第19話 王都へ帰還 ②

 本当の事を言うのは簡単だが騎士団も居るし、これ以上俺のスキルを知られたくはないと言うのが本音だ。


最悪の場合、魔道具を亜空間に入れてしまえば良い。


騎士団が護る馬車を先頭に次々と森の中に入って行く。殿の俺が乗る馬車が入った直後、騎士団の最後部に無数のサンダーアローが着弾する。


轟音が鳴り響き木々が倒れ生木に火は着くが燃えずに燻り煙が立ち込める。


騎士団と冒険者の馬車が分断された形になった。


サンダーアローが撃たれた瞬間に異変に気付いたナターシャさんとマリィさんが動こうとするが"情熱の赤い薔薇"の前の馬車は"疾風のましら"だった。


ナターシャさん達はバズクとパーティメンバーに進行を妨げられた。


よく出来た作戦だ。さて、そろそろこの馬車に盗賊団の連中が来る頃だ。


「ちょっと見て来ます。ララ、ジュディさんを頼む」

「にゃう」

「シン君、外に出ちゃダメよ」


ジュディさんが俺を掴もうとするがララの尻尾で弾かれた。


「ララちゃん……」




外に出た俺に近距離からダークバレットが飛んで来る。


無詠唱か盗賊団にも腕利きがいるようだ。


「シン君、危ない!」

「よそ見してて良いのかい?」

「くぅ」


大丈夫ですよナターシャさん。無詠唱なら俺にも出来る。


『マジックインバージョン』


俺の身体に触れる寸前、ダークバレットは雲散した。


「えっ」

「なんだと」

「はぁ」


「マッカラムの奴、シンの本当の実力を知っていたな」

「何だあの小僧は?」

「さあね。王国の隠し玉じゃないのかい」

「ぬかせ、どうせあいつが来れば終わりだ」


「あいつ?」


「人の事を気にしてどうする。さあ、正々堂々勝負だ」


「裏切り者がカッコつけても様にならないよ。ミミ、マリィ、相手の数の方が多い。ぬかるんじゃないよ」


「分かってるわよん」「任せて」





「魔法を消滅させるなどあり得ん」

「貴方が知らないだけですよ」


「くっ、ガキの分際で、喰らえ『アイシクルスピア』」


「無駄な事を『マジックインバージョン反転』」


俺に向かって来たアイシクルスピアは、一旦分解され無効化するが再構築し盗賊に戻って行く。


「うっ、うわ~、グフッ」


盗賊は串刺しになって命尽きた。


とうとう人を殺してしまったか。とは言え直接剣で殺ったわけではないので罪悪感はあまり無い。


「こんな感じで慣れて行くんだろうな、きっと」


ん、誰か来るな、凄いプレッシャーだ。



「ドーズを倒したんだ。どんな奴かと思えばこんな若造とはね」


俺もだよ。どんな極悪人かと思えば、ただのお人好しとは。困ったな。



『爆煙』


俺が使ったスキルによって煙のドームができ、中には俺とゴメスの2人きりになった。


「おっ、こりゃパリアティブリザードが逃げる時に少しの間、敵を閉じ込める"爆煙"じゃねーか……ははん、若造なにを企んでる?俺を倒す為の物じゃねぇし。……他人に俺達の闘いを見せない為だったりして」


「さすがですね、もとSSクラスのゴメスさん」


「……どうやら侮っていい相手ではなさそうだな。本気で行くぜ」


酒好き女好き。ここだけ見れば、只のろくでなしだが、義理人情に厚い男だ。只のお人好しとも言えるが。


ゴメスの手が剣にかかる。サィードさんと同じ系統の嫌なスキル、"武闘転移"半径10m以内限定で転移が出来るスキルだ。解っていても知らない内に斬られているだろう。


たけど対策は考えてある。俺のスキルも同じ系統に属するから良かった。


『武闘転移』


『昇速、亜空間』


簡単な事だ。亜空間に逃げ込めば良い。中に入れば斬られる事も無いし、俺の許可がなければ入れない。もちろん壁や床にも入れない。


「なにっ!消えた」

「ここですよ」


ゴメスは慌てて後ろを振り返る。


「お前も転移できるのか?」


「幻覚でも見たのでは?」

「ふざけるな」


「じゃ、俺も本気出すよ『ゴブリンに変更』」


『武闘転移「なっ、転移出来ない」』


「それじゃ行かせてもらいます」


「そんな鈍らな剣など軽く避けて……か、身体が思うように動かん」


俺の剣がゴメスの喉元にちょっとだけ刺さり、血がつぅ~っと垂れた。


「なぜ殺さん?」


「ちょっと訊きたい事があってね。なぜ盗賊団アワーズに加担する?」


「俺もここまでか、こんな若造にしてやられるとは……いいだろう話してやる。


俺とアワーズの首領ガルシアは同じ孤児院で育ったなかだ。幼い頃、俺はガルシアに助けてもらった事がある。


命の恩人という訳だ。今回はその時の義理を立てただけだ」


「騎士団を襲ったのでは、レイトパラス王国でおたずね者になるだろう?」


「そんな事は百も承知、だが他の国に行けば商売などいくらでも出来る」


なるほど。国際指名手配なんて、この世界には無いのね。


「じゃ、ここで俺が貴方を助ければ、俺も命の恩人で義理を立ててもらえるわけだ」


「おい、それは屁理屈ってもんだ」


「では、死にたいのかい?貴方が死んだら孤児院で多くの子ども達が困るだろうね?」


「…………恐ろしい男だなお前は」


「ただの推測とハッタリですよ。見逃すから手を引いてくれますか?」


「解った。剣を下ろしてくれ」


「良いでしょう」


ゴメスは薄れてきた爆煙ドームの天井に向けて魔道具を使った。


花火の様に閃光が空に向って上がって行く。やがてそれは七色の光りを放ち拡散した。


「じゃあな、兄ちゃん名前は?」


「シンです。あっ、ゴメスさんのスキル使えるようになってますからね」


「つくづく食えない奴だ。たくよう、やってられないぜ全く」


ゴメスさんは悪態をつきながら薄煙の中に消えて行った。



ーー


「"猿"の連中は大した事ないけんども、こいつら手強いよ」


「へっ、言ってくれるぜ」


「きっとこいつらですよ傭兵団って」

「そうさ、お前達はもう終わりだ」

「くそっ」


「ナターシャ見て何か上がったわ」


「綺麗」

「何かの合図ね」


「あっ、傭兵団の奴ら引いていくわ」

「おい、お前達何処へ行く、約束が違うぞ戻って来い!」


「どうやら撤収の合図だったようね」


「ふっ、ふっ、ふっ」

「あんたら覚悟しいや!」

「お、お助けを……」



傭兵団が去った後、盗賊団の残党共はグダグタで騎士団と冒険者達によって全て討ち取られた。





王都に向っている馬車の中の雰囲気は最悪で、なぜか俺は正座している。


「皆さん、何か怒ってます?」

「別に怒ってないけんども」


助けて欲しいのでララとリリを見るが、2人ともへそ天で寝ていて役に立ちそうもない。


「た、多少の質問なら受付ますが?」

「帰ったらマッカラムに訊くので質問は無いぞ」


マッカラムさんに訊いても判らないと思うけどなぁ。


帰ったら暫く亜空間に閉じ籠もっていよう。

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