第20話 祝福の儀
仲間からの報告によると、盗賊団アワーズの襲撃の撃退に成功してもうすぐシン達は王都に着くそうだ。
気取られては不味いので高価な魔道具を使って遠距離から観察していたわけだが、傭兵団"イレイジャー"のゴメスを退けたのはシンだと言う。
戦いの内容は煙幕のせいで判らなかったそうだが、煙幕の中から撤収弾が上がりゴメスと傭兵団は去っていったそうだ。
ゴメスと言えば元SSクラスの冒険者で、傭兵団としても数多くの実績を残している強者であり裏の世界でも顔が利く奴なのだ。
冒険者になって間もないシンがどうやって戦えるというのだ。こうなるとリサの考えも間違っているとは思えなくなる。
「父さん呼んだ」
「ああ、入りなさい。シン達がこの街に戻って暫く経つと年が明け、お前も15歳だ」
「ええ、解ってる。王立魔法学院の入学試験ね」
「そうだ」
「大丈夫、勉強はちゃんとしているわ」
「うむ。それでだ、シンにも試験を受けるよう話して見るつもりだ」
「シンも試験を受ける……一緒に学院に通う」
「嬉しそうだな?」
「な、なに言ってんのよ。そんな筈ないじゃない。父さんの考えはこうでしょ?学院生活の中でシンの事を見極めなさい。でしょ?」
「まぁ、それもあるが、王都でのお前の役目は危険な物になるかもしれん。お前の護衛という意味合いも有る。それに、おっちょこちょいだし、お前は」
「もう!うるさい」
☆☆☆☆☆☆
あれ以来盗賊団による襲撃も無く王都に着く事が出来た。
その後の調査により雇われた傭兵団は"イレイジャー"だと判明した。
騎士団長のオリバーさんは、国王や重臣達に全て報告しなくてはならないので、イレイジャーの頭であるゴメスと対峙した時の事を俺に改めて訊きたいとの事で、オリバーさんと"情熱の赤い薔薇"のメンバーの前に座っている。
「つまりゴメスの不思議な魔法によってドーム型の煙の中に入って2人っきりになったと」
「そうです」
嘘つき大会の始まり始まり、だ。もちろんモリバススレイヤーのスキル"静かなる心"は発動している。
「それで君は盗賊団アワーズに加担するのは止めるように説得をしたと」
「そうです。ゴメスさんは話の解るとても良い人でした」
皆んなが俺をジィ~っと見ている。ここが堪えどころだ、頑張れ俺。
「ナターシャ殿、側にいた君に異論は無いかね?」
「煙の中は全く見えなかったので、何とも言えませんが暫く経って撤収の合図が上がったのは事実です。そして速やかに傭兵団は去っていきました。そのおかげで助かったと言って良いでしょう」
「うむ、確かにあのままではどうなっていたか判らないな。解った、シン殿ありがとう」
良かった、終わった。
騎士団長オリバーさんの報告を聞いた国王と重臣達は全て納得したそうだ。
騎士も冒険者も死亡した者はいなかった為、傭兵団"イレイジャー"及び頭のゴメスさんはお咎め無しとなった。
裏切った"猿"の連中は奴隷落ちになり鉱山送りとなった。生きて戻って来る事は無いそうだ。
めでたしめでたし。
翌日、ナターシャさんが興奮した様子で部屋に入ってきた。
「今回の護衛任務に参加した者は神殿で祝福を受けられるそうだ」
「ホントですか」
「やった~」
「信じられない」
「皆さんすごく喜んでますけど祝福ってなんです?」
「人々にとってすごく名誉な事なのよ」
「運が良ければステータスが上がったり、スキルや加護が付く事もあるの」
「へぇ~、良かったですね皆さん」
「なにを言っている、シン君もよ」
「俺もですか?」
「「「「当たり前でしょ!」」」」
神殿に着ていく服を皆んなで買いに行くことになった。俺には全く判らないのでコーディネートはマリィさんにお任せだ。
と言っても上等な物を着る必要はなく、だらしの無い格好でなければ良いそうだ。
