第15話 新しい仲間 ②

 アジトである洞窟から200m手前の繁みの中に俺達は潜んでいる。この距離なら特殊なスキルでない限り悟られる事は無いそうだ。盗賊達に居ない事を祈ろう。


ここにいるのは43名。Sクラスが2パーティ、AとBクラスが4パーティずつ。そしてギルド長と何故かDクラスの俺達だ。


ギルド長の指示で役割分担が決まっていく。


「あのぅ、ギルド長、俺達はどうすれば?」


指示が無かったので恐る恐る尋ねる。


「お前達は殿だ。何かあったらシンの判断で動け。但し、この魔道具で俺に報告してからだ」


受け取った魔道具はトランシーバーみたいな物で半径50m以内なら話が出来る代物だ。


「分かりました」


俺達の事をかってくれているのか、それとも泳がされて試されているのか?


マッカラムさんは信用のおける人なので、ここは素直に従う事にしよう。


ギルド長の指示で全員全力で洞窟に向かう。俺も昇速を使い遅れずに付いていく。


もう一組のSクラスパーティ"森の旋風"はエルフのパーティで、その中の弓使いが進みながら矢を連続で射る。


距離は150m程度、放たれた2本の矢は入口の見張り2人の心臓を見事に射抜いた。


何事も無かった様に全員が洞窟に辿り着く。ここからはパーティ毎に一定の距離をとり慎重に進んで行く。


5分ほど進んだ時、ララと俺は違和感を感じた。これはバカラルのダンジョンで、リサが隠し扉を見つけた時と同じ感覚だ。


ギルド長やSクラスの人達が気付かないのだから幾重にも認識阻害魔法がかけられているのだろう。すかさずギルド長に連絡し進むと伝える。


少し驚いた感じで「解った」の一言。反論は無いのでGo!と言う事だろう。


さて、この辺りに有るのは解るがどうやって見つけよう?


困った時のリッチ様頼み。リッチのスキルと魔法の項目を検索すると既に使った事のあるスキル[コンバージョン]の下に[インバージョン]と言うのが目に入った。確か"反転"とう言う意味だったか?


それは2種類有る。インバージョンとマジックインバージョンだ。


どうやらインバージョンはスキルに対してで、マジックインバージョンは対魔法用みたいだ。


最近スキルアップしてレベルが(∞)になったので効果も解るようになった。


インバージョンは物質の構造を変化させるスキルに対してそのスキルを無効化、もしくは術者に対してその効果を返す。


マジックインバージョンも同じ感覚で魔法の無効化、もしくは術者に対して効果を返すものだ。


さすがはリッチ、貪欲な知識欲と絶え間ない探究の持ち主だ。[コンバージョン]と同様に凄いスキルを持っている。レベルの高いリッチが最強と言う説に俺は一票を入れたい。


まてよ、俺のスキルは大丈夫なのか?俺の適性鑑定によるマスター特権は、あくまでも職業(属種)を変更するもので物質の構造を変化、つまり肉体などを変えるものではないからセーフなのか?


幾度となくリッチに勝っているのだから、そういう事なのだろう。さすがにリッチも適性鑑定などと言う出鱈目な物が出て来るとは思わなかったか。


そこで俺はマジックインバージョンで魔法の無効化を選択。


すると斜め横に扉が現れた。やった!軽くガッツポーズをして、ゆっくりと扉を開ける。


洞窟内と同じように道は続いていた。50m程で扉が有ったので警戒を怠る事なく中に入る。


中は広い部屋になっていて中央に椅子やベッド、机、右奥に扉が有り左側に2m四方の檻が有った。



「にゃぁ……」


ララが悲しそうな声で啼く。


「どうしたララ?」


ララは檻をずっと見ているので俺も近づき覗きこんだ。


「フォレストキャットか?でもちょっと違うな」


適性鑑定しても、#%ー#¥%文字化けして判らない。変だな、スキルは(∞)になってるのに。


全身が傷だらけで食事も与えられていないのだろう。精気がまるで感じられない。


……ここからは俺の想像だ。幹部のバスは魔物使いのスキルを持っていた。何処で捕まえたか知らないが、この子を従魔にしようとしたが言う事をきかなかったのだろう。


そこで力ずくか……自分のレベルの低さを棚にあげやがって、なんて酷い事を。



その時だ、今までなんの気配も無かった俺の背中に気配が。


俺とララは直ぐに前に飛び出し後ろ振り返る。


「シャ~ッ!」

「誰だ!」


「ほぉ~、私の気配を瞬時に気づくとは大したものだ」


俺の全身にブワ~っと嫌な汗が流れる。ララも毛が逆立ち身体が倍の大きさに見える。


「どうやらバスの奴は下手をうったらしいな」



名称   サィードSSクラス冒険者

種族   人族 

     35歳

LV    71

体力   6500

魔力   17200


属性   火・水・風・土

スキル  鑑定・剣術・体術・気配察知・認識阻害


ユニークスキル 2次元移動


長所   正義感・リーダーシップ・家族思い

短所   一途


適性職業 国王や首長 等




なんでこの人が盗賊の仲間なんだ?おかしいだろ。


変更しようにも一致しない。だいたい正義感のある魔物なんて居る訳がない。


人のスキルがストック帳に載らない事が判って、俺のスキルに穴がないか、あれから試してみたら人から人への変更も出来なかった。つまり魔物と一致しなければレベルダウンが出来ないのだ


