第3話 知らない村

 電車を出たら、そこはもうド田舎だった。時期が時期だから、所々赤や黄色に色づき町や街より涼しかった。

 真生について駅の改札口に向かうと真生は持っていたスマホで、いつ撮ったかわからない俺の隠し撮りを十秒ほど見て電源を落とし鞄にしまい、駅の隅に隠すようにして鞄を置いた。

「なにしとんの?」

 颯爽さっそうと改札口を抜けた真生に向かって、まだ駅構内に残っていた俺は真生の鞄を手に、封印していた方言を口にしながら質問した。

「何ってソレもう使わないでしょ? だから捨てた」

 鞄を指差し、ガラの悪い人みたいに片腕にビニール袋を下げ、両手をポケットにしまって足元の石ころを蹴った。

「あかんやん。学生証とかスマホとか財布とか、いろんなん入っとんのちゃうん?」

 真生の鞄を持って改札口を出ようとした時だった。ガンッと大きな音がして、音のほうに目をやると真生の隣にある銀のポールが震えていた。

「要らないって言ったよね? 学生証と財布とICはちゃんと持ってるから。それ、そこ置いておいて」

 塵でも見るかのような目を向けられ、怖くなり言われた通り鞄を元の場所に戻し、同じように鞄から学生証と財布と交通系ICを取り出し、真生の鞄の隣に小汚い鞄を置いた。

「何処行くの?」

 スタスタと早足で前を歩く真生。その後ろを必死になって追いかけながら問うも真生は答えることなく、黙って早歩きで進み続けた。

 仕方なく黙り込んでいる真生の後ろを歩く。

 昭和の時代に取り残されたこの村を通る車は、どれも軽トラか古い型の軽自動車ばかり。しかも皆、免許返納の時期をとうに過ぎた人たちばかりで運転が荒く危なっかしい。

 ときおり通る、車たちに気をつけ辺りを見渡す。

 本当に山奥まで来たなと体感するほど木々のざわめき、鳥のさえずりが、自然界の音がよく聞こえる。晩秋しゅうばんだからか鈴虫の声もちらほらと聞こえ、まるで音楽隊の音楽でも聴いているようだった。

 俺たちの住んでる町とは違い、コンビニもスーパーも何もかもなく、正真正銘の田舎だった。

 周りにあるのは草木と田畑、それから大きな川。

 今いる場所よりずっと奥から流れてくる水。水が流れている川の石はとても大きく、身長165センチの俺より大きな石もあった。

 そんな自然を満喫しつつあったとき、ふいに真生が足を止めた。真生の視線を目で追うとバスの案内表があった。

「バス乗るの?」

「乗るよ。多分もうすぐで来るから」

 真生はクイっと顎でさっきまで歩いていた道の方を指した。見ると、さっきまで歩いていた車一台しか通れない細い道を器用に進んで、こちらに向かっているであろうバスがいた。

 てっきり質問には無視してくると思っていたから返事が返ってきて驚いているが、口には出さない。

 真生は何を考えているんだろう。突然死にたいと口にした、友達とすら思ってないヤツなんて放っておけばいいのに死ねる場所を教えてくれるなんて、親切なのかからかっているのか………

 ひんやりと心地よい冷たさの空気と共に深緑色と白色の二色のバスがやって来た。所々に貼られた色あせた宣伝ステッカーが、バスの綺麗さから違和感を感じさせる。

「何してるの?」

「あっ、ごめん」

 バスの外装を見ていたため、バスに乗るのが遅れた。前で運転している、人の良さそうな運転手さんとバスに乗っている二人の老婆たちに謝罪の意味を込め会釈し、やけに暖かいバスに乗り込んだ。

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