第22話 魔法学院試験開始

 シルベルタの領主シャイン・シュタルク・シェリヴスは高潔でなかなかの人物だった。


前領主に代わってダンジョンの防壁を充実させたのも彼の業績でダンジョン収益のお陰とはいえ、税率も7対3と低く領民の支持も高い。


直ぐ横でシャイン伯爵がエリカ様とリサさんに話をしているので小声でビルドさんが話しかけて来る。


「リサを頼むな。なにせ、おっちょこちょいだからな」


十分承知しております。


「解りました」


「では、出発します」

「うむ、しっかり学んで来るのだぞ」

「はい、お父様」


試験に受かれば3年間は、全員寮に入る。学院も地球と同じで春、夏、冬に長期の休みが有るので戻るとすれば、この休みを利用することになる。


「もしもの時は王都の屋敷に行くのだぞ」

「はい、解りました」


「リサもシンもビルド商会を頼るのだぞ」

「はい」

「ありがとう御座います」



こうして俺は再び王都に行くことになった。




「いやぁ、シン君が魔法学院の試験を受けるとは思わなかったわよん」


「そうですね何が……とと」


「馬にはわかちゃうからね、こいつ初心者だって」


俺は馬に乗れないので、王都に行くまでの間ミミさんに乗馬を習う事になった。今日で3日目なのだが太ももはパンパン、尻は痛いしでもう大変。


舐められているのか言う事を全然聞いてくれない。


4日目、ついに尻の皮がムケた。痛いのなんのって、しかし大丈夫。ヒュドラの再生スキルで直ぐにもと通り、内緒で湖の水を飲んで復活。


ここまでズルをしても馬が言うこと聞いてくれないのでは

仕方ない。やりたくはないが短期馬術取得の為に力ずくで言うことを聞いてもらおう。


馬の天敵の1つが熊なので、クレイジーベアの威圧スキルをホンのちょっとだけ発動。



「ヒ、ヒン」


「ごめん、少しの間で良いから俺を助けてくれないか?」


「……ブルッ」


どうやら解ってくれたようだ。ありがとう。


「皆んな、今、僅かだが魔物の気配を感じなかったか?」


「うん、感じた」

「う~ん」

「姿は見えないけんど。シン君はどう?」


「い、いや判らなかったです」


「そうか、シン君が感じないなら気のせいか。すまん」


迂闊だったSクラスの冒険者がいるんだ気をつけよう。


リズムを取るのが難しかったが馬くんの協力で王都に着くまでに何とか速歩まで出来るようになった。


エリカ様は御屋敷の方に俺達とリサはビルド商会王都支店に顔を出してから魔法学院側の宿屋に行く予定だ。


「リサさん、シンさん、では試験場で」

「「はい」」


「シン君、また会う日を楽しみにしているぞ」

「はい、皆さんもお元気で」

「シン君、試験頑張ってね」

「はいありがとう御座います」



ナターシャさんと別れビルド商会に挨拶した後、宿に到着。試験は3週間後なのでゆっくり調整する事が出来る。



正直試験に関しては、なんの心配もしていない。俺には強い味方がいるからだ。


知識欲にかられ貪欲な探究の末にリッチになったリッチのスキル"天地万有"を使えば満点間違いなし。


リサと意見を交わしながら過ごし試験当日をむかえた。





試験会場には色んな種族、色んな年齢層の人達が居た。


合格の人数は決まっていない。魔法学院側が要求する能力を備えていれば、何人でも入る事が出来る。


試験が始まった。


魔法実技の課題は、厚さ1cm鉄製の板を、魔法で貫けと言う物だった。但しこの鉄板は学院の教授によって強化魔法が付与されておりアダマンタイトの三分の一の強度が有るらしい。