急に現れたのはユニークスキル2次元移動のせいだ。壁や床に入り込み自由に移動できるなんて反則だろ。


こんな落とし穴があるなんて。ララよりもレベルが高いし

ピンチだ。何とか説得しないと、盗賊に加担するなんて何か理由が有る筈なんだ。


考えろ……。テレビドラマではこう言う時、だいたい悪い奴に弱味を握られて協力させられている、と言うのがパターンだ。


「サィードさん、貴方は盗賊に加担するような性格の人じゃない」


「私の親か友人のような口をきくじゃないか」


「正義感があって家族思いの貴方だ、何か弱味でも握られているんじゃないですか?」


「なぜそんな事が判る?……そうか君のユニークスキルだな」


「そうです。俺だったら何か協力出来るかもしれません。お願いです、話してみてください」


「…………。妻と娘が身体が腐っていくという原因不明の病気なんだ」


身体が腐る?地球にも有ったな。バクテリアにでも冒されているのか?


「薬師の話ではエリクサーなら治るかもしれないと言うのだが、エリクサーはダンジョンの奥底でドロップ品で出るか精霊や妖精にでも遭わなければ手に入らない。取りに行くそんな時間はもちろん無い。幸い私には買う金は有る。しかしそれでもエリクサーは貴重品だ。エリクサーが出品されるオークションがいつ有るかも判らない」


読めた、悪党の考えそうな事だ。


「手を貸せばエリクサーをやると言われたのですね?」


「驚いたな、それもスキルの力かい?その通りだ。今度、この国の王都で大きな仕事をするので手を貸せばエリクサーをやると言われたのだ」


「でも奥さんとお嬢さんが病気になったのも盗賊団が手を回した可能性がありますよ」


これもテレビドラマでよく有る話。


「何だと!……くっ、確かにあり得る。ヴェスの奴が現れたタイミングが良すぎる。そうだったら絶対に許さん!」


良し、話はまとまった。


「ではこれを持って行ってください」


「エリクサーじゃないか……2つも。君はこれがいくらするのか知っているのか?」


時計の魔道具とドラゴンのブラシで1000万だから、万能薬で欠損部位も元に戻るエリクサーなら1億位か?


お~、1億か、今更ながら驚いた。でも後、3つも有る。俺ってお金持ち。


「ええ、大体。もうすぐ人が来ます、早く行ってください」


「見逃してくれるのか?」

「だって未だ悪い事して無いのでしょ?」

「ああ、やっていない」

「なら良いでしょ」


「俺の国は隣のペラスバナー王国だ。必ず戻って来て君の前に現れると約束しよう。それとその扉の奥には拐われた女性や子供達がいる。これが鍵だ」


サィードさんは俺に鍵を渡すと床にスゥ~っと消えて行った。怖いスキルだな、対応策を考えないとな。


扉の鍵を開けた時、ギルド長達が入って来た。


「遅くなってすまん。大丈夫か?」


「この中に拐われた人達が居ます。それとお願いが有るのですが」


「何だ?」


「この子を俺の従魔にしたいのですが」


「フォレストキャットの子じゃないか。それも生まれて間もない。……だが、もうどうにもならんかも知らんぞ」


「解ってますが何とかします」

「好きにしろ」



皆は盗賊や拐われた人達を連れて出発した。俺達はこの子を治すという名目でここに残る事になった。


やはりヒールでは傷は治っても精気は戻って来ない。欠損部位が戻るエリクサーなら何とかなるか?


心配そうな顔で見てるララを見てたら閃いた。


光り輝く湖の水が有るではないか。でもこの様子では飲ます事は出来ない。


そこで小さい亜空間に溺れない程度に水を張り、フォレストキャットの子を入れて浸してあげた。


期待を裏切らない光景が展開される。フォレストキャットの身体全体が輝き出し、みるみる内に精気が満ち溢れて来る。


「ララ、もう大丈夫だよ」

「にゃ~」


元気になったフォレストキャットは、俺に頭を擦りつけて来て静かにエジプト座りをした。


魔物使いのスキルは無くたって、フォレストキャットは俺の従魔になってくれるみたいだ。


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