第5話 神社
バスから降り着いた先は神社だった。どうして神社に来たのかと真生に問うと、死ぬ前にお参りしたいからだそうだ。やっぱり真生の考えていることはわからない。
鳥居の前には十台ほどの車が停められる駐車場があり、そこに三台ほど停まっていた。狭い道路を挟んだ向こう側にはため池のようなものがあり、初め見たときは鯉でも泳いでいるのかなと覗き込んだが何もいなかった。鳥居の右手には神社のイメージを崩さないように建てられたトイレがあった。
鳥居の前でお辞儀をし、境内にお邪魔させてもらい
真生は此処に来たことがあるのかもしれない。
もう一つの鳥居が出てきた。三段ほどのやや急な階段の二段くらいで立ち止まり、お辞儀をして心の中でお邪魔しますと呟く。
鳥居をくぐると右側に
清め終わると真生は後ろにある大きな本殿らしきお社に向かって歩き出した。
赤く塗られたお社。お賽銭を投げるところの真上にはイカつい顔をした天狗のお面が飾ってあった。お参りを済ませると真生は真っ直ぐ歩いたと思いきや右に曲がった。
てっきり帰るものだと思っていたので、急な方向転換に転けそうになった。
真生のあとに続いていくと、小さなお社があった。階段は石造りで苔が生い茂っているため、雨が降っていたり降ったあとだったら滑るだろうな。
ちょこんと佇んでいるお社に手を合わせる。神社ってお願いするとこじゃない気がして、無で手を合わせた。
神社を取り囲むようにして生えている木と境内の木からはマイナスイオンが絶えず排出されているおかげか、心が水面のように安定してきたような感じがする。
境内に入ってから一言も話さない真生。そんな真生の表情を見ようと、少し距離を縮めた。
「おみくじ引くけど蒼依はどうする?」
急に振り向いてきたので驚いて三歩ほど後退りした。
「えっ、あっ引く」
ドクドクと脈打つ心臓を落ち着かせるように深呼吸をしながら
おみくじは二種類あり、一種類は招き猫などが入った見たことのあるおみくじ。もう一種類は見たことのないとんぼ玉みくじ。初めて見たとんぼ玉みくじに
財布から三百円取り出し、それぞれの木箱の右側に設置してある集金箱。とんぼ玉みくじが入っている木箱のほうの集金箱に三百円を入れ目を瞑って引いた。
引き終わると視線が刺さっていることに気づいて振り向くと真生がジッと俺を見ていた。早く
真生も俺と同じとんぼ玉みくじのほうを引いている。
おみくじは一緒に見たい。何を言われても一緒に見たい。湿り出した手を制服のズボンで拭く。
おみくじの中に隠されるようにして入っているとんぼ玉の形はなんだろう? おみくじの中身の一覧が書かれている紙には、まんまる・筒形の二つの形があり、色は青・黄・透明など多色だ。どれも素敵だけど、形はやっぱりまんまるで色は透明がいいな。
「結果見ないの?」
ペリペリとおみくじととんぼ玉の入った袋を開けながら真生は言った。このときの真生は怒ってないような気がした。
「真生と一緒に見ようと思って」
肩と肩が引っ付くほど近づき袋を開ける。背の高い真生の表情を横目で見上げると、おみくじの結果がよかったのか穏やかに笑っているように見えた。
「大吉?」
「小吉」
「俺は大吉」
見せびらかすように、おみくじの結果を真生の顔に近づける。真生は優しい目で笑いかけてくれた。
「よかったね」
笑みを貼り付けながら自分のおみくじの結果を読み込んでいる真生。そんな真生の優しい昔のような雰囲気に痛みきってしまった心の傷が癒やされている。
おみくじの結果など気にも留めず、真生の表情と雰囲気に包まれながら手にした、まんまるの透明な色のとんぼ玉をギュッと両手で握りしめ、おみくじを結びに行った真生の後を追いかけた。
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