と結菜は並んでポーズを取りながらカメラに向き合う。写真部がシャッターを下ろし、何枚かの写真を撮影する。続いてポーズを変えてもう何枚かを撮影した。
「どうですか?」
写真部が撮影したデータを俺たちに見せてくる。
見た感じいい雰囲気で写真は撮れている。さすがは写真部といったところか。撮影の技量は群を抜いている。
「うん、これでいいと思う」
結菜が頷き、撮影が終了する。
「でも、せっかく着替えたし、もっといろんなポーズで写真を撮りたい」
「いいですね。撮りまくりましょう」
結菜がそう言い出し、写真部がノリノリでそれに乗っかる。
まあ時間はあるし付き合うのは悪くないが。
それから結菜は真っ先に俺に抱きついてきた。そしてカメラ目線でウインクすると、すかさず写真部がシャッターを切る。
「おい」
「えへへ、いい写真が撮れたね」
結菜はぺろっと舌を出し、写真部のデータを確認する。そして満足げに頷くと、サムズアップする。
「完璧」
「こんな写真学校に出まわったら俺が殺されるわ」
「大丈夫。絶対表に出しませんから」
写真部がそう言って微笑んでくる。まあデータはこちらで預かるとして、結菜が人に見せないかが心配だな。
「待ち受けにしようかな」
「絶対やめろ」
待ち受けなんて誰かにスマホを覗き込まれたら即バレるじゃねえか。そんなの俺の命がいくつあっても足りない。
結菜は俺に気持ちを打ち明けたことで遠慮する必要がなくなったのか、前よりも距離が近くなった。そのことについて俺がやりにくさを感じているかというとそんなことはないのだが、人前だと恥ずかしさがある。
現に写真部の女子はにやにやと笑みを浮かべ俺たちを見ているし、絶対結菜が俺のことが好きだとバレているぞあれ。
「これも青春の一ページだよ」
結菜が満足げに頷くと、データを自身のスマホに転送していた。何気に俺と結菜のツーショットはプリクラを除けば初めてだから、貴重なのかもしれない。
「いい写真が撮れたよ。ありがとね」
写真部に笑顔でそうお礼を言うと、結菜はカーテンの向こうに消えていく。
「穂高が気に入ってるみたいだから着替えるのは惜しいけど、衣装被服部に返さなきゃだから」
そう言ってカーテンの向こうで着替えを始める。結菜の体のシルエットがカーテンに浮かび上がり、俺は思わず視線を逸らす。俺も着替えを済ませなきゃな。そう思い、俺も衣装を脱ぐ。女子部員の前で着替えるのはどうにもやりにくいが、他に着替えるところがないのだから仕方がない。
二人して着替えを済ませると、写真部を後にする。今日はこのまま生徒会室に集まって会議をするらしい。俺と結菜は被服部に立ち寄った後、生徒会室に足を向けた。
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