第6話 神社②

 小吉だったが、おみくじに記されていた運勢は健康運から恋愛運に至るまで全ての運勢がよかった。全体的に記されていた運勢は良くも悪くもないゼロ、普通だった。

 おみくじに同封されていたとんぼ玉の形はまんまる。深海のように深い青色に散りばめられた小さな白やピンクといった花びらを模した色付けがされている。とんぼ玉を太陽の光の下に晒すと深い青色が太陽に照らされ、波打つようキラキラと輝いている。

 おみくじを細長い木の、他のおみくじがあまり結ばれていない所に結び、神社の参拝を終えた。

 今の時間は多分お昼か、お昼過ぎだから近くの道の駅にバスで向かって、そこでお昼ご飯食べて、それから………

 バスの時刻表の睨めっこしながら死ぬまでの予定を立てる。

 蒼依の好きそうなことをして死にたかったが勢いに任せて来てしまったこの田舎には、道の駅・神社・歴史なんとか・草木・田畑・墓場。僕たちの住む町にあるものばかりが此処にある。

 どうしたら楽しかったと思える最期の一日になるのか。

「真生」

 呼びかけられ蒼依のほうを向くと、蒼依はついさっき乗ったバスと同じ色をしたバスを指差していた。

 田舎のバスだから、てっきり一時間以上待つと予想していたのだが、此処にくるときに乗ったバスの来るタイミングといい、今日はついている。

「乗るの?」

「乗るよ」

 プシューと音を立てて停車したバスに再び乗り込み、蒼依が座った隣の席に座った。乗客は僕たち以外にはおらず、バスはとても静かなものだった。

 さっきのバスと同様、僕は蒼依と窓の外の景色を眺めた。

 学校や木造住宅を通り、バスは道の駅を目指す。

 此処から道の駅までは徒歩で十分から二十分くらいで着ける距離だが、お菓子やらジュースやらの袋が思っている以上に重く持って歩くのは少しばかりエラい。その点バスで移動すれば腕も痛くないし、蒼依との距離が近いから一石二鳥だ。

 この村は母方の祖父の実家の故郷である。幼い頃、祖父の実家だった家の近くに流れの緩やかな浅い川があり、お墓参りついでによく、その川で従兄弟たちと遊んでいたらしいが幼すぎて記憶にない。

 時代の流れは恐ろしい。年月ねんげつを重ねるにつれ、その遊んでいた川は濁り、近くにキャンプ場ができ、静かだった祖父の実家だった家は売られ、現在は空き家になってしまった。

 今の時代から取り残され、住んでくれる人も数えるだけしかおらず、魂だけが忘れられたかのように、そこかしこに漂っている。

 静かで時の流れを知らないこの村は、蒼依と死ぬ最期の時間を二人きりで過ごすにはうってつけだ。

〜次は道の駅〜

 朝と同じように虚な目をした蒼依がもたれている窓の横枠に手を伸ばし、設置されている黄色の降車ボタンのとまりますの部分を力強く押した。

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