冒険者用のズボンに革製の長靴、上はタキシードにをアレンジしたような物になった。
結局、マリィさんの提案により全員がお揃いの格好にすると決まった。
"情熱の赤い薔薇"の人達は宝塚の男役の感じでとても凛々しい。
「なかなか良いな」
「ホント」
「シン君もうちらのパーティに入ったらどう?」
「いや、それはちょっと」
「何か不満でも?」
「そういう事ではなくてですね」
「ミミ、あまりシン君をイジメるな」
「は~い」
ふぅ~、助かった。その後、王都で有名なコカトリスを美味しく料理するという店に行った。。そういえば亜空間に何頭か有ったな調理のしかたを参考にしよう。
そんな感じで神殿に行く日までの2日間は皆んなで有名店の食べ歩きをして過ごした。
いよいよ今日は祝福の日だ。柄にもなくミミさんが緊張しているのが面白い。普段から獣王国の訛が出るのだが、今日は聴き取れないことすらある。
「落ち着けミミ」
「落ち着いてますやんか」
「何処がだ」
ナターシャさんとミミさんの漫才のような会話を聞きながら神殿に到着。
「俺も緊張して来た」
「にゃ」「ミャ」
中はまるでヨーロッパの世界遺産の様に荘厳、壁や天井に描かれているのは神々なのだろう、大迫力だ。
3000人は座れる大礼拝堂に騎士41名、冒険者45名と2頭が順に着席する。
扉が開き神殿の偉い人達が入って来た。年寄りなので多分そうだろう。
最後に入って来たのは女性だった。歳は14歳で、光と水の属性、容姿端麗、性格も良く問題なし、こんな良い子がいるんだ。
そして慈愛の女神サユリア様の加護を持っている。
この子が祝福の儀を行う巫女に違いない。適性鑑定をしていたら目が合ってしまった。バレたか?
彼女は俺を見てにっこりと微笑んだ。グフッ!この微笑みに勝てる者はいないに違いない。
彼女の視線の先に俺がいると判った男性陣が一気に俺を見る。
これまた怖ろしい。スキル"静かなる心"発動。
偉い人達の有り難いお話の後、偉い人達に促され彼女がサユリア様の像の前に跪く。
彼女の身体から可視出来る魔力が溢れ出る。やがてそれは輝き出し礼拝堂を埋め尽くした。
「おおっ!」
そこらじゅうで感嘆の声があがる。なんて心地よい光なのだろう。
輝きが終わるとまた偉い人達の有り難いお話が有って祝福の儀は無事に終わった。
神殿を出ると皆が一斉にステータスのチェックを始める。
あっ、なるほど。じゃ、俺も。
体力も魔力量も数値は変わっていない。スキルも新しいのは見当たらない……。
ふぅ~、加護が増えている。慈愛の女神サユリア様の。
これは良いことなのだろうね、きっと。うん、そうに違いない。
次はララだ……。ララにもサユリア様の加護が付いていた。
「良かった?」
「にゃうう」
微妙な返事。ララにも判断出来ないらしい。
リリを観て見る。
相変わらず文字化けだ。体力と魔力量は合間にレベル上げをして上がった時のままだ。
……加護の文字化けが消えている。女神サユリアと読める。リリにも付いた。ん、もう一つある。
加護 女神サユリア
天空神アステト
これは多分もともと有ったやつだ。天空神て確か創造神と神格が同じくらいじゃなかったかな?
「シン君はどうだった?」
興奮した様子でジュディさんが訊いてきた。
「えっ?」
「ステータスよ」
「残念ながら何もありませんでした」
「そう、残念ね。私達は全員、体力と魔力量が上がってたのよ」
「それはおめでとう御座います」
「「「「ありがとう」」」」
皆んなの喜んでいる顔を見ると幸せな気持ちになる。
さぁ、ご褒美のビックイベントも終わった。
シルベルタの街に帰ろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます