第7話 道の駅
だだっ広い駐車場より小さな道の駅。和風な造りで外に置いてある三台の自販機の前に設置してある木造のベンチは大人二人が寝転がれる大きさで背もたれがなく、ベンチというより
正面入り口の扉の左横、行方不明になった人のポスターが一枚貼ってあった。ポスターに載っているおばあちゃんは、明るい花柄の服に身を包み素敵な笑顔を浮かべている。
俺がいなくなったら母さんもこうやってポスターを貼って俺の帰りを待ってくれるのだろうか? もしかすると、喜ぶかもしれないな。
服の上から腕に触れると、薬を塗ったあとのようにベタベタしていた。
北海道のような二重扉をくぐり、店内に入ると木の匂いが鼻を抜けた。店全体が木製で入って右側には地元の人が作った木の椅子やテーブル、小物入れをはじめとする木製の商品がずらりと並んでいた。
間近に見てみたかったが、真生が俺を待っている様子だったので、見るのを諦め真生の後を追いかけた。
食堂なのか大きなテーブルが三つほどあり、その右側には広い畳の部屋があった。そこにもいくつかテーブルがあったが真生がテーブルの方の席に腰をかけたので俺もすぐに真生の斜め左に座り、目を合わせないように俯いた。
「なにか食べる?」
そう言って真生は食堂の商品受け渡し口兼お会計場所の上に吊るされているメニュー表を指差した。
死にに行くのに今にも音が鳴りそうなほどお腹は減っていて、メニューを見ているだけでよだれが垂れてきそうだった。
メニューには好物のざるそばもあれば伊勢うどんもラーメンもある。どれも美味しそうなものたちばかりで決められない。
「決まった?」
「えっ⁉︎ えっと………」
圧をかけるように頬杖をつき、ジッと俺の目を捉えながら問うた。
メニューをもう一度見る。
ざるそばか伊勢うどん。この二つまでには絞り込めたが………いっそのこと二つ食べるか? でもなぁ………
「僕ざるそばにするから半分こしよ」
「えっ⁉︎」
思いもよらない提案に大声を出して立ち上がっていた。そんな俺の奇行を見た真生は、神社のときみたいに笑っているように見えた。
「いいの?」
「いいよ」
「ありがとう。じゃあ俺は伊勢うどん、伊勢うどん食べられる?」
何事もなかったかのように座り直し真生に聞いた。真生は目をまんまるにて口に手を当てクスッと笑ったような気がした。
「食べられるよ。頼んでくるね」
「一緒に行く」
席を立ち上がった真生に続いて立ち上がり、ニコニコとこちらを眺めていた年配のおばあさんが立っている食堂のカウンターに向かった。
注文し待っていると、わずか五分ほどで出てきたざるそばと伊勢うどん。おばあさんは俺たちの会話を聞いていたのか、ざるそばにつけるたれが二つ、取り分け用の小さなお皿が二つをつけて出してくれた。
「ありがとうございます」
お礼を述べると、おばあさんは軽く会釈し、ゆったりとした足取りで厨房の方へ戻っていった。
取り皿にうどんを、竹すのこの上でそばをわけ、手を合わせていただいた。
まさか最期の晩餐がざるそばと伊勢うどんになるとは。
そんなことを考えながら食べたざるそばは、とても風味が強くコシがあり美味しかった。続いて食べた伊勢うどんも、もっちりとした麺が絶妙な甘さのタレを絡んでいて美味しかった。
注文し終えてから神社のときと同様にまた一言も話さない真生。無表情でざるそばと伊勢うどんを食べ進めているが、一体どんな感情でどんなことを考えながら食べているのだろう。
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