第37話
穂高視点
翌日の放課後も文化祭実行委員会に召集された。メンバーが揃う前、若月が俺に話し掛けてくる。
「先輩、ちょっといいですか」
「どうした」
「実はあたし、結菜先輩に先輩のこと好きかどうか聞いちゃったんですよねー」
「はあ? お前、何勝手に」
「まあまあ。先輩も気になってたでしょ?」
「それはそうだが」
実際、ここ数日は結菜が俺のことを好きなのかどうかと考えてろくに眠れていない。状況証拠がそう告げていても、どこかで何かの間違いであったらいいなと考えている。
「結論から言いますと、結菜先輩の好きな人は先輩じゃなかったです」
若月の言葉に俺は素直に信じられなかった。あの結菜が正直に自分の好きな人を打ち明けるとは思えない。それにうちの中学からうちの高校に来た同級生は俺と一輝だけという情報が、俺を悩ませていた。
「なぜだ」
「それは他にもいたからですよ。先輩と同じ中学出身で、うちの高校に来ている生徒が」
「お前が俺と一輝しかいないって言ったんだろうが」
「ええ、同級生はと付け加えるのを忘れていました。先輩と後輩には何人かいるんですよね」
確かに先輩と後輩を探せば、俺たちと同じ中学出身者はいるだろう。だが、俺はあの日アルバムを見てしまっている。あのアルバムに写っていた和泉結菜は間違いなく俺に告白してきた女子だった。それなら結菜が一途に想い続ける相手は俺ということになる。そのことは若月にも話したはずだが。
「とまあ、先輩は疑問に思っているはずです。アルバムに写っていたのは確かに自分に告白してきた女子だったと」
「その通りだ」
「でも結菜先輩言ってたんです。確かに中学の頃先輩に告白したって。でも、振られて落ち込んでたところを励ましてくれた人のことを好きになったって。そしてその人にも、結菜先輩は告白してるんです」
確かにそういうこともあるのか。今となっては俺も接点のなかった結菜に何で告白されたのかわかってないし、見た目から好かれたとかだろうか。だとしたらその後内面を好きになった相手がいてもおかしくはない。
いや、本当にそうだろうか。結菜は高校で俺と再会後、セフレの関係になっている。告白して気まずい相手にそんなことをするだろうか。これはまだ俺に未練があるからとしか考えられないが。だとしたら、結菜は俺に自分の真意が伝わることを防ぐため、嘘を吐いているということも考えられる。
「そうだったんだな。人騒がせな奴だ」
俺は若月に話を合わせる為、そう答える。
俺自身、ひとつだけ安堵していることがある。他に好きな人がいるというのは結菜の嘘かもしれないが、嘘を吐くということは俺に気持ちを伝えるつもりがないということだ。告白されないのなら、俺が振る必要もない。俺を好きという気持ちを心に留めておいてくれるのなら、俺から何かをする必要はないだろう。
話は終わり、文化祭実行委員のメンバーが集まってくる。今日の議題は文化祭のスローガン決めだ。各自家に持ち帰り、スローガンを考えてきたからできれば今日中には決めたい。スローガンが決まらないと、チラシも作ることができないし、ポスターだってそうだ。
大熊はその辺を理解しているのか、会議が始まると真っ先に全員の考えたスローガンを回収した。そしてホワイトボードに書き出していく。その中から投票で良さげなやつを選ぶというスタイルらしい。
確かに投票にすれば、すぐに決まるだろう。
「投票を行った結果、煌めけ青春! 青春フェスティバルに決定したっす。それじゃこれでポスターとチラシ作りよろしくね」
そう言って役割を振って的確に指示を出していく。若月はああ言ったが、結構実行委員長として様になっている。
俺たちも手が足りないところに助っ人に入り、仕事をする。
「あ、副会長。ちょっといいっすか」
そう大熊が声を掛けてくる。
「文化祭のポスターに会長と副会長の写真を使いたいんすけど、いいか」
「まあ確かに生徒の顔だものな」
「ちょうど男女で見栄えもいいし、うってつけだと思うんだ」
「会長の了承をもらわなきゃいけないから返事は明日まで待ってもらっていいか」
「もちろん。よろしくね副会長」
そう言って大熊は踵を返して自分の持ち場に戻った。
結菜とポスターのモデルか。結菜は見栄えがいいから問題ないだろうが、俺はそうもいかない。まさかこの俺がここまで目立つ役割を引き受けることになるとはな。俺も変わったのだろうか。
結菜の本心を知った今、これからの接し方を考えなければならいと思うが、それでも今まで通り家族として接するのがいいのかもしれない。俺が意識をして避けたりすると、結菜も普通じゃなくなっていくだろうしな。
「先輩ちょっといいですか」
若月に呼ばれ、移動する。
「舞台の出し物の申請書なんですけど、量が多くて捌ききれなくて。ちょっと手伝ってもらっていいですかね」
「いいぞ。出し物については俺たち生徒会が吟味する必要があるだろうから、俺らで見るのが手っ取り早い」
「じゃあお願いします」
それから俺と若月は文化祭実行委員で馬車馬のように働いた。
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