第16話 企み

 ロクゴウ山のアジトを壊滅した翌日、保護したフォレストキャットの従魔登録をする為にギルドに来ている


「はい、これで登録出来ました」


登録証を確認するとフォレストキャット・ララと表記された下にフォレストキャット・リリとちゃんと有った。


新しい仲間はリリ、名付けのセンスは無いのは解っているので何も言わないで欲しい。


「よく持ち堪えたな」


ギルド長のマッカラムさんがリリの頭を撫でてくれる。


「はい、助かって良かったです」


「しかし、あの時は傷だらけだし汚れていたから判らなかったがフォレストキャットとはちょっと違うな」


「そうなんですよ」


「他の猫系の魔物との種間雑種かもしれんな」


なるほど、ライガーとかタイゴンって事か。


だけど気になるのはリリの事よりサィードさんが言っていた盗賊団の王都でのでかい仕事の話だ。


ギルド長に話すわけにはいかないので、どうしよう。


考えながらギルドを出ると腕を組んでいるリサが居た。


「私が寝込んでいる間に大活躍したそうじゃない」


そうか、ビルドさんなら色んな所に行ってるし何か知ってるかも。


「ちょっと、聞いてるの?」


「今から君の家に行っていい?ビルドさん居るでしょ」

「ちょ……なによ急に、まぁ、いいけども」


「さぁ、早く」


「そんなに引っ張らなくても、……この腕輪」



これが父さんの言ってた腕輪だ。紋様がどうとかこうとか言ってたっけ。


うっ、この紋様は……勇者様の家紋じゃないの。どうゆう事……まさか、まさか……シンは勇者の子孫なの?


いえいえ、あり得ないわ。勇者様に子供はいない、勇者様もレナ様も死んだ。と私達一族に伝わる……これは史実なのよ。


でも本当に似ている。シンの出鱈目なスキルも、そうだとしたら全て納得が行く。


あ~、解らない、判らない、解らない。


ん、リサが急に大人しくなった。


「リサ、まだ本調子じゃないの?」

「へっ、なに?もう一度言って」


呆けている。やっぱり本調子じゃないのか。悪かった、走るのは止めよう。



歩くこと5分、ビルド大商会に着いた。


「いらっしゃいませ、シンさん。ブラシの調子はいかがです?」


「もうバッチリ。見てください、ララの毛並みツヤツヤでしょ」


「にゃにゃ」

「それは良うございました」


リサがララをモフモフしているロペスさんを強引に引き剥がし焦った様子で尋ねる。急にどうした?


「ロペスさん、父さんは?」

「書斎にいらっしゃいます」



ーー


「つまり、ペラスバナー王国のSSクラス冒険者から盗賊団アワーズが王都で近々なにかやらかすとの情報をもらった、と言う事かな?」


「はい、そうです」


「解せないのは、君がギルドではなく俺にその話をなぜ持ってきたかだ」


「それはですね、嘘かもしれないので世情に詳しいビルドさんに、先ずは確認しようかと」


「な~るほど」


ビルドさんは顎を擦りながら真っ直ぐ俺を見てくる。


やばい、こう突っ込まれるとは考えていなかった。やはり一筋縄ではいかない。


スキル、"平常心"なんて物があれば良いが、そんなスキルを持っている魔物なんて……いたよソードブレイカーの上位種、モリバススレイヤーの"静かなる心"だ。


魔物も達人クラスになると悟りをひらくらしい。だけど冒険者を殺戮する為に特化している所が質が悪い。


「嘘ではなさそうだな」


ふぅ~、なにげに凄いスキルだ。


「知っての通り5年前、この世界の中央に在るガルドマズル山の頂に遺跡が発見され、各国が調査団を送り込んだ。遺跡はダンジョン化してて難航しているが、我が国の調査団が最近レジェンド級の魔道具が発見したそうだ」


「つまり?」


「そのレジェンド級の魔道具を解析する為に、王都に在る王立魔法学院の研究室に持って来るそうだ」


「アワーズはそれを狙っている」

「まぁ、そうだろうな」


「で、シンはどうしたいのだ?」


「どうしたいって俺には何もできませんよ。その筋の人に伝えてもらえれば」


「簡単に言ってくれる。だいたいそのSクラスの冒険者はなぜそんな事を知ってる?何処で会った」


うっ、1つ嘘をつくと次から次と嘘をつかないといけなくなる。


「森の中で薬草を取っている時に」

「SSクラス冒険者が大した魔物も居ないのに?」


「麻痺毒消しのラルム草を探してたそうです。あれはあまりないですから俺が譲ってあげたので、そのお礼にと」


「SSクラスの冒険者なら金は有るだろう、ポーションを買えば良いのではないか?」


不味い、スキル"静かなる心"再発動。


「錬金で使うので草のままが良かったのでは?」


「むぅ、そういう事もあり得るか。……疑えばきりがない。本当に何かあったのでは洒落にならんからな。解った、ここの領主シャイン伯爵に話してみよう」


「ありがとう御座います」



ーーーー




「父さん、シンの腕輪を見たわ」

「そうか。で、どう観る」


「私は勇者様の子孫だと思う」


「勇者様に子供はいないし2人は暗殺された。お前も知っているだろう?」


「そう伝承されているだけで私が見たわけじゃない」


「……お前、何か隠しているな?」

「……」


「まぁ、良い。簡単に答えを出す問題ではないからな。しかし、もしもの時は話せよ」


「……解ったわ」








★★★★★★




「ロクゴウ山のアジトが壊滅したらしいな」

「も、申し訳御座いません」


「サィードはどうしたのだ?」

「何もせず消えたそうです」


「ふん、己の信念の為に妻や娘を見捨てたか。役に立たん奴だ」



「言わんこちゃない。だから言っただろ、あんなスカした二足のわらじ野郎なんて必要ないってな」


「あ~、悪かった悪かった。例の物の保管場所は何処か探りを入れているがガードが固い、王都に行くまでの道中で狙うしかない。頼りにしているぜゴメス」


「任せろよ。どんな騎士団だろうと冒険者が来ようと、俺達"イレイジャー"傭兵団によ」




ーーーー



2日後、心配事の無くなった俺達は体力がついてきたリリのリハビリを兼ねて手頃な依頼がないかギルドに行った。


「今日はやけに混んでいるな」


「やぁ、シン君」


「あっ、ナターシャさん、おはようございます。大物の魔物でも出たんですか?」


「いや、緊急招集さ。ガルドマズルの遺跡から王都までの護衛依頼なんだ"森の旋風"やAクラスのパーティも4組が呼ばれてる」


ビルドさん、領主様に話をつけてくれたんだ。


「3ヶ月はかかる長丁場だ」


「そうだ、ナターシャ。シン君を雇ったら?」

「シン君をか?」


「美味しい物が食べられるぞ」


「なるほど、道中長いからな。シン君、どうだ?費用は全部こちらが負担するし手当もはずむぞ」


魅力的な提案だな。遺跡も見たいし、王都にも行けるわけだ。


「分かりました」

「良し、決まり」


サィードさんの情報から思わぬ展開になった。これがこの世界で俺の数有る運命の糸の中の最初の1つになる。


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