第9話 脱ぎ捨てた仮面

 被っていた仮面を脱ぎ捨て、話し出した自分という人間と悩みたち。それらを一つ一つ吐き出していくたび、死に近づいたように身体が重くなる。

 真生は変わらない表情で話していたが内容は酷く、俺なら耐えられないものばかりだった。

 殴られたり蹴られたりなどのことは、そこまで痛くないし放っておけば治る。だけど真生は精神がおかしくなりそうな罵詈雑言ばりぞうごんを毎日のように浴びせられ比べられている。

 そして学校のこと。真生は俺を避け、無視していたわけではなかった。要領が悪いからと家でも学校でも必死に勉強していただけだった。なのに俺はその頑張りに気づくことは愚か、嫌われていると勘違いして冷たい態度をとっていた。

 友達なら親友なら、お互いのことをちゃんと理解していると勝手に思い込んでいたが、ちゃんと話さなければ何も分からないことを知った。『理解するのは当たり前』そういう考えかただと本当のことは何も伝わらない。

「俺ずっと嫌われてるって勘違いしてた。ごめん………」

 話しているとき一度も目を逸らさず、真剣に話し合いをしてくれた真生は段々と昔の柔らかい雰囲気に戻っていた。

「僕のほうこそ蒼依が傷ついてるって気づかなかったごめんね」

 こんなにも俺を思ってくれていたなんて………

 それに比べ、俺は自分のことばっかり考えてた。真生の置かれている状況など知ろうとせず、ただ嫌われたと思い込み、真生を怖いと思っていた。

「真生はずっと一人で頑張ってたんだね」

 ぶどうジュースを飲み、リスのようにお菓子を頬張っている真生。手のひらに乗せている貰ったぶどうジュースの絵柄のクマがいつになく元気そうに見えた。

「僕は頑張ってないよ。蒼依、頑張ったね」

 そう言いながら俺の口元にチョコレート菓子を持ってきた。一年と半年振りに向けられたその笑顔を死ぬ前に見られて嬉しかった。

 口を開け、チョコレート菓子を口にする。久しぶりだったからか、ものすごく甘ったるかった。

「甘いね」

「チョコだからね。蒼依のこと知れて嬉しかったありがとう。これ食べ終わったら道の駅戻って、こう」

「うん」

 夕刻が迫り青かった空も今では暖色をぶちまけたような明るい茜色に染まり、二筋の飛行機雲が描かれていた。

 墓地を取り囲んでいる森に咲いている、数えきれないほどの彼岸花たちは昼過ぎに見たときよりも赤く燃えているように見えた。

 

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