第4話 バスの中

 バスに乗ると蒼依は僕の座ってる席から通路を挟み、斜め右の窓際の席に座った。遠慮することはないのになと思いながら僕は席を立ち、蒼依の隣に座った。

 蒼依は驚いたように肩をビクッと震わせると、機械みたいな動きで、窓の方に体を向けた。

 恥ずかしいのか照れているのか分からなかったが、どちらにせよ蒼依と引っ付けて嬉しい。

 いつだったか蒼依とこうして二人でバスに乗った気がするがいつだった?

 にしても此処は相変わらずの田舎っぷりだ。

 蒼依の顔をしれっと見つつ、窓の外を見ると大きな川と木と草と田んぼと畑しかなかった。今年の夏、来たときとあまり変わらない。変わった所といえば葉に赤や黄といった色がついただけ。

 だけど僕はこの土地が好きだ。僕たちの住んでる町と違い、時間がゆったりとなだらかに進み、四季の変化を肌で感じられるから。

 あの町は中途半端だ。田舎なのか都会なのかはっきりしないから、その土地に住んでいる人間も蒼依を除いてはっきりしない。どういう風にはっきりしないのか、例えば人の好みだ。

 あの人嫌いあの人苦手。そう言うくせに楽しそうに話していること、いわゆる八方美人が多い。生きていく上で八方美人になるのは仕方のないことだが、なら悪口を言うなって話だ。その人の耳に自分が言った悪口が届くかもとは考えないのかと思う。

 そんな奴らに比べ、蒼依は誰にでも優しいし悪口を言わない。心の中では悪口や愚痴を言ってるかもしれないが、わざわざ口に出さないから、そこが蒼依のいいところだ。

 久しぶりに蒼依と二人きりで浮かれてたから忘れてたが、今日蒼依と二人きりになれたのは蒼依が死にたいと言い出したからだ。

 どうして死にたいのかは知らない。

 ただ、その言葉を口にしたときの蒼依の眼は酷く虚ろだった。

 勿論、死んでほしくない思ったが、僕ごときが死にたいと言ってる蒼依に死なないでと言う資格はないような気がして、せめてでもと思い死ぬ場所を教えてあげることにした。

 蒼依は何故、死にたいのだろう?

 気になったが、僕なんかが知る権利はないだろうと思い、背を向ける蒼依の奥、曇り始めた窓越しに映る景色を眺めた。

 赤や黄に色づいた葉は美しい。春も好きだが僕的には秋が好きだ。涼しくて過ごしやすいし、何より秋という季節は蒼依の好きな季節だから。

 桜と同じような儚さを持ち合わせる紅葉たちを見るのも今年で最後か。

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