第9話 預言者

 フード付きのローブを纏った隠者の様な出で立ちの男は、左手には今にも崩れてしまいそうな古い本持ち、杖を持った右手を高く掲げ大声で行き交う人々に、この世界は遥か昔の悪しき慣習の有った時代に戻って行くと説いている。


この男は最近シルベルタの街に現れ、方方で予言めいた事を言っていた。


「お父さん、あの様な者を放っておいて良いのですか?」


「良いんじゃねぇの。半分は合ってるし、平和ボケして呑気な連中が危機感を持ってくれるかもしれねえぞ」


「真面目に考えないとご先祖様に叱られますよ。私達一族には使命が有るのをお忘れですか?」


「分った、分った。ちょっと一杯やってくる」

「もう!バカ!」







「ザガン」

「はい、ここに」


「奴の持っている本は本物だ。おおかた何処かの遺跡で見つけたのだろうが、奴を探ってくれ」


「畏まりました」


俺の鑑定スキルでは、ただの人族なのだが……妙に引っかかる。この鑑定スキルが万能であれば良かったのだが。




☆☆☆☆☆☆



金貨50枚。驚いて固まっている俺の所にやって来たのは、昨日の仕返しは上手くいったと言わんばかりに、満面の笑みを浮かべたギルド長だった。


「オークジェネラルの討伐、素材、斧の代金が1頭金貨9枚で合わせて27枚。キングは討伐、素材、剣の代金が20枚。皆の治療費と感謝の気持ち代が金貨3枚で金貨50枚だ」


「そ、そうですか」

「異論は無いな?」


「はい、ありがとう御座います。でもDクラスなんて2クラスも上がって良いのですか?」


「それについては、そこのフォレストキャットの能力が加味されている。俺に鑑定スキルは無いが、坊主……いやこれからはシンと呼ぼうか、このパーティはそれ以上の力が有ると思えてならないんでね。まぁ、頑張ってくれ」


「解りました」


ーー



「やった~」


ギルドを出て俺は飛び上がった。これでいろんな物が買える。直ぐに初心者冒険者御用達の店に行く。


先ずは服だ。ヨレヨレの黄ばんだYシャツと黒ズボンは少し寂しいが卒業だ。


今は夏らしいので小物がたくさん入れられるチョッキと長袖だが通気性の良いバグスパイダーの糸で縫ったシャツ。

防水加工がしてあるズボンが1式お得用パックで売っていたので、即購入。


後はララがチョロチョロついてこなくて済むように入れるバッグを買う事にする。



「どう?」

「にゃにゃ」


猫は狭い所が好きなのでバッグの中は居心地が良いらしくご満悦だ。


「まてよ、Dクラスならダンジョンにも行けるな」


俺達は店を出てバカラル行きの定期馬車に乗った。30分ほど馬車に揺られているとスタンピードが起こってもびくともしない頑丈そうな防壁が見えて来た。



防壁の周りには、いろんな店や宿が有り小さな街となっている。


「素材買い取り専門のギルド出張所もあるんだ。凄いね」


ぐるっと街を一周した後、ダンジョンマップを売っている店を見つけた。


このバカラルのダンジョンはまだ踏破されていない。最高到達階は地下55階でレベル59のアラクネがボスだと言う。


皆が蜘蛛の糸と定期的に湧いてくるレベル55前後のフロッガルの粘液によるコラボ攻撃に手を焼いているらしい。


レベルだけで言えば遺跡のダンジョンの地下1階より低い。


「いらっしゃい、何階まで必要だい?」


[ソナーストラクチャー]スキルが有るので必要は無いけど、今日は軽く様子見で。


「地下3階まで」

「あいよ、銅貨30枚」


マップをもらってダンジョンへ。


結果から言うとホーンラビットに始まってゴブリンメイジやハイオークまでだった。このぐらいの階だとカランツの森の方が稼げるかもしれない。


早々に引き上げた俺達は街で食事をする事にした。まだ俺は18歳で未成年だが、好奇心も手伝って酒場に行って見ることにした。


店に入ると、太いソーセージやら煮込みなど美味しそうな物を食べながらバカ話をして騒いでいる。ほとんどが冒険者だろう、命に関わる職業なのでストレス発散は必要だ。


入口のところに2人用のテーブルが空いていたので座る。

対面の席にバッグを置くとララもバッグからちょんと顔を出した。


注文を取りに来たウサ耳のお姉さんに、美味しそうだった豆の煮込みと屋台で売っている串焼きをちょっと高級にした感じの肉の盛り合わせを注文する。


「お飲み物は?」


ダメ元で訊いてみる。


「ウイスキーって有る?」

「有りますよ」


有るんかい!


「じゃ、それで」


「勇者スペシャルと魔王スペシャルがありますが、どちらにします?」


勇者がいるのか?ウイスキーと名の付くぐらいだから地球人だよな。


「ゆ、勇者スペシャルで」

「直ぐにお持ちしますね」


語尾に「ぴょん」が付かなかったのは残念。


直ぐに注文した品とウイスキーが来た。どれどれ、高校生になったら1人前だと言われ、父とはよく酒は飲んだのでウイスキーは好きだ。


美味い、どちらかと言えばバーボンという感じだ。ララは、うにゃうにゃ言いながら焼肉を食べている。どれ、俺も一つまみ、これも美味い。


こうなると魔王スペシャルも飲みたくなる。


魔王スペシャルが来た。う~ん、こっちはモルトウイスキーだ。


魔王スペシャルが空になる頃、側の広場で演説が始まった。


入口なのでよく聞こえてくる。何処かで聞いたような話だな。そうだ、俺が遺跡で見た夢と同じ感じがする。


話は進み俺が気になっていた、その後の世界の話になっていく。


数の少なくなった人族は荒れた大地に現れた魔物達に屠られて行く。他の種族は助けてはくれなかった。


当然だ。奴隷として散々弄んできたのだから。人族が絶滅寸前になった時、勇者が現れたらしい。


勇者のお陰で人族は何とか生きながらえたが、魔物の数は爆破的に増え魔王が現れた。


魔王は人族に限らず全ての種族を滅ぼしにかかった。そこで他種族も勇者に協力して魔王を倒し今があるらしい。


フードの男は杖を掲げて叫んだ。


「私は神の神託を賜った。人族は再び思い上がり傲慢になりこの世界は暗黒の時代を迎えると」



え~と、つまり再びという事は、あの夢の世界はこの世界と言う事?でもなぁ、あの人って……。


俺が考え込んでいると体格の良い男が話しかけて来た。


「あの話が気になるのかい?」

「ええ、面白そうなので」


すかさず男の適性鑑定する。


名称   ビルド (勇者の姻族)

種族   人族 

     55歳

LV    47

体力   3500

魔力   7200


属性   火・水・土

スキル  鑑定・剣術・体術・気配察知・認識阻害


ユニークスキル 影斬り


長所   責任感(強)・リーダーシップ

短所   酒で失敗する事がある


適性職業 国王や首長 等


加護   女神ソレイユ

     


悪い人ではなさそうだ。俺達以外で神の加護を持った人を初めて見た。だいたい俺達をこの世界に召喚した犯人は俺達の加護神の女神様が怪しいんだよな。


おっと、見落とすところだった。勇者の姻族ってなんだよ。


今はそれは置いといて、鑑定のスキルが気になる。俺のステータスが鑑定されてしまうのか?


さて、どう対応しようか?

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