第10話 敵か味方か?

 悪い人ではなさそうだが、勇者の姻族で鑑定スキルを持っている男が隣にいる。


「はい、神話とか歴史が好きなもんですから。田舎から出て来たので世の中の事はよく知らないし」


「神話や歴史が好きなら教会や神殿に行ってみるのも面白いかもな」


「教会や神殿ですか、面白そうですね」



「ええっ!」

「うわっ、どうしました急に大声で?」


「その腕輪はどうしたのかね?」


これは御守り代わりに両親のペンダントを付けようと思ったけど、無くしたら大変なので錬金術スキルを使ってミスリルで真似て造った物だ。


6個の宝石は埋め込んではいない。六文銭の様に模様を彫ってあるだけになっている。


「両親の形見を真似て作った物ですよ」

「そうなのか」


つい、焦ってこの男を鑑定したが無属性で錬金術か。むっ、滅多に出ない鑑定を持っている。これは俺のスキルは観られたと思った方が良いな。だが特に問題は無い。


しかしこの模様、勇者様の家紋にそっくりなのでびっくりした。


まさかな……勇者様には兄弟姉妹はいなかった、妻のレナ様と勇者様との間に子供いない。魔王を倒し御結婚されて直ぐに、何者かに暗殺されてしまった。


あの勇者様を暗殺するのだから、ただ者ではないに違いないが1000年経った今でも犯人は未だに判っていない。親しい者、我ら一族の者が手を貸したとの噂があったが……。


「すまない、つい君を鑑定してしまった許してくれ。君も俺を鑑定してくれても構わない」


やっぱりスキルが判るのか。ここは……。


「ええ。でもこのスキル、いくら頑張っても判らない事が多いんですよ」


「ハハ、確かにこのスキルを持っている人は稀だが、もともと物用のスキルなんだ。人物に使用する場合、ある程度しか判らない。その人固有のユニークスキルなど深い物は無理なのさ。そんな事が出来たら大変だろ?」


「そうですね」


そうなんだ。俺が全部判るのは適性鑑定が出来るからだろう。


「前に見たことはないが、その子はボルテックスタイガーの子供なんだね」


「そ、そうなんです」


それは判っちゃうんだ、やっぱり。


「それじゃ、邪魔したね」

「いいえ、勉強になりました」


挨拶が終わると男は酒場の入口へ向かった。出ていく男を目で追いながら広場を見ると預言者はもういなかった。


その後3日間は、どこかで予言について説いていたがそれっきり姿を見なくなった。


街の人達は誰も相手にしないので他の街に行って、いつものように"ほら"を吹いているに違いないと噂をしたが、月日が経つにつれて、そんな男の事など人々の記憶から無くなった。



だけど俺は忘れる事はないだろう。あのフード付ローブの男は神の神託を賜う預言者とは程遠い職業、盗賊だったのだから。



ーーーー



「ビルドさん大変です!」

「どうしたそんなに慌てて?」


「あの預言者が宿の部屋を出なくなってひと月経つので、金は半年分貰っていたらしいのですが、宿屋の店主も不審に思って部屋を見たそうです」


「それで?」


「中には誰も居なくて机にこの本が有ったそうです」


「何だと。お前達も見張っていたのだろう?」

「はい、外に出た所を見たものはおりません」


「お前達が気づかないのであれば、何かのスキルなのだろう仕方ない。それでその本は?」


「主人から金貨10枚で買い取りました」

「そうか、お疲れさん。ゆっくり休んでくれ」

「はい」





あの預言者は一体何がやりたかったのだ?


「サルコ、この古書を詳しく調べてくれ」

「分かりました」





ーー





あれから1週間、怪しまれない程度にダンジョンに行き稼いでいる。


街に戻って、ふと目に入ったのが教会だった。今まで気にもしていなかったので気が付かなかったらしい。



考えて見れば酒場で会った男の言う事は一理有る。神の事を知りたければ教会や神殿だろう。


「入ってみるか」

「にゃ」



あまり大きくない教会で、裏が孤児院になっているらしく

裏で元気な子供の声が聞こえてくる。



「あのぅ、お訊きしたい事があるんですが?」

「はい、何でしょう」


若いシスターが話を聞いてくれるらしい。


「女神セシル様はどの様な神なのかご存知でしょうか?」


「ええ、もちろん。セシル様は本質と時を司る女神様です」


本質と時の神か。


「この御方です」

「えっ?」


シスターが手を動かした先に女神像が有った。偶然なのか必然なのか、俺達はセシル様を祀っている教会に入ったようだ。


「あ~、優しそうなお顔をしていますね」

「そうでしょうとも」


「それでは女神ソレイユ様はどんな?」

「ソレイユ様は智の女神様です」


智の神なんだ。


「この御方です」

「はあ?」


女神セシル像の反対側の壁にも女神像があった。


「この女神様も、お優しそうで……」

「お2人は姉妹なのですよ」


ゲゲッ!姉妹なのか。


俺がこの関係性に考え込んでいると、赤いワンピースを着た女の子が入って来た。


「シスター、こんにちは」

「リサさん、また差し入れを持って来てくれたのですか」


「ええ、父がグバの実をたくさん仕入れて来たので。あら、お客様でしたか?」


女の子は俺の顔をマジマジと見てきたので俺もつい観てしまった。


名称  リサ(勇者の姻族)

種族  人族

LV  27

体力  545

魔力  2800

属性  火・水・光


長所  優しい・頑張りや・義理堅い・料理が上手

短所  おっちょこちょい


スキル 剣術・気配察知・魔力操作・昇速


ユニークスキル 魔力圧縮


加護  女神ソレイユ



また勇者の姻族だ。そしてこの子も女神の加護が有る。ここのシスターでさえ加護が無いのに。



「セシル様とソレイユ様の話をしてたのよ」


「そうなんだ。私はリサ、貴方は?」

「俺はシンと言います」


「シン?シンって、あの"見えざる神の手"のシンなの?」


なに、その微妙に気恥ずかしい響きの二つ名みたいな物は。


「なんですかそれ?」


「本人が知らないの?オーク集落を壊滅した立役者ということで、冒険者の間でかなり広まってるわ」


「あ~あれか」


俺はあの時の立役者ではないが、マジックハンマーの事だ。傍から見れば念動力だからな、初めて見ればそうなるか。


「私は商人の娘だけど修行の為、冒険者をやっているの。この間Dクラスになったばかりだけど」


「俺もDクラスだ」


「Dクラスでもう二つ名が付くなんてやっぱり凄いのね。今度パーティ組んでダンジョンに行ってくれないかしら?」


「い、良いけど。じゃ、相棒を紹介するよ、フォレストキャットのララだ」


「にゃ」


「あら、可愛い。毛が長くてモフモフね」


気がついたらリサとダンジョンに行く事になっていた。首を捻っている俺の横に、ララの尻尾で鼻をコチョコチョされているリサを羨ましそうに見ているシスターがいた。


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