第13話 大商会
ロペスさんに連れられてやって来たのはとても立派な商会だった。
「さぁ、着きました。ナターシャ様方"情熱の赤い薔薇"の皆様はあちらに、お食事の用意をさせております」
「感謝する」
先ぶれを出していたのだろう、段取りが良い。
「シン様はこちらに」
「ロペスさん、シンでいいですよ」
「ではシンさんで」
「はい」
いよいよリサのお父さんとご対面か……別に結婚の許可をもらいに来たわけでもないのだが妙に緊張するな。
応接間ぽい所に通された。キンキンギラギラの成金趣味ではなく、日本人が好みそうな渋い骨董品の壺や風景画が飾られていた。
「では、会頭のビルドを呼んで参ります」
ビルド……どっかで聞いたような。
「お父さんてどんな人?」
「お酒が好きですぐ仕事をサボる。でも不思議と人望が有るの」
「ふ~ん」
暫くすると扉が空いて、満面の笑みで体格の良い男が入って来た。
「リサ、心配したぞ、無事で良かった。君か?リサを助けてくれたのは、リサのせいで済まなかったな……えっ?」
「あっ」
「どうしたの2人共?なに?知り合いなの?」
「え~と、酒場で前に」
「酒場で?」
「お、俺は酒場の前を通っただけだ。なぁ君?」
「そ、そうでしたね」
リサの疑惑の眼差しをスルーしてビルドさんは握手を求めて来たので、それに応えて手を握る。
直ぐにお礼の話しになったが、いらないと断ったがそうも行かないらしい。
それじゃ商会が扱っている物をなにか貰うと言う事で、考えておくことになった。
「またな、リサ。疲れているだろうから、ゆっくり休んでくれ」
目配せをして秘密厳守と念を押す。
「解ってる。大丈夫よ」
ララ用にビックブルの肩ロースの下部にあたる霜降りの三角バラの肉塊のおみあげをもらって宿に戻った。
ーー
「リサ、シンの腕輪は見たか?」
「腕輪?してたっけ。ダンジョンを脱出することやその他の事が凄すぎて、そんな余裕は無かったわ。腕輪がどうかしたの?」
「今度その腕輪の紋様を見てくれ。お前の感想が聞きたい」
「分ったけど、変なの」
ーー
久しぶりに宿に戻った俺を見ても女将さんの態度はいつもと変わらない。冒険者が1週間くらい戻らない事などザラだからだ。宿代は、ひと月分払っているので問題無い。
部屋に戻って風呂に入る。
「ララも洗おうな」
「にゃ」
そういえばララのブラッシングをしてないな。ブラシを買わなきゃ。
風呂から上がりゆっくりするが怠さが残る。
「なんだかんだで大変だったもんな。リサがいたから気も使ったし。なにか役に立つスキルがあるかな?……そうだウンディーネさんの湖の水を飲んでみよう」
改めて見ると俺の亜空間スキルは、あの頃より格段に上がり、一辺の長さは最大で160mにまで大きく出来るし数も192個になっている。
水の入った亜空間に俺が作った銅製のコップを突っ込み、入った水をグイッと飲んだ。
飲み干すと直ぐに身体が金色に光りだし、輝きが収まると活力が漲っていた。
「凄いな。ララも飲むか?」
「にゃ」
亜空間の水を手にすくいララに飲ませると俺と同様に金色に輝き出す。
「にゃ~ううん」
かなり気持ち良さそうだ。
すっかり疲れも取れたので、ビルドさんからもらった商品のカタログを見てみる。
日常の小物、食品、貴族相手の嗜好品に魔道具、何でも取り扱っている。
この世界のどの国にでも重要な街には支店が有ると言っていたな。
「おっ、これがいい!」
俺が見つけたのは魔道具の時計だった。高そうだけど頼んでみよう。第2希望として目に入ったのは貴族相手の高級ブラシ。レッドドラゴンの幼体の時の体毛で出来ているらしい。
こっちも結構高そうだけどララのブラッシング用として良さそうだ。明日頼みに行ってみよう。
ーーーー
ビルド商会に行くとロペスさんがいた。大事な取引で商隊がこの街を出る時は護衛として一緒に行くそうだが、普段は、ここ本店の店長だそうだ。
ロペスさんに連れられて昨日の応接間へ。
「おはようございます」
「おはよう、君は元気だな。リサなんか疲れがでたらしくまだ寝ているぞ」
「俺は何とか動けます。リサさん心配ですね」
あまり酷いようだったら、あの水飲ませてあげるか。
「なに、大丈夫さ。それより何にするか決めたかね?」
「この魔道具の時計かこっちのブラシが欲しいのですけど?」
「こんなんで良いのか?もっと高価な魔道具も有るぞ」
「これがいいです」
「君は欲が無いな。よし、この2つと言う事にしよう」
「えっ、2つ共ですか」
「そうだ」
良かった。2つ共あまり高くない物なのだろう。
「では、お言葉に甘えさせて頂きます」
こうして両方手に入れた俺は店の方に戻った。
「望みは叶いましたか?」
「ええ、この2つです。ロペスさん、これどれくらいするんですか?」
「時計とブラシですね……確か時計が金貨45枚でブラシが金貨50枚だったかと」
「合わせて金貨95枚か。しかもブラシの方が高いし、ん……」
と言う事は地球のお金で約1000万か……。
「も、貰い過ぎです。返して来ます」
「シンさん、それは会頭に対して失礼になりますよ。どうか、お納めください」
「解りました、ありがとう御座います」
どうもまだこの世界の価値観が解ってないようだ。気を付けよう。
さっそく時計を使って見る事にする。魔力を流し込むと左手で持っている10cm位の丸い玉の表面に文字盤が浮かび次に針が浮かんで時を指した。
12時だ。因みに、この世界も地球と同じ24時間制なので違和感は無い。
「久しぶりに森に行って昼食を食べ、狩でもするか?」
「にゃう」
北に在るカランツの森にやって来た俺達は森の中にあるちょっとした広場で食事はする事にした。
周りには今のところ魔物の気配は無い。
「ビルドさんにもらったビックブルの霜降り三角バラを食べようか?」
「にゃう」
ビックブルは牛の魔物なのだが霜降りの部位はミノタウロスに匹敵すると言われている。
倒し易い分、ビックブルの霜降り肉は重宝されているが、1頭につき極少量なので一般の人達にはやはり高価な代物になっている。
「地球のブランド牛って感じだな。美味い」
「にゃ」
さて、食事も終わったし。食後の運動には少し早いが仕方ない。
途中で気がついてはいたけど面倒くさいので、放っておいたら何者かにすっかり囲まれてしまったのだ。
「ひと暴れしますか」
「にゃ」
俺とララは戦闘開始のゴングが鳴るのを待つのでありました。
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