穴は小さい方が良く、使用魔法は何でも良い。「壊せ」では無い所が味噌らしい。魔力の変換や集中の仕方の技量が試される。


自分の属性を試験官に告げて魔法を放つ。ほとんどが、壊す事さえ出来ず、穴を空けれない者だった。


たまに、30㎝程度の穴を空けれる者が出る感じだが、それでも上出来だろう。


目を引いたのは、中年の剣士やエルフの魔道士、獣人で猫族の空けた1㎝の穴だった。


リサの番が来た、リサは水属性の魔法を使う様だ。強化された鉄板に水か?どうするのだろう。


が放った水魔法は、水弾ではなく、放水になる。最初は直径20cm程度で鉄板に当たったが、次第に細くなって行く。水の勢いが変化し、直径が5mmになった時、板を貫通し後ろの岩壁をも貫いた。このままだと何処まで行くのか判らない。


慌てて試験官が止める。


「や、止めなさい」


称賛のため息が、見学している教官達から漏れる。


リサのユニークスキル、魔力圧縮を使ったのだろう。出会った時からかなりレベルアップしている。俺達がガルドマズル山に行ってる間にかなり頑張ったに違いない。


俺の番が来た。


この試験、俺にとっては不利なお題と言える。マジックハンマーは物を動かしたりするのは容易だが、建前は無属性として穴を空けるには魔力をどう変換すればよいかは文系の俺では頭が追いつかない。


どうするか?


「無属性です」

「ほう、無属性ですか。では初めてください」


「その前に確認しておきたいのですが?」

「何かね?」


「『魔法で貫け』、と言うのは『魔法を使って』と解釈して良いですか?」


「……つまり魔法を仲介役にして穴を空けると言う事かね?」


「そうです」

「なるほど、少し待ちたまえ」


初老の試験官は、後ろで見学していた教官達の所へ行き何かを話している。ダメだと言うならスキルで属性魔法を使えると言って穴を空けるだけだが。


「待たせてすまんな、君が無属性というのを鑑み『魔法を使って』という解釈で良しとする」


「ありがとう御座います」


さすがは来るものは拒まずを、うたい文句にしている王立魔法学院だけあって懐が深い。


無属性を建前としてどう戦うかは常に考えていた。鈴木に異世界物の小説を読まされる前にはハードボイルドを良く読んでいだ。


なので、マジックハンマーを利用する上で真っ先に思いついたのがこれだ。


強化鉄板との距離は約20m、俺は人差し指で鉄板を指し親指を立て手を拳銃の様にする。


人差し指の前には直径5cmの魔法陣、その先には6.8mmのライフル弾を真似て作ったアダマンタイト製の弾が浮いている。


小さな魔法陣の前にズン豆のような金属が浮いているのを見て見学者達は何をするのかと興味津津だ。


ライフルの弾は秒速600~1000mと言われている。弾をその速度で動かす為の力とパワーエネルギーを魔力変換、そのイメージそのままに、「マジックハンマー!」


初めて使用するので威力は判らない。念の為に強化無効のマジックインバージョンを弾に付与しておく。


弾は0,0何秒かで強化鉄板に到達。乾いた"パン"と言う音ともに強化鉄板を貫き後ろの岩壁に消えて行った。


一瞬の出来事なので誰も気づかない。


「君、初めて良いのだよ」

「えっ、終わりましたけど?」


俺の返答を聞いた初老の試験官は、中に浮いていた弾が無いのに気づき、慌てて強化鉄板へと走り出す。


「し、信じられん……君、どうやって、……おっと失敬、今訊く事ではないな。では次の者」





「相変わらず無茶苦茶ねシンは」

「そ、そうかな?」


あんなに凄いとは思っていなかったので、実は動揺してはいる。




ーーーー



1日目のは無事終了。2日目の筆記試験が始まった。


1問目は?


森羅万象について、古代……が述べている……は……何と書かれているか。う~ん、さっぱりだ。勉強してないので解る筈がない。


予定通り、リッチのスキル天地万有を発動!


ーー



「どうだった?」

「バッチリよ」


「さすがだね。これで発表を待つだけか」

「1週間後ね」



試験が終わったので鈍った身体をどうにかしたいとリサが言うので、ギルドに行って依頼を受ける事にした。そして1週間が過ぎ発表の日が来た。

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