第32話
穂高視点
テストが終わった。勉強会の成果は十分にあったようで、結菜は手ごたえを口にしていた。
結菜たちと出掛けることを一輝に伝えると二つ返事オーケーした。やはり女子が来るという情報に一輝は弱かったらしい。
そんなわけで迎えた土曜日。俺と結菜は一緒に家を出て待ち合わせ場所に向かっていた。
「緊張してるか」
「少しだけね」
結菜にとってみれば念願の一輝とのデートだ。アタックするならチャンスだし、サポートできるところはしてやりたい。
待ち合わせ場所に着くと既に一輝が待機していた。一輝の性格上楽しみ過ぎて早く来すぎてしまったのだろう。
「よお。早いな」
「おう。お前らも早いじゃん。和泉さんも今日はよろしく」
「うん、よろしくね、堀くん」
ファーストコンタクトは上手くいったようだ。というか一輝のやつ、気まずさはないのだろうか。一応過去に振った相手だというのに。
そう思っていると佐藤さんがやってきた。
「おはよう。みんな早いね。私も早く出てきたつもりだったのに」
「おはよう美奈。紹介するね、私の親友の美奈」
「あとひとりって佐藤さんだったんだ」
一輝は佐藤さんを見ると少し照れくさそうに頬を掻いている。口ぶりからして知り合いっぽいな。
全員揃ったことで、目的地へ向かって歩き始める。今日向かうのは大型アミューズメント施設だ。ボーリングがあったり、いろんなスポーツができるところがあったりと、大勢で遊ぶにはうってつけの場所。
店の中に入ると、まずはボーリングをしようということになり、二階の受付に向かう。
「どうせだったらチーム戦をやろうよ」
「いいな、それ」
結菜の提案に一輝が乗ってくる。なるほど。ここで一輝とペアになる算段か。なら俺は佐藤さんと組めばいいのだろう。そう思っていると結菜が俺の腕を取った。
「やっぱりここは兄妹の力を見せつけたいから、私は穂高と組む。美奈は堀くんと組んで」
「う、うん。わかった」
結菜の行動に疑念を抱く。一輝とペアにならなくていいのか。二人で協力して勝てば仲も深まるだろうに。
だが、決まった以上、反論する必要もない。俺は素直に結菜とのペアを受け入れる。
「よろしく、佐藤さん」
「うん、よろしくね堀くん」
お互いぎごちなさがあるようだが、嫌だというわけではないらしい。ボーリングはやったことがないが、どうせなら結菜と力を合わせて勝ちにいきたいと思う。
自分の力に合わせたボールを選び、レーンの中へ。順番は結菜、佐藤さん、俺、一輝の順だ。
結菜がボールを持って前へ歩み出る。少し重そうな表情を浮かべた結菜は振りかぶって第一投目を投じる。ボールは端に向かって転がっていき、ガーターに落ちる寸前で踏みとどまった。なんとかピンを一本倒し、結菜はほっとした表情を浮かべる。
「ボーリングって難しいね」
「ボール少し重いんじゃないか」
「平気平気。これぐらいは、大丈夫」
そうは言うがやはり少し重そうだ。二投目を投じた結菜はバランスを崩し転倒しかける。ボールに体を持っていかれている。ボールはガーターに落ち、一本も倒せなかった。記録は一本。幸先の悪いスタートになってしまった。
「やっぱりボール変えてくる」
そう言って結菜はボールを選びに戻っていく。
その間に佐藤さんがボールを持って前へ歩み出る。
「佐藤さん、ファイト」
一輝が声援を送っている。佐藤さんは綺麗なフォームでボールを投じると、ボールは直進していき先頭のピンに直撃した。次々とピンを倒し、記録は八本。結菜と違って相当上手い人だと思った。
「ナイス佐藤さん!」
そう言って一輝がハイタッチを求める。それに佐藤さんは嬉しそうに応じる。
おい、いいのか。一輝と佐藤さんの仲が深まっているように感じるのだが。
そのタイミングで結菜が戻ってきて、嬉しそうに頷いていた。
佐藤さんの二投目はピンを一本倒し、惜しくもスペアとはならなかった。だが、結菜が一本なのに対し佐藤さんは九本。いきなり差をつけられた。
俺はボールを手に取ると前へ歩み出る。ボーリングなんてやったことはないが、要するにあの真ん中のピンを倒せばいいのだろう。俺は狙いを定めてボールを投じる。ボールは勢いよく先頭のピンに向かって転がっていく。ボールは狙い通り先頭のピンを押し倒すと、後ろのピンも倒していく。記録は九本。残る一本を二投目で倒し、スペアを獲得した。
「ナイス穂高」
「おう」
俺と結菜はハイタッチを交わす。ボールをコントロールする能力は俺にあるようで、そんなに難しいとは思わなかった。だが、ストライクを取るのにはコツが必要なようで、それが俺にはまだわからない。
「それじゃ俺の番だな」
そう言って一輝が前へ歩み出る。正直、一輝のボーリングの腕前を俺は知らない。だからあの自信満々な顔を見た時、相当できるのだろうと思った。一輝は自分に自信があるときは、こういう顔をするのだ。
その俺の直感の通り、一輝はいきなりストライクをたたき出した。ボールが回転してカーブを描き、先頭のピンを倒したかと思うと、その勢いのまま後ろのピンも蹴散らした。さすがは野球部。帰宅部の俺なんかとは筋力が違う。ボールの勢いが圧倒的だった。なるほど、ああやってカーブをかけるのか。次はやってみるか。
一輝はガッツポーズをして、佐藤さんとハイタッチする。女子の前でかっこいいところを見せられてご満悦のようだ。
それからボーリング対決は進み、俺と結菜は一輝、佐藤ペアに完敗した。
一輝は驚異のストライク率六十パーセントをたたき出し、圧倒的一位でフィニッシュした。俺はといえば、途中からカーブを習得したことで、何度かストライクを出せたが、一輝には及ばなかった。結菜は一度だけスペアを獲得し喜んでいたが、佐藤さんがスペアを頻繁に出していたのでここでも完敗。俺たちは二人にジュースを奢った。
続いて、スポーツコーナーに移動する。フリータイムで入り、まずはバッティングセンターに向かう。一輝にいいところを見せさせる為に俺が提案したのだが、結菜と佐藤さんも結構興味津々だった。
一輝は百三十キロのゲージに入ると、軽くスイングして打球を飛ばしていく。それを見て結菜と佐藤さんが感嘆の声を上げる。
バッティングを終えた一輝が出てくると、佐藤さんは一輝に近寄った。
「あの、教えてほしいんだけど」
「勿論。最初は百キロとかが打ちやすいと思うよ」
一輝は佐藤さんにバッティングのコツを伝授していく。
ちょうど待合室で座っている俺と結菜はそれを見守りながら会話する。
「なあ、いいのか」
「なにが?」
「お前、今日全然一輝と絡めてないけど」
「私はいいよ。今日は最初から美奈と堀くんをくっつける作戦だから」
「へ?」
そこで俺は自分の勘違いに気付く。結菜が一輝を好きなわけじゃなくて、佐藤さんが一輝のことを好きなのか。
どうりで結菜の行動が解せないものが多かったわけだ。佐藤さんと一輝をくっつけようとしていたのなら納得がいく。
「穂高もわかってて協力してくれたんじゃないの?」
「いや、俺はてっきりお前が一輝を狙ってるのかと思ってだな」
「なにそれ」
結菜が頬を膨らませる。
「私が堀くんを好きだと思ったってこと?」
「ああ。だって一輝は俺たちと同じ中学だし、そうなのかと思ってな」
「それで私と堀くんをくっつけようとしたんだ」
「あ、ああ」
「ふーん、そうなんだ」
なんだかわからないが結菜を怒らせてしまったらしい。結菜は顔を背けるとバッティングゲージに向かって歩いていってしまう。
そうか。一輝のことを好きなんじゃないのか。そう思うとどこかほっとしている俺がいた。結菜は大事な家族だ。その相手が一輝なら安心だと思ったんだが。この感情はいったいどういうものなのだろう。
「やった、打てた」
歓喜の声が上がり、そちらを見ると佐藤さんが打球を飛ばしていた。一輝のアドバイスが功を奏したらしい。
初心者でいきなり打球を飛ばせるのは素直に凄いと思った。結菜を見れば空振りしつつも、時々打球を飛ばしていた。
一輝が教える役に回り、上手く女性陣を楽しませていた。俺は時々バッティングをしては休憩したりと、自由に過ごしていた。
しばらくすると、バットを振り疲れたのか、佐藤さんと結菜がゲージから出てくる。
「次はどこ行く?」
「私、バトミントンとかしたい」
結菜の問いに、佐藤さんがそう答える。というわけで俺たち四人は場所を移動し、バトミントンのコーナーへと向かう。
一輝と佐藤さんの仲はだいぶ深まったようで、今も楽しそうに喋っている。
バトミントンのコートに入ると、自動的に俺と結菜、一輝と佐藤さんに分かれた。事情を知った今、佐藤さんに協力するのは当然だし、一輝の幼馴染として、彼女を作る手助けをしてやるのも俺の仕事だと思ったからだ。
バトミントンを始めると、やはり一輝の身体能力の高さが目立った。スマッシュは強烈で、俺は受け切れず羽根をおとしてしまう。というか、俺以外全員慣れている。結菜もそれなりに上手いし、佐藤さんもスマッシュを打ってくる。
とても仲間内で集まってわいわいやる感じじゃない。真剣勝負そのものだった。
「ほら、いくよ!」
結菜がサーブを打つ。それをレシーブした佐藤さんの返球が俺に上がる。俺は振りかぶり、目一杯の一撃を放つが、一輝に逆に打ち返されてしまう。それを結菜がなんとか拾い、ラリーは続く。最後に一輝がスマッシュを決め、またしてもポイントが一輝たちに入る。
そのまま何度か打ち合ったが、最後の一本を一輝に仕留められ、俺と結菜は負けてしまった。
「はぁ、はぁ、悔しいね」
「そうだな。まあ、運動部の一輝と俺じゃレベルが違うって」
「でも穂高もついていけてるじゃん」
俺は元々の適応能力は高いと自分でも思っている。だからある程度までは戦えるが、本当に強い相手には適わない。
「けど、美奈と堀くんが仲良くなれて良かったよ」
「友達想いなんだな」
「美奈は親友だからね。特別」
そう言うと結菜は微笑んだ。
俺はその場にへたり込むと天井を見上げる。
たまにはこうやって汗を掻くのもいいもんだな。
それからしばらく休憩し、俺たちは次の場所へ向かうのだった。